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第45話 …………流石に、もう乙女ゲームの世界じゃないわね。


シリアスですね。

よろしくどうぞ‼︎






夜のいつもの日課である、二人っきりの触れ合いの時間。



甘やかすような優しいルインの手が、私の頬を撫でる。

髪を梳く指先が頭皮に触れたり、うなじに触れたりするのがくすぐったい。

でも、それが心地いいわ。


私は、ルインの膝の上で彼の心臓の音を聞いていた。


トクトクと少しだけ早い音。

生きてると実感できるその音に、安心するの。


「あー……三日間もシエラと離れてて、俺、大丈夫かなぁ……」

「それはこっちの台詞よ?」


そう……私は明日から、二泊三日の合宿に行く。

ゲームの第一イベントってヤツね。

学園所有のコテージに泊まるんだけど、イメージ的にいうとキャンプ合宿みたいなものかしら。

まぁ、貴族の子供が行くからカレーを作ったりはしないけど。


「結婚してずっと一緒にいたから、三日間だけでも離れるのが辛い」

「そうね」

「ねぇ、転移して会いに行ったら駄目?」

「………駄目。アイラに会って欲しくないもの」


精霊術(転移)が使えるルインにとって、会いに来るのは簡単だけど、私に会いに来るのが原因で義妹に会ってしまうのは嫌なの。

私、我儘ね。


「ごめんね、我儘を言って」

「………どうして?シエラの我儘は可愛いよ」

「………我儘が可愛いってなんか変だと思うわ」

「だって、本当だよ?我儘を言うのは嫉妬からでしょう?それだけ俺が好きで、俺に我儘を言ってもいいって信頼してるからでしょう?」


ルインは笑う。

とっても、嬉しそうな笑顔で。

私は苦笑しながら、彼の首に腕を回した。


「………うん、信じてるわ」

「………シエラ……」


ゆっくりと近づいていく唇。

それが触れ合いそうになった瞬間……。



『ルイン、シエラ‼︎大変‼︎』



「「っ⁉︎」」


精霊が大慌てで声をかけてくる。

普段なら二人っきりでいる私達を精霊が邪魔することはない。

だから、それを邪魔してまで話しかけてくるってことはそれだけ緊急事態だってことで。

ルインは嫌そうな顔をしながらも、「どうした?」と返事をした。



『アイラ‼︎洗脳されちゃった‼︎』



「「……………はぁ?」」


その言葉は私達の思考を止めるのには充分で。

ちょっと待って?

今、なんて言ったの?


「アイラって……アイラ・ジキタリスか?」

『うん‼︎あのね……』


精霊達は今、ジキタリス家で起きたことを説明する。

がある小瓶の中身を飲ませたら、アイラが洗脳されてしまったと。


「………どうして復讐に、あの女を洗脳する必要が……?」


ルインもことが大事だからか、険しい顔になる。

ちょっと……流石にこれはゲーム云々って話じゃないわよね?


「………ルイン……」

「……取り敢えず、トイズに連絡する」


ルインは精霊術を行使して、トイズ様に連絡を取る。

それに介入して、私も話を聞こえるようにしたわ。


「夜分遅くにごめん。緊急事態だ」

『……どうされました?』

「精霊姫アイラ・ジキタリスが洗脳されたらしい」

『…………はぁ⁉︎』


トイズ様も驚きを隠せないのか、大声を出す。

そして、先程精霊に聞いた情報を彼に伝えた。

…………全てを聞き終えると、トイズ様は黙り込んでしまったわ。


『…………現時点で分かってるのは、の目的は復讐で……。洗脳によって、精霊姫はエクリュ中佐を狙うことにしたってことですよね?』

「…………あぁ……最悪なことにね」


………ゲームでもこんなことが起きていたのかしら?

だから、異母妹は攻略対象を狙った?

…………分からないわね。

同じ転生者であるイヴリン様に連絡を取りたいけど、秘匿性が高そうな案件だから……厳しいかしら……?


『何故、復讐に精霊姫を洗脳する必要があったのか……あぁ、嫌な予感がしますね』

「「………………え?」」


トイズ様は焦ったような声を漏らす。

そして、ルインに聞いた。


『彼は復讐対象について呟いていましたか?』

「精霊」

『そんなの一言も言ってなかったよ?』

「呟いていないって」

『………僕の思い過ごしならいいんですけど……』


精霊達も彼の復讐対象については聞いてないみたいね?

トイズ様はそれを聞いて大きく溜息を吐いた。


『こうなると、事が大き過ぎますね……仕方ありません。緊急案件として国王に謁見しましょう。本件は王族が関わっています。報告してからでないと、動くのは危険です』

「分かった。なら、俺が転移させる。十分後、迎えに行く」

『畏まりました』


連絡を切ると、ルインは私をソファに下ろして準備を始めようとする。

私はそんな彼の服の袖をつかんだ。


「私も行くわ」

「………でも……」


ルインは、険しい顔をして目を逸らす。

大変なことになるかもしれないから私をこれ以上関わらせたくないんでしょうね。

でもね?


「アイラは私の異母妹よ。身内の不始末は身内が片付けないと」

「…………分かった」


私の言葉に彼は渋々頷いてくれる。

ごめんね、我儘を言って。

でも、ルインが関わるなら私の問題でもあるから。





こうして……私達は、王宮へ向かうことになったわ。






*****





急な謁見にも関わらず、国王陛下は対応して下さったわ。



夜も遅いということで、応接室に案内された私とルイン、トイズ様は怪訝な顔をする国王陛下と対面した。


「こんな夜深くにどうしたんだ?」

「実は……緊急事態になりまして」


トイズ様が代表して異母妹が洗脳されたことを説明する。

すると、国王陛下もまさかそんな大事だとは思ってなかったのか……ギョッとしたわ。


「エクリュ中佐からの情報だと、小瓶の中身を飲ませていたとのことです。多分、例のクスリ・・・かと」

「…………報告に聞いていた《エデン》か?」

「はい」


クスリなんて単語が出てきて、私は首を傾げる。

すると、ルインが説明してくれた。


「《エデン》って?」

「危険ドラッグ。液体タイプで粉末やタブレットよりも強い精神向上作用があるんだ。でも、その分副作用も大きいし……人によっては、精神状態がおかしくなるから、場所によっては洗脳の道具の一つとして使われてるんだよ」

「…………洗脳…?」

「《エデン》を飲むと、現実と非現実の誤認識が起きるからね。要するに真実と嘘がごちゃ混ぜになっちゃうんだ。だから、クスリで頭が朦朧としている時に、嘘を刷り込ませることができるって訳だよ」


なるほど……だから、アイラはそのクスリを飲まされたから、簡単に洗脳されてしまったってことね。

…………楽園エデンなんて名前だけど、それ、相当危険なヤツなのね……。


「何が目的だ?」

「洗脳をした彼の目的は、復讐で。一方、精霊姫はルイン・エクリュ中佐を手に入れることです」

「……………どうしてこうなったんだ……」


頭を抱える陛下。

まぁ、そうよね。

精霊姫なんていうある意味、危険人物同等の人が洗脳されたんだもの。

何をするか分かったもんじゃないわ。


「……精霊姫は現在、クリストファー殿下の婚約者です。ですから、国王への報告後に行動をした方が良いかと」

「………独断先行しないという良心があったんだな……」

「すればよかったですか?」


陛下の呟きにトイズ様がすっごい笑顔で答える。

陛下は苦笑しながら「止めてくれ」と言ったわ。


「とりあえず、アイラ・ジキタリスに吹き込まれた情報は三つ」


一つは、クリストファー殿下には好きな女性がいて。

アイラとの婚約は彼も本当は望んでいないということ。

二つ目は、私達の結婚は政略結婚だったということ。

王家が認めた婚約だったため、恋愛結婚のフリをしているなんて、馬鹿なことを吹き込まれたらしいわ。

そして……最後に。



王家がルインを使って、隣国に戦争をしかけようとしていること。



「………上の二つは分かるが、最後のは……」

「えぇ……僕の推測が正しければ」


トイズ様は険しい顔で国王陛下を見つめる。

そして……口を開いた。





「彼が復讐でしようとしているのは………叛乱・・です」





………流石に、もう乙女ゲームの世界じゃないわね。







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