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第38話 早速フラグが立っていた(その裏ではトラウマも育っていた)


よろしくお願いします‼︎






入学式のために講堂に向かって行く。

確か、校門のところで初イベントがあったはず。

私が考え事をしながら歩いていたら……トントンと肩を叩かれた。


「ご機嫌よう、シエラ様」

「………ぁ…ご機嫌よう、ネッサ様」


振り返るとそこには、ハーフアップの髪型をしたネッサ様がいた。

縦ロールを卒業したネッサ様は、いつもトイズ様に頂いた髪飾りをつけているの。

彼女は心配そうな顔になる。


「大丈夫?顔が険しいわよ」

「えぇ……今日から異母妹がこの学園に通うので」

「まぁ……何か不安なことでも?」

「えぇ……多分、もう少ししたら分かるわ」


私とネッサ様はそのまま一緒に行くことにした。

流石に一つ歳上のネッサ様とは席が離れてしまうけどね。


「では、また後で」

「えぇ」


席に座って始業式が始まるのを待つ。

そんな時……講堂内が一気に騒ついた。

生徒達が愕然としながら後ろを振り返る。


そこには……金髪碧眼の美青年……クリストファー殿下が、一人の少女をエスコートする姿。

ふわふわのピンクの髪に、翡翠の瞳。

可愛らしい顔立ちに、小動物のような庇護欲を駆り立てる雰囲気。



…………アイラ・ジキタリス。



……………あの子、早速フラグ立てたわね?



私はそれを見て溜息を吐く。

でも、現実は変わってくれない。

殿下はアイラをエスコートしたまま、高等科二年生がいる席に連れてくる。


「どうぞ、アイラ嬢」

「………ありがとうございました……殿下」


…………嫌だ…もうピンク色の空気になってるじゃない。

あぁ……そういえば、ここに来るまでの会話で親密度が変わるんだったかしら?

殿下は生徒会役員の席に向かって去って行く。

はぁ……周りの令嬢達の視線が怖いわぁ〜……なんだかんだと言って殿下の婚約者、いないものね。

ポッと出の令嬢を敵視するのは当たり前だわ。

そう思って傍観者を気取っていたら、ガバッと背後から抱き着かれた。


「お姉様っっ‼︎」

「っっ‼︎」


………背負い投げしなかった私を褒めて欲しいわ。

私は思いっきり息を吐いて、彼女の手をゆっくりと離す。


「ごめんなさい。貴女、私をお姉様って呼ぶことは……」

「………えっ……⁉︎お姉様、私のこと、忘れたんですかっ……⁉︎」


目を潤ませて震えるアイラ。

いや、分かっているけど……この態度は駄目だと思うのよ。


「十年近く会っていなかったのよ?最後に会った時と今は姿が違うわ。成長しているんだもの。だから、確かめたいと思うのも仕方ないと思わない?」

「…………あ……ごめんなさい……そうですよね。十年も会ってなかったら、私も立派な淑女レディになってますものね‼︎」


立派な淑女はいきなり抱きついたりしないのよ。

アイラはニコニコと笑いながら、そこそこ見てとれるカーテシーをしてみせた。


「アイラ・ジキタリスです。お姉様、お久しぶりですわ」

「久しぶりね……でも、アイラ」

「はい?」

「もう少しお淑やかになさい。周りの視線に気づかないの?」

「………ぁ……」


アイラはそれで周りの冷たい目に気づいたのか、頬を赤くしてモジモジとする。

あざといわね。


「ごっ……ごめんなさい……お姉様に会えたのが嬉しくて……」

「私も会えて嬉しいわ。でも、今は始業式前だからまた後でお話ししましょう」

「はい‼︎」


アイラは輝くような笑顔を浮かべて、席につく。

周りの視線が痛いけど、我慢するしかないわね。

できれば……精霊にアイラの心を見てもらったりしたいのだけど、精霊の声もアイラに聞こえてしまうわよね……。



あの子は、精霊に愛される《精霊姫》なんだから。





あぁ……初っ端から面倒な予感が止まらないわ。




*****




………わたしは、先程エスコートしたアイラ嬢を見て、ゾッとする。



だって、彼女はドラゴンスレイヤーの奥方に抱きついたのだから‼︎

つまり、彼女はエクリュ夫人の知り合いということで。

一つ歳下で同じ生徒会役員であるジェームズもそれを見て、顔面蒼白だ。


「で……殿下……あの……」

「……言わなくても……なんてことをしたんだと後悔しているよ……」


ジェームズは同志だから分かるのだが、エクリュ夫人に関わるのは鬼門だとよく理解している。



何故なら……彼女はドラゴンスレイヤー……ルイン・エクリュ侯爵の妻なのだから。



ドラゴンを単独討伐するだけでなく、精霊王の息子であったと知った時は本当に心臓が止まるかと思った。

精霊王というのは、精霊術という恩恵を与えて下さった、まさに神と同等の存在。

そんな方のご子息なんて……どういうことだって感じだ。

そんな方がエルフに迫害されていて、殺されかけていたという事実は、エルフ達にもかなりの衝撃を与えたらしい。

精霊信仰はこの世界に生きる者達の中で、一番エルフが強い。

そんな精霊の血を引くエクリュ侯爵を、自分達が傷つけていたこと。

王宮精霊術師団にいるエルフ達が暫く使い物にならなかったらしいので、エルフの里にいる者達はもっと酷いのだろう。



加えて、今はハイエナと騎神さえも直属の部下になっているのだ。

ハイエナはエグい戦略家であり、騎神も凄まじい武力を持っている。

ただでさえ……エクリュ侯爵だけでも過剰戦力であるのに、あの二人が加わったら……。

あぁ……背筋がゾワっとするな。

世界を滅ぼせる、というのも強ち間違いではない。

…………いや……エクリュ侯爵単独で世界を滅ぼせるらしいのだから、ハイエナ達がいるのはそれを楽にさせるだけか……。




そんな危険人物のエクリュ侯爵は、エクリュ夫人に関することだけは、とっっても狭量だ。

万年新婚夫婦なんて呼ばれているらしいが……彼の力を把握している者としては、怖過ぎて口が裂けても言えない。

冗談とか軽口とか言えやしない。

できるだけ、あの危険人物に関わらないようにしていたのに……エクリュ夫人の関係者らしいアイラ嬢に関わってしまったなんて。

なんたる不覚……。


「……………」


ジェームズはとうとう、プルプルと震え出した。

………彼も昔は俺様だったのに、随分と真面目になったものだ。

原因はやはり、エクリュ侯爵夫妻だという。

それだけ二人に関わったのがトラウマになっているんだろう。

というか、人格が変わるほどのトラウマって相当だよな?

あぁ……何故だか、わたしの手も少し震え始めて……。


「おーい、だいじょーぶか〜?」


気が抜けるような声で、エイブラハム先生が声をかけて下さる。

しかし、わたしの震えは止まらない。


「だ…大丈夫です……ちょっと恐怖と戦ってるだけなんで……」

「いや、始業式ぐらいでなんの恐怖と戦ってるんだよ……」


呆れたように先生は言うが、あの二人に関わったことがなー…いや……前、クリスタとエクリュ夫人の決闘で審判をやったか?

まぁ、とにかく。

あのエクリュ侯爵の威圧を浴びたことがないから、分からないんです。


「まぁ、頑張れよ〜」

「「…………………」」




こんなにも、他人事で言われることに、怒りが湧いたのは、初めてな気がする。




そんな感情が湧きながらも、始業式が開始される。


あぁ……王族として、生徒会長として、トラウマを抑えて頑張らなくては。





とにかく、アイラ嬢に関わるのはなるべく控えよう。

うん。








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