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第44話 ストレス胃痛と戦う王太子


地味に王太子が良い人だという話です。

よろしくどうぞ‼︎







アイラ・ジキタリス伯爵令嬢が婚約者になった以上、わたしは彼女と交流しなくてはいけない。


早速、王宮にアイラ嬢をお呼びすることになった。




「こんにちは。この間振りだね」

「…………ご機嫌よう……」


エクリュ侯爵夫妻の関係者だと思うと胃がキリキリとするが、わたしは王子の仮面を被って挨拶をする。

しかし、彼女はとても浮かない顔をしていて。

わたしは心の中で首を傾げる。


「……今日は、いい天気ですので。庭園にお茶の用意をさせました。どうぞお手を」

「…………ありがとうございます……」


アイラ嬢はエスコートに素直に従うが……手が触れる時に、一瞬の躊躇いを見せた。


前も感じたように、面倒ごとの予感がする。






庭園の東屋で、アイラ嬢と向かい合うようにしてお茶を楽しむ。

…………一応、楽しんでいるつもりなんだが……こうも相手に悲痛な空気を出されてしまうと、美味しいものも美味しくない。

わたしは小さく溜息を吐いて、彼女に聞いた。


「言いたいことが、あるのでは?」

「………………っ‼︎」


アイラ嬢は驚愕に顔を染める。

………その目はなんで分かったのか?と問うているようで。

………君、自分がポーカーフェイス演じられてたとでも思っているのか?


「流石のわたしでも、そんなに悲痛な空気を出されたままお茶をするのは気が進まないんだ。体調が悪いのか?」

「違っ……‼︎」

「なら、この婚約が嫌だと?」

「っっっ‼︎」


…………そういうことか。

どうやら、アイラ嬢はわたしとの婚約が嫌らしい。

まさか、そこまでエクリュ侯爵に惚れ込んでいるとは。

………こんな様子なら、父上がわたしと急いで婚約させるのも納得だ。


…………この女が彼に近づけば、ほぼ確実にエクリュ侯爵がキレそうなんだから。



「…………他に好きな人でも?」


本当は知っているけど、あくまで知らないフリをしながら情報を聞き出す。

情報があるのとないのでは、行動の仕方が変わってくるからな。


「………わ……私っ……‼︎」


アイラ嬢は急にボロボロと泣き出す。

その、人間としては駄目なんだろうが……流石のわたしも若干引いてしまいそうだった。



「好きな、人とっ……結婚するのは当たり前だって……‼︎でも、私……‼︎他に、好きな人が……私っ、お姉様のっ……ルイン様をっ……好きにっ……‼︎」



普通だったら、泣いてる女性を慰めるべきなんだろうが……どうしよう。



この子は、普通に王族に相応しくない。



まず情緒不安定過ぎる。

貴族令嬢なのだから、令嬢の仮面を被ることは大事なことだ。

じゃないと魑魅魍魎が跋扈する社交界で生きていけないから。


次に素直過ぎる。

どうして普通に、姉の夫に恋をしたことを暴露できる。

普通に駄目だろう?

恋はするものじゃなくて落ちるものだと聞くから、恋をするのは仕方ないのだろうが……それを口に出すのは問題だと思う。


国のためにも精霊姫をこの国に縛りつけるため婚約したが……これ、本当に大丈夫なんだろうか?


というか、こいつ、本当に貴族令嬢か?

政略結婚が当たり前で、エクリュ侯爵夫妻みたいに恋愛結婚の方が珍しい貴族の世界で……恋愛結婚したいなんて言うとか、庶民的な考え過ぎないか?

わたしは、ボロボロと大泣きする彼女を見ながら……大きく溜息を吐いた。


「君は、エクリュ侯爵に恋をしたのか?」

「………っ……」

「で?どうするつもりなんだ?」

「……………ぇ…?」

「まぁ……まだ、君は想いを口にしただけ・・だが……その想いを果たすために動こうとするならば、話は別だ」


父上は、アイラ嬢が暴走してエクリュ侯爵夫妻の仲を裂く事態になることを危惧していた。

なら、ここで釘を刺しておかねば。


「少なくとも……想いを言葉にした現時点で、君はわたしを傷つけた」

「…………ぇ…?」


まぁ……実際には、この話は聞いていたから傷ついてすらいないのだが。

それでも、多少の脚色は貴族との会話では当たり前だからセーフとしよう。


「君がその想いを口にしたのは、君の婚約者にだ。婚約者となったわたしが、傷つかないとでも?」

「……………ぁ……」

「婚約したばかりで恋愛感情がなかったとしても、婚約者に他に好きな人がいると言われれば少なからず傷つく」


そう言えば、その事実に今気づいたみたいで。

…………わたしはもう既に疲労困憊だった。


「だから、君はその想いを誰にも言ってはいけなかったと思うよ」

「な……んでっ……」

「心の中で留めておくだけなら、誰も傷つかないからだ」


言葉にすれば、誰かを傷つける。

誰かを貶めてしまうことだってある。

だから、言葉にするというのは慎重にしなくちゃいけない。



………況してや、恋愛結婚で相思相愛の夫妻に亀裂を入れるようなことなんて。



…………精霊と会話ができるらしいエクリュ侯爵はもうこの状況も把握しているかもしれないな。

わたしは憂鬱になりながら、彼女に諭す。


「君が言った想いは、相思相愛の幸せな夫婦に亀裂を入れるようなことだと、分かっているか?」

「それはっ……‼︎」

「叶わぬ恋をして傷ついているのは自分だからと。相手のことを考えるのを疎かにしてないか?」


………どうして、わたしがこんなことを言わなくちゃいけないんだ。

完全にお門違いな気がする。



「その想いを、自分勝手に果たそうとした時。その時に壊れるだろう関係を理解しておいた方がいい」



…………恋愛もマトモにしたことがない子供が、何を言っているんだろうか?

まぁ、でも……これでそう簡単に変な行動は取れなくなったはずだ。

………エクリュ侯爵の気分が害されるような事態にならないよう……後は祈るしかない。





……………取り敢えず、後で王宮医師に胃薬を処方してもらおう。






*****





殿下が異母妹と共に昼食を取る。



側から見れば婚約者同士の交流って感じなのだろうけれど、どうしてあんなに暗い空気が漂ってるのかしら?



私とネッサ様は野次馬気分で、中庭で二人っきりで食事(側仕え達はカウントしない)をする姿を、カフェテリアの窓から見ていた。




「………わたくしの思い違いかもしれないんだけど……なんか、暗い空気よね?」


あぁ、やっぱり?

私だけが感じてた訳じゃないのね。


「何かあったのかしら?まだ婚約者になったばかりなのに……」

「そうね……」


…………精霊に聞いた話だと、どうやら殿下が異母妹に釘を刺してくれたみたいなのよね。



アイラの恋心が、私達を傷つけることになるって。



私とルインはそれを知った時、とっても驚いたわ。

だって、殿下がワザワザ私達のためにそんなことをする必要がないもの。

………いや…まぁ、ルインが暴走しないように機嫌取りの可能性もあるんだろうけど……でも、ちょっと感動したわ。


他人のために、あそこまで言う人は少ないと思うもの。


きっと、彼は他者を思いやれる良い王になるわ。

ルインも自分達のためにストレス胃痛と戦って、注意してくれる殿下に好印象を抱いたみたいだし。

後ろに控えていた侍女達も、殿下の言葉に感心してたしね。


でも……今後、殿下に言われたにも拘わらず、私達の仲を引き裂こうとしたら……やっぱりあの人の娘なのねって。

親と同じことをするのねって納得してしまいそうだわ。

………そうしたら…ルインじゃなくて、私が闇堕ちしそう……。



………まぁ、とにかく。

その件が理由で二人の関係がギクシャクしているなら……申し訳なくも思うわね。


「シエラ様?」

「あぁ……考え事しちゃってたわ。ごめんなさい」

「いいえ、大丈夫よ?どうかしたの?」

「ううん、大丈夫。急がないと、昼休みが終わってしまうわ」


私とネッサ様はそれから他愛もない会話をして昼食を済ませる。






ちらりと中庭を見れば、相変わらず二人は気まずい雰囲気のままだった。






〜余談〜


王宮の侍女達の間では、この前の王太子とその婚約者の会話が噂されていた。


「ねぇねぇ、聞いた?あの婚約者の話」

「聞いた聞いた‼︎王族との婚約だっていうのに……それが嫌だって。他に好きな人がいるって、婚約者本人であるクリストファー様に言ったんでしょう?」

「それも、好きな人って自分の義姉の夫であるエクリュ侯爵だって‼︎」

「えぇ……そんな最低なことある?」


侍女達はそんな会話をしながら、お茶を飲む。

ここ最近の休憩室での会話は、もっぱらこの話ばかりなのだ。


「でも、殿下が逆にあの婚約者を諭すようなことを言った時は感心したわ。あの子、貴族とは思えないようなことばかり言ってるんだもの」

「あぁ……確かに。あのままだったら、恋に盲目になって本当に何かやらかしそうだったもの。今頃、殿下のお言葉のおかげでちゃんと考えてるんじゃない?」


あの庭園でのお茶会で控えていた侍女二人は、殿下の姿に感心したと他の侍女達に話す。

そんな中、一人の琥珀色の髪を持つ侍女が休憩室に顔を出した。


「何をしているの。休憩は終わりよ」

「すっ……すみませんっ‼︎」


王宮侍女三年目である彼女は、殿下専属になるほど確固たる地位にいる。

休憩していた侍女達は慌てて、お茶を飲み終えて……仕事へと戻っていった。


「………はぁ……もう‼︎」


殿下の株が侍女達の中で上がっているのは喜ばしいのだが、もう少し噂が収まらないと……殿下の胃痛が治りそうにない。



王太子の仮面を被るのは無駄に上手いが、あの人は、無駄にストレスに弱いのだ。


いつの日か胃に穴が空きそうで、気が気じゃないほどに。





彼女は、王宮医師に胃に優しい薬茶をもらいに……その場を後にした。




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