第49話 混沌渦巻く作戦会議(2)
短編も同じ時間に投稿してみました‼︎
よろしくどうぞ‼︎
「クリストファー殿下には、国王に、なって頂きます」
その言葉は、殿下だけでなく私達も驚愕させた。
いや、だってそうじゃない?
何がどうなって、クリストファー殿下に国王になって頂くの?
「………フェンネル少尉……流石にその発言は問題かと……」
殿下は胃の辺りを押さえながら、呟く。
顔も痛みを堪えるような顔で……あぁ、なんか胃痛が酷そうね。
トイズ様はそれを聞いて、にこーっと黒く笑った。
「だって、思いませんか?まぁ……過激な行動に出てしまったアリアドネ王妃にも問題はありますが……その原因はどちらにせよ、陛下です」
「父上、が?」
「そうです。新婚なのに、ちゃんとした妻をちゃんと見ない。愛人にばっかり気をやってたんですよ?そりゃあ、アリアドネ王妃も怒りますよね?過激な行動も取りたくなりますよね?」
「「「…………………」」」
…………確かに。
結婚して直ぐに愛人優先だったら、キレるわね。
そこまで言ってトイズ様は大きく息を吐く。
そして、なんとも言えない顔をした。
「それに……才女とも名高い王妃が、嫉妬で国外追放なんてちょっと変な感じもするんですけどね」
……あぁ、そういえば。
アリアドネ王妃は、才女としても有名だったのよね。
策略を得意としているトイズ様は、少し気になることがあるんでしょうね。
彼は呆れたように溜息を吐いて、続ける。
「っていうか、クリストフ国王陛下も馬鹿なんですよ。王太子と侍女の恋なんて障害ありまくりですし。せめて、アリアドネ王妃にもちゃんと愛情を向けて、侍女も側室にして問題がないようにどっかの養女にするとかすればよかったんですよ。そんなこと、思いもつかなかったみたいですけど。守る力がないなら手を出すなと。恋をするのはしょうがないとか、甘いこと抜かすなと。上手く場を丸め込める力を手にしてから、恋愛しろと」
ツラツラと語るトイズ様に、殿下は顔面の色が悪くなっていた。
……………あら?
「これ、貴方にも言ってますからね?クリストファー殿下」
「っっっ⁉︎」
そう言われた殿下はビクッと身体を震わせる。
…………なんとなく、察したわ。
「親子ですから似るもんなんですかねぇ。まさか息子であるクリストファー殿下も侍女に恋をしてるとか」
「…………うぐっ……」
「まぁ、国王陛下とクリストファー殿下の違うところは、その想いを口にしようとしなかったことですけどね。その心意気は賞賛しますよ」
パチパチと軽く拍手を送られる殿下は、そのまま消沈したわ。
ブツブツと「なんで知ってるんだ……」とか「誰にもバレてないと思っていたのに……」とか呟いている。
「あ、言っときますけど……僕の場合はエクリュ中佐のお力を使って情報収集しただけなんで。ナハーム国のプロファイリングに長けたスパイ以外は、殿下の想いに気づいている者はいないと思いますよ」
「えっ⁉︎スパイっ⁉︎」
「流石にスパイはプロですから。バレるのは仕方ないと思います」
「いや、ちょっと待て‼︎スパイがいるなんて報告受けてないぞっ⁉︎」
殿下は呆然とする。
私も驚きね。
スパイが王宮に入り込んでたなんて……でも、ルイン達は知ってたのかしら?
私の視線に気づいたのか、ルインは優しく微笑む。
なんとなく、私は質問してみた。
「ルインは知っていたの?」
「勿論。この国にスパイがいることは佐官以上の階級と、参謀部所属の軍人なら誰でも知ってるよ?でも、それくらいこの国だって使ってるからね。誤情報を与えて、相手の行動を狂わすとか逆に利用できることも多いし……誰がスパイかは把握してるけど、手は出してない感じだよ」
「…………予想よりもドロドロしてたわ」
「まぁね。戦争も諜報も、この国の汚れ仕事は全部軍部の仕事だから」
ルインはなんてことがないように言うけれど……あの、それ、かなりブラックよ?
………よくそんなに普通にしてられるわね……?
「どうしたの?」
「………嫌にならないかと思って。汚れ役をやるなんて……」
「うーん……まぁ、誰かがやらなきゃいけないからねぇ。シエラは血に汚れてる俺は嫌?」
……馬鹿ね。
聞くまでもないでしょうに。
「貴方の手が血に汚れていたって私は構わないわ。ずっと側にいてくれるなら、それでいいもの」
「うん」
ルインは蕩けそうな笑顔を浮かべて、私のこめかみにキスをする。
私もお返しするように彼の頬にキスをした。
トイズ様はイチャイチャモードに入った私達を止めるように、ワザとらしい咳払いをする。
「話を戻しますが、ブルーノ君が精霊姫に与えた情報の一つ。王太子がこの結婚を望んでないってのは……殿下の専属侍女のセシリーに恋慕の情を抱いているのをナハーム国のスパイが知ったからでしょうね。だから、ブルーノ君は精霊姫にそれを伝えたと」
「だがっ、わたしはちゃんとアイラ嬢と向き合うつもりでっ……」
「分かってますよ。さっきも言ったでしょう?貴方はその想いを口に出さず、きちんと王太子妃として精霊姫と向き合うつもりだったんだろうと。そこが国王陛下とは違うところですけど、結局、ブルーノ君からしたら同じですからね。彼は殿下にも少なからず怒ってるんじゃないんですか?」
「……………」
「………まぁ、クリストファー殿下には無理やり国王になってもらうし、精霊姫もあんなことをしでかしたら、王太子妃となるのは厳しいか……」
そう呟いた彼は、私達をじっと見つめる。
そして、聞いてきた。
「エクリュ中佐。王太子専属侍女セシリー・カサン子爵令嬢をエクリュ侯爵家養女にしてくれますか?」
「別にいいけど?」
「流石、中佐。話が早い」
…………あらあら。
別に私も拒否する気はないけど、殿下がギョッとしてるわね。
「なっ……何をっ……‼︎」
「殿下には無理やり国王になってもらうんですから、それくらいのご褒美はあってもいいかと」
「そ……そうだ‼︎話が逸れたが、どうしてわたしが国王にっ……‼︎」
「恋愛が原因で国を揺るがすような国王、いて欲しくないじゃないですか。というか、多分?国王陛下はブルーノ君に対して何もできませんよ。国家反逆罪だとしても、愛しい女の息子だから。自分の息子だからって無罪放免にしてしまいそうです」
……トイズ様は、とっても呆れたような顔で言う。
その意見を肯定するように、ルインが肩を竦めた。
「今、擬似精霊に陛下の心を覗かせてみたけど……確かに、息子の復讐を受け入れるのが親の務めとか思ってるみたい。これ、クリストファー殿下の時も同じことするのかな?」
「…………………」
「殿下の場合は容赦なく、排除しそうだよね」
ルイン……。
それ、はっきり言って……トドメさしてるわよ?
暗に自分の息子達が同じことをしたら、好きな女の子供であるブルーノ君は許すだろうけど、殿下は許さないって。
親に見捨てられるって、教えてるようなものだからね?
「………流石に国を揺るがすような原因を作った国王陛下をそのままにするのはね。だって、戦争が起きそうなんですよ?僕達は巻き込まれたんですよね?陛下がちゃんとしてたらならなかったことですよね?……もう、戦争は不可避かもしれませんが……せめて、復讐ぐらいは国民を巻き込まないところでやってもらおうと。そういう理由でクリストフ国王陛下にはご退位いただこうと目論んでます」
…………陛下の行動が原因で、今回のことが起きた。
戦争にまで発展してる。
………それだけの理由があれば、退位して欲しいと思うのも仕方ないわよね。
「………そう、だよな……愛憎のもつれで、ここまでの事態になった。責任問題で退位するのは……正当な判断か」
そして、運がいいことにクリストファー殿下は頭が良かったみたい。
胃辺りを押さえながら、殿下は頷いた。
「ちなみに、どうするつもりなんだ?戦争前に退位させるか?」
「…………そこが問題なんですよねぇ…。戦争前に退位させたら、ブルーノ君は逃げたと思って余計に怒りそうじゃないですか?」
トイズ様は面倒そうに溜息を吐く。
今まで話を聞いていたルインは、首を傾げながら呟いた。
「うーん……なんか、面倒なら喧嘩両成敗すれば?」
「「「……………え?」」」
それから、ルインが語った内容は……余りにもシンプルかつ子供っぽい提案で。
言うならば……幼稚園の先生が園児の喧嘩を両成敗するような内容だった。
「え?マジでそれで解決する気ですか?」
「戦争開始時なら、全員同じ場所にいるでしょ?そこを引っ張り出せばいいんじゃない?」
「いやいやいや、向こうだって兵を揃えて……」
「俺の前じゃ無意味だよ」
ニコッと笑うルインは、とっても爽やかで。
というか、凄い自信溢れる笑顔なんだけど?
「それに、皆の前でソレをやれば、国王を退位させやすいでしょ?」
「…………………」
結論。
なんか色々と面倒になって思考を放棄したらしいトイズ様とクリストファー殿下は、その作戦を了承しましたとさ。




