第34話 思わずどこか遠い目をしてしまったわ……。
長くなっちゃうので、分けたら短くなりました‼︎
ごめんね‼︎
よろしくどうぞ‼︎
晴れやかな日差しの中。
今日、私は結婚式を挙げる。
精霊の布で作られたウェディングドレスは前も話したように、マーメイドラインの美しいもので。
髪も綺麗に結い上げて、薄化粧をした私は緊張した面持ちでドレッサーの前に座っていた。
ジキタリス家からは誰も参加していないから、カラミティ工房で働くミラさんや、化粧が得意な人がわざわざ私のために手伝ってくれたの。
感謝しかないわ。
「皆さん、ありがとう」
「いいえ‼︎シエラ様はそれほどまでにわたくし達によくして下さってますもの‼︎」
「はい、これぐらい当然です‼︎」
「お綺麗ですわ、シエラ様‼︎」
最後にマリアベールを被り、私は控え室から出て行く。
新婦が入って行く聖堂前の扉には、お父様の代わりにリチャード様がいた。
「お父様の代わりを頼んで申し訳ありませんわ」
「いいや。素晴らしい役目を賜らせてくれたんだ。感謝してるほどだよ」
リチャード様は優しく笑って私に腕を差し出す。
私は微かにその腕を取って、前を向いた。
「ラティも来てるよ」
「…………ラティナ様、が?」
来ないだろうと思っていたけれど、一応……お母様にも招待状を出していた。
だから、リチャード様の言葉に驚いてしまったわ。
「うん。大切な娘の晴れ舞台だからね」
あぁ……それだけで、私はお母様を自殺から救うことができてよかったと思うわ。
もう泣いてしまいそう。
「さぁ、行こうか」
ゆっくりと開かれる扉。
レーフ侯爵夫妻と、それ経由で出会った貴族の方達。
軍部の第五部隊の人達は、もう号泣しちゃってるわ。
なんだかんだと長くルインとも私とも一緒にいたから、感動してくれてるみたい。
カラミティ工房の皆さんも、私の姿を見て目を潤ませている。
私の姿は、工房の皆さんの想像通りになったかしら?
ロータル侯爵は、いつもの険しい顔じゃなくて少し優しげな顔になってるわね。
ネッサ様は私のウェディングドレスを見て、目を輝かせているわ。
きっと、トイズ様が素敵なドレスを用意してくれるから大丈夫よって言ってあげたい。
ルインの直属の部下であるトイズ様はネッサ様の可愛らしい反応に頬を緩めているし、アダム様は大声を出しそうになったのを急遽お呼びしたイヴリン様に無理やり阻止されて。
最後の二人だけコントみたいだわ。
そして……少しだけ、ぎこちないけど優しい顔で微笑んでくれるお母様。
あぁ……ちゃんとお母様にウェディング姿を見せられてよかった。
「シエラ」
名前を呼ばれて、私はヴァージンロードの先を見た。
そこにいるのは……式典用の軍服を着たルイン。
彼は、蕩けるような笑顔で私を見つめていて。
私もそれに答えるように笑顔を向ける。
「ルイン」
リチャード様のエスコートから離れて、彼の腕を掴む。
やっと、貴方と結婚できる。
こんなに嬉しいことはないわ、ルイン。
「とっても綺麗だよ」
「ルインも凄く格好いいわ」
「あはは、ありがとう」
神父様の前に立ち、私達はこれから誓いの言葉を口にする。
この国において、結婚式とは新郎新婦が自らの誓いを口にして、それを神父様が聞き届ける。
加えて、結婚届に署名をしたら成り立つという流れになっているの。
だから、これから聞くのはルインの誓いの言葉。
「わたし、ルイン・エクリュは、いついかなる時も、死したとしても、永遠に妻シエラを愛し抜くことを誓います。たとえ、世界を敵にしても。シエラのためなら運命さえも捻じ曲げてみせるよ」
………運命っていうのは、ゲームのシナリオのことなんでしょうね。
ルインなら、本当に捻じ曲げちゃいそう。
でもね?
「私、シエラ・ジキタリスは……永遠に夫ルインを支え、愛し、共に朽ち果てるまで寄り添うことを誓います。たとえ、世界の敵になろうとも……私だけはルインの側にいるわ」
ルイン一人ではやらせない。
私とルインで運命を変えていくの。
だから、ルイン。
一緒に頑張りましょう?
「うむ。誓いの言葉を聞き届けました。では、署名を」
私とルインは結婚届に署名をする。
それを神父様が確認して……ゆっくりと頷いた。
「おめでとうございます。これにて、晴れて新たな夫婦が誕生しました。二人の未来に幸多きことを‼︎」
沢山の拍手に包まれて、私は目を潤ませてしまう。
前世のように誓いのキスはないけど、これでちゃんと夫婦になれたんですもの。
充分だわ。
「シエラ」
「なぁに?ルイー…⁉︎」
グイッと強く抱き寄せられた次の瞬間、私の唇はルインの唇に塞がれていた。
大きく目を見開き、彼の真紅の瞳を見つめる。
ゆっくりと離れた唇は……にっこりと弧を描いていた。
「誓いのキス、だよ」
「………どうし、て……」
どうしてルインがそれを知っているの?
そう聞く前に、ルインは少し不機嫌そうな顔をした。
「苦肉の策だったけど、ノートン嬢に聞いた。もしかしたら、前世の結婚式でやりたいこととかあったかもしれないなぁ……って思って」
小声で呟かれたその言葉に、私は目を見開く。
だって、私のためにそんなことをしてくれたんでしょう?
そこまで、心を砕いてくれたのよ?
感動しない方が、おかしいでしょう?
「だから、これもね」
ルインは懐から、小さな箱を取り出す。
その中に入っていたのは、婚約指輪に合うように作られた……美しい瑠璃色の光を放つ蝶をモチーフにした結婚指輪。
ルインはそれを左手の薬指につけてくれる。
あぁ……もう……幸せ過ぎて泣きそう。
「ルイン、ありがとう……愛してる」
「………うん…俺も……」
私とルインはもう一度キスをしようと顔を近づけていく。
そして……。
『うんうん、幸せそうで何よりだ』
「「……………………」」
その声で固まった。
……………えっと……うん。
私とルインはギギギッと油の切れた人形のように、ゆっくりとそちらを振り返る。
観客席……というか、親族の席の中に交ざる一人の人物。
いや、なんでいるの?
というか、周りの人は気づいてない感じなの?
あの、人の世界に干渉しちゃいけないんだって……貴方自身が言っていたわよね?
「な、ん、で……」
ルインもプルプルと震えながら、彼を指指す。
そこで、やっと周りにいた人達も彼に気づいたみたい。
顔と黒髪紅眼が一緒だから、ルインの関係者だとは分かるわよね。
でも、ハーフエルフのルインが、エルフ達から迫害を受けていたのは殆どの人が知っているし。
じゃあ、この人は誰?って感じでギョッとしながら、ルインとその人を交互に見る。
そんな周りの反応を無視して……その人は……満面の笑顔で、ドヤッァ……‼︎って顔をした。
『息子の結婚式だ。父親が来ないのはおかしいだろ?』
…………………。
ぶちりっ……隣でルインの何かがキレた音がしたわ。
「この、職権乱用(?)ジジイがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ‼︎」
……………次の瞬間、ルインの右ストレートが炸裂する。
『ウギュッ⁉︎』
ダイナミックな弧を描いて空を舞う正装姿の黒髪の男性……。
………………つまり、精霊王が殴られ飛んでいたわ。
えっと……職権乱用って言ったのは、人の世の不干渉を精霊王が破ってるからなのかしらね。
じゃなくて、どうして冷静に解説してるのかしら?
それほど、精霊王がいたのが衝撃だったからなのかしら……。
というか、どうしましょう……?
これから、私達の結婚式が残念なものになる気がしてならないの。
私は、思わずどこか遠い目をしてしまったわ……。




