第46話 精霊姫と復讐者
シリアスさん、いらっしゃいですね。
苦手な人はバックしてね。
再び風邪ひきました。
私の投稿はできないやもしれません。
僕の言葉に、その場にいた方達は息を飲みました。
洗脳したのが復讐のためで。
復讐のために叛逆を起こすなんて、いきなり話が大事になっているのでは?と思われるかもしれませんが……でなければ、〝王家が戦争をしようとしている〟なんて言わないと思うんですよ。
……それがデモ程度で済むのか、内戦になるまでかは分からないが、最悪の事態を想定しなくてはいけませんね。
「精霊姫を洗脳した理由は幾つか思いつきました。王家と敵対させて、王家を潰すため。半精霊であるエクリュ中佐を、精霊姫の力を持って取り込むため。もしもの際、精霊姫の力を戦力にするため……ですかね」
「戦力だと?戦争でもするつもりなのか」
「可能性の話ですよ、あくまでも。それに内戦の可能性もあります」
……戦争、ですか。
その可能性は今は低いと思いますが……彼が戦争と言った単語を使った以上、やはり警戒を怠る訳にはいけませんね。
「問答無用で捕縛しに行ってもいいんですが……もし、黒幕がいるなら、下手に手を出すより先に情報収集が重要になります。エクリュ中佐」
「分かってる。俺の精霊力を好きなだけ使っていいよ」
「なんなら、私のも使っていいわ」
エクリュ中佐だけでなく、エクリュ夫人まで精霊力を差し出してくれました。
ある意味、最強たる二人のお力をお借りすれば……集められぬ情報はないでしょう。
「では……失礼して」
舌舐めずりをして、オレは本気で情報収集を開始する。
……………数十分後に得た情報は……まさに驚愕の事実だった。
*****
合宿へ向かうため、一度学園に集まった生徒達を見て……私は息を吐く。
昨夜は驚きの連続で疲れたわ。
一応、イヴリン様にも確認したけど……どうやら今回の件は完全に乙女ゲームにも存在していなかったことのようで。
つまり、この世界は乙女ゲームの世界じゃなくて、似ている世界だと肯定することになったわ。
そのお陰で、私はゲームの強制力を恐れる必要がなくなったのは、嬉しい誤算ね。
ちらほらと人が集まってくる中、あの子が現れる。
その顔はとても晴れやかな笑顔を浮かべていて。
その背後にはいつものように侍従君が付き従っている。
………………さて、ここからが私の出番ね。
「アイラ」
私が声をかけると、周りがしんっ……と静まり返ったわ。
只ならぬ空気だって、なんとなく察したのかしら?
アイラは私を見て……その顔に憎悪を滲ませる。
……………背筋が凍りそう。
「シエラ」
〝お姉様〟と呼んでいたのに、呼び捨てにするなんて。
驚きだわ。
「………………私、聞いたの」
「………何を?」
「王家の言葉があったから、ルイン様はシエラと結婚したんだって。結婚せざるを得なかったんだって。ルイン様を使って戦争をする気なんでしょう?だから、貴女と結婚させたんでしょ?」
「違うわ」
「嘘つかないでよっっっ‼︎」
アイラは叫ぶ。
その瞳には、ちらりと狂気の炎が見えた。
「………私が、精霊姫である私が。ルイン様を救うの。だって、ルイン様は半精霊なんだもの。私が好きに決まってる。だから、シエラ」
「……………」
「ルイン様と別れなさいよ」
その言葉を聞いた瞬間ーー。
私達を包囲していた軍人と精霊術師団員達の隠蔽が、解除された。
「きゃぁっ⁉︎」
「どうして軍人と精霊術師団がっ⁉︎」
「何事なんだっ‼︎」
騒ぐ生徒達に、デルタ総帥が「騒ぐなっっ‼︎」と叫ぶ。
たったそれだけで、その場にいた生徒達は黙り込んでしまって。
流石、総帥ね。
人を支配下に置くのがお上手だわ。
「………何…これ……」
アイラもこんな展開は予想していなかったのか、愕然とする。
そう……ここには、事前に包囲網を作って、精霊術で隠蔽していたの。
ルインを除いた全員で、ね。
本当は私がいるからと、ルインも来たがった。
でも、相手は精霊姫だもの。
半精霊であるルインが、彼女に強制的に従ってしまうという最悪を想定して……彼が来ることは許されなかった。
代わりにトイズ様とアダム様が来ているけどね。
そんな時、彼女の背後でズサッ‼︎と何かが地面に倒れる音がした。
「逃げようとするな‼︎」
そこには、彼を取り押さえたアダム様の姿があって。
私は……そこでやっと、彼へと視線を向けた。
「ごめんなさいね、ブルーノ・マスア。貴方の計画は全部こちらに筒抜けなの」
「………っ…‼︎」
そう……そこにいたのは、アイラと同じように憎悪の炎を身に宿した男。
ブルーノ・マスア。
ジキタリス伯爵家アイラ・ジキタリスの侍従であり……アイラを洗脳した犯人。
そして……。
「それとも、クリストフ国王陛下の〝落胤〟とでも呼んだ方がいいかしら?」
「っっっ⁉︎」
『なっ⁉︎』
私の言葉にその場にいた人々は驚愕する。
そう……彼の目的は復讐。
母親と自分を捨てたこの国……王族にね。
「アイラを使って、この国の王族を殺すつもりだったんでしょう?」
「…………」
「でも、そんなことはさせないわ」
私を憎悪の瞳で睨みつけるブルーノ。
その瞳から顔を背けながら、私は女男へと視線を向ける。
「………アイラ・ジキタリス様とブルーノ・マスアを捕縛しろ。相手は精霊姫様だ。なるべく、傷がつかないように」
女男が精霊術師団の団員に指示をする。
だけど、その前にブルーノが叫んだ。
「アイラっっ‼︎ここにいる奴ら全員、君とルイン様が結ばれることを否定して、アイラを殺そうとしている‼︎暴れてでも、殺してでも逃げろ‼︎」
ブワァッッッッ‼︎
無数の炎が燃え盛り、人々の叫び声が満ちる。
炎は、一直線に私に向かった。
「精霊‼︎」
『うん‼︎』
防御壁を展開してそれを防ぐが、炎は益々増えていく。
私は舌打ちをした。
「精霊……アイラの術は発動を止められないの?」
『うーん……無理かも……。なんか…よく分からないけど、ボク達から精霊術を止めることができないよ』
『強制力があるって言うのかな?精霊姫の力?アイラが精霊術を発動させると決めたら、ボク達は発動せざるを得ないって感じ?』
「…………そう……」
つまり、精霊姫の精霊術はどうしようと発動するって訳ね。
アイラの方は……うわぁ、顔がイっちゃってるわ。
あの顔、絶対あの子もヤンデレ予備軍でしょう?
「あはははっ……邪魔するなら消えて。私とルイン様の仲を引き裂こうとするなら消えて。消えて、消えて、消えて……」
「………思いっきり呪詛を吐きまくってるわね……」
精霊術発動のために差し出した精霊力が消費されたからか……炎が消え始める。
完全に消える瞬間を狙って、私は拘束の精霊術を発動してアイラを縛りつける。
だけど、向こうも最強の精霊術師とも言われる精霊姫。
拘束を解いて、今度は水の槍を数十本単位で生み出してきた。
「無差別に放つかもしれないわっ‼︎」
私の叫び声に近い忠告で、精霊術師団の人達が生徒達に一気に防御壁を展開していく。
そして、私の予想通りにアイラは水槍を一斉放射した。
再び防御壁を展開して、それを防ぐ。
「あぁ、もう‼︎なんでこんなバトル漫画的な展開になってるのかしら‼︎」
「エクリュ夫人」
いつの間にか私の側に来ていたトイズ様が、アイラを一瞥して神妙な顔をする。
「………だいぶ、精神に異常をきたしてますね。かなりの量を一気に使われたんでしょうか?」
「………量も関係するの?」
「えぇ。アレは少量ずつを長期的に使用しないと、かなりヤバイんです。小瓶一つ一気にいったら……」
「あぁなるってことね」
高笑いしながらアイラは次々と攻撃魔法を放つ。
この場にいる精霊術師の中で対抗できるのは私ぐらいしかいないでしょうし……一体、どうすれば……。
「精霊姫を気絶させることはできますか?」
「…………同じ精霊術師だから……精霊術じゃ微妙ね……」
「………となると……精霊術で援護してアダムが……」
「手伝う?」
「「っ⁉︎」」
気づいたら、無表情なエルフが私達の会話に混ざっていて。
トイズ様は目を見開いて、彼女を指差す。
「華姫?」
華姫?
華姫って……三大危険人物の?
彼女は無表情のまま私を見つめて、頷く。
「シエラ、助けてあげる」
「え?」
「甥っ子の、ため」
甥っ子?
私がその言葉を理解するよりも先に、華姫さんは精霊術で木の人形を無数に召喚する。
そして、アイラに放った。
「行って」
『ギャァァァァァァァァ‼︎』
木の人形は気味の悪い叫び声を挙げながら、アイラに殴りかかる。
アイラもそれに集中したのか、木の人形を燃やし始める。
……………本当の怪獣戦争みたいになってきたわ……。
「………あぁ……大事に……」
トイズ様も流石にこの展開は予想してなかったのか、溜息を零す。
というか、なんで華姫さんが協力を?
「……………」
「……………」
私と華姫さんは互いに見つめ合う。
そして、彼女はふわりと……びっくりするぐらいに可愛い笑顔を浮かべた。
「ルインのお嫁さん、これからよろしく」
「……………え?」
「ルイン、ワタシの甥っ子。家族、だね」
「……………えっ⁉︎」
華姫さんってルインのおば様なの⁉︎
流石の私も驚きよ⁉︎
「…………うわぁっ⁉︎」
そんな時、背後からアダム様の叫び声が聞こえる。
何事だと思えば、彼は思いっきり空を飛んでいた。
…………えっ⁉︎
「アイラっ‼︎ルイン様をちゃんと手に入れるために今回は逃げるぞっ‼︎」
ブルーノは既に走り出していて。
私は彼に拘束の精霊術を発動させる。
「させないっ‼︎」
「《解けろ》っっ‼︎」
「なっ⁉︎」
ブワァッ……黒い光が放たれた、私の精霊術が無効化される。
ブルーノは木の人形達も黒い光で溶かしながら、アイラに接触する。
そして、同じような黒い光に包まれて……その場から消え去った。
…………………。
静まり返るその場。
その日、アイラとブルーノは……この国から姿を消した。




