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第47話 《穢れの王》になるかもしれなかったヤンデレ旦那様


【注意】

どうしてこうなったのでしょうか。私にも分かりません。

何故か恋愛なのに、バトルに走るという謎展開。

訳が分かりません。


苦手な人はバックしてね。






こんなにも、遣る瀬無い気持ちになるのは……初めてだった。



半精霊である俺は、精霊姫と会うことでどうなるか分からないからという理由で、シエラと共に行くことができなかった。

もしかしたら、なんでもないかもしれない。

でも、最悪を想定したら……俺は精霊姫に従ってしまって、シエラを傷つける存在になるかもしれない。

こんなにも、精霊王の息子に産まれたことを恨んだことはなかった。



…………いや、まぁ……ハーフで産まれた以上、自分の両親を恨まなかったことがない訳じゃないんだけど。


それよりも、今の方が苦しい。



愛しいシエラが怪我をするかもしれない。

そんな場にいるのに、俺だけがいれなくて。

運命すらも捻じ曲げると決めたのに、もうそれ以前の問題だった。


どうして、俺はこの執務室にいるんだろう?

今すぐ、シエラの隣に……行きたいのに。



「………ぁ……」


その時、学園の方で凄まじい量の精霊術が発動したのを感じた。

…………きっと、精霊姫が何かしたんだろう。

シエラは、自分の身ぐらいは自分で守れるくらいには強い。

でも、それでも俺が彼女を守りたかった。

悲しいことからも、苦しいことからも、痛いことからも……全部から守ってあげたかった。



なのに、今の俺は……無力だ。



力が欲しい。

どんなものからも、守ることができる力が。

強くなりたい。

誰にも、害されることがないように……。





『力が、欲しいか?』





その声に、俺は精霊術で出現させた光の槍を背後に放つ。

しかし、俺が背後を振り返ると同時に……その槍は消えた。


「っっ‼︎」


気配すら察することができなかった。

そこには、黒いヘドロを纏ったかのような人が立っていて。

真紅の瞳だけが、その黒に覆われた身体で唯一分かる色で。

酷く、曖昧な人型カタチをしていた。


「…………お前は……誰だ?」

『俺は、お前だよ。ルイン』


黒い泥人形のようなモノはケラケラと笑う。

その声は酷く不気味で、冷や汗が背筋を伝う。


「…………俺…?」

『そう……俺はお前の数多ある可能性みらいの一つ。《穢れの王》となったお前』

「…………《穢れの王》」


それは、負の感情に飲まれた俺のこと。

滅びを、穢れを振り撒く災厄。

………でも、なんで《穢れの王》が俺の目の前に……?


『力を渇望する意思をアンカー(きっかけ)にして、同位体であるお前の元へ現れたんだよ』

「…………そんなこと、できるのか……?」


つまり、こいつは数ある可能性(未来)から来た《穢れの王》となってしまった俺で。

こいつは時を、超えたということになる。

そんなことが、できるのは……まさに神ぐらいしかいない。


『あぁ、できるさ。俺は半精霊であり、半神だ。そして、《穢れの王》たる俺は周りの精霊力を奪い自身の力にすることができる。多少の制約は付くが……時を超えることぐらい、造作もないことだ』


《穢れの王》はズルリ……ズルリッ……と汚泥を撒き散らしながら、俺に近づいてくる。

そして、濁った真紅の瞳で俺を睨んだ。


『お前は、狡い』

「……………………は?」

『数多ある可能性の中で、お前だけが唯一救われたんだ』

「…………………え?」


《穢れの王》は語る。

過程は違えど、俺以外のルイン・エクリュはいつも残酷な目に遭うと言う。

ドラゴンへの生贄にされ、王族のペットにされ。

軍部の慰みモノにされ、奴隷に売られ。

エルフの憂さ晴らしに殺され、誰にも愛されず、利用され続けて。

ありとあらゆる怨嗟を抱きながら死ぬことで……《穢れの王》となるのだと。

そして、《穢れの王》は精霊姫アイラ・ジキタリスに殺されたり、相討ちしたり、逆に殺し返したり。

世界を彷徨ったり、滅ぼしたり……あらゆる災厄を振り撒く存在になるのだと、こいつは語った。


『だが、お前だけは。シエラ・ジキタリスがいた。お前を唯一とする女がいた』

「…………シエラが……」

『愛されて、精霊術が使えるようになって。お前は生贄とされるはずだったドラゴンさえも返り討ちにした。病み()を抱えているのに、あの女はお前を受け入れた………狡いと、思わないか?』


……………数多ある可能性(未来)

破滅しかないその中で唯一救われた俺……。

その事実が、シエラへの愛しさを募らせる。


『だから、力をやろう』

「…………は?どうしてそこに繋がる……?」


《穢れの王》は真紅の瞳を楽しそうに細めて、俺の首に手を伸ばそうとする。

本能的に嫌な予感がして、俺はそれを横に飛び転ぶようにして避ける。

ブワッ……と感じる恐怖は、尋常じゃない寒気を感じさせる。

《穢れの王》はそんな俺を見て、更に笑った。


『力が欲しいんだろう?なんで逃げる?』

「………………」

『………やはりお前も俺だな。無駄に危機察知能力が高い』


あぁ……やっぱり。

背筋がゾワゾワする。

これは……死を間近にした、恐怖。


「何を、する気だ」

『………………』

「答えなければ……」

『………はぁ…簡単なことだ。俺がお前に、成り代わるだけだぞ?』

「……………は?」


俺は目を見開く。

こいつが、俺に、成り代わる?


『力が欲しいんだろう?なら、俺がお前になれば万事解決だ』

「…………何を……」

『俺はお前で、お前は俺。ほら、何も問題ないだろ?』


…………問題ありまくりだろう。

こいつが俺になるってことは、俺とシエラは離れ離れになるってことじゃないか。

シエラの隣に立つのが、こいつになるってことじゃないか。

そんなの、許せない。



俺が望んだのは……俺自身・・・がシエラを守ることなんだから。



『安心しろよ。お前になった暁には……シエラをちゃぁーんと愛してやるからさ』



その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何か・・がブチ切れた。



「殺す」



俺の身体から、闇の粒子が溢れ出す。

だけど、合わせ鏡のように《穢れの王》からも闇の粒子が溢れ出して。

俺は闇の剣で、奴に斬りかかる。


『あははっ‼︎やっぱりお前は俺だな』


しかし、その言葉通りに《穢れの王こいつ》も俺で。

同じように闇の剣を出現させて鍔迫り合いになる。

………いや……向こうの方が、スペックは上だった。

ギリギリと押される俺は、回し蹴りを放って距離を取る。

蹴りが脇腹に入る前に、汚泥がそれを防御したからダメージは通っていない。


…………完全に、こちらが負けている。

でも、俺は止まらない。


「チッ……‼︎」


闇の槍を無数に放つが、その全てが吸収されてしまう。

そして、お返しとばかりに槍が倍になって返ってくる。

防御壁で守るが、衝撃に耐えきれず……執務室の壁を吹き飛ばしながら、俺は外へと放り出される。

吹き飛びながら……俺は考えていた。



どうすればいい?


どうすれば、《穢れの王》に勝てる?



『どうして勝てないんだと思っているだろう?』


《穢れの王》の声が、ジワリと耳元で囁く。

裏拳を放とうとする前に、俺は地面に叩きつけられていた。


「かはっ……⁉︎」

『それはそうだ。俺以外のルインは救われる可能性を信じなかった。だから、絶望したように自分の世界に閉じ篭っていた。だが、そんな閉じ篭っているぐらいなら……救われる可能性を目指して旅する俺の力になった方がマシだろう?俺は、時を超えた先々で出会った《穢れの王おれ》を吸収してきたんだよ』


…………なんなんだよ、それ。

そんなの……俺じゃあ……。



『だから、諦めて俺に代われ。ルイン・エクリュ』



《穢れの王》が俺の首に手を伸ばす。

ここまでなのか……と絶望しそうになる。

けど……。



ーーーールインーーーー



視界の端でストロベリーブロンドが揺れる。

葡萄酒ワインレッド翡翠エメラルドの瞳が、蕩ける様を思い出す。

その声が聞こえた瞬間、俺は逆に奴の首を掴んでいた。


『っっっ⁉︎』


駄目だ、諦めたら。

だって、俺にはシエラがいるんだから。

シエラのために運命すらも捻じ曲げると決めたんだから。

だから、俺はーーー。



「許サナイ……許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ」



俺からシエラを奪おうとする奴を。

俺以外がシエラの隣にいようとするのを。



シエラは、俺のだ。



『ーーなっ⁉︎』

「許サナイ」


俺は思いっきりこいつの力を奪い取る。

存在自体を奪い取る。

記憶も、想いも、狂気も。

全部、全部、全部。

俺のモノとする。

逃げようと足掻いても、逃がさない。

俺からシエラを奪おうとしたもう一人の俺を、殺す。


『やめーー』

「死ネ」



ゴキッ……。



俺が握った部分から嫌な音がして、ダラリと頭が前に落ちる。

振り子のように揺れる頭を見ながら、俺は《穢れの王》を燃やした。


「……………」


俺がこいつで、こいつが俺。

なら、こいつにできることが俺にできないはずがないと判断した。

そして、それは俺の予想通りだった。



俺の中で渦巻く《穢れの王》が抱いていたモノ。


血塗られた記憶、思い。


狂気の坩堝で、地獄のような笑い声が響き渡る。



…………常人だったら、気が狂うんだろうけど。


「………ちょっと、嫌な感じがするだけで……普通にいつも通りなんだけど……」


うん。

まぁ……《穢れの王》の力を吸収したからか、だいぶ俺自身の力が増えたけどね?

なんか、かなーり黒々とした危険な感じの力だったんだけど……何故か、俺の中で浄化され始めてしまっていて。

えっと……うん。



「……………愛は世界を救うってことかな?」





ちょっと、この浄化の理由がよく分からなかったから………そう結論づけることにした。







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