第31話 デビュタントと思わぬ出会い
今後もよろしくお願いします‼︎
あれからなんだかんだと時間が過ぎて、私は今日、新年の舞踏会でデビュタントを迎える。
煌びやかな王宮のダンスホール。
私は淡い虹色の光を放つ真っ白なドレスを身にまとって、式典用の黒軍服を着たルインにエスコートされていた。
「綺麗だよ、シエラ」
「うふふっ、ありがとう」
私のドレスは、首元からデコルテまでがレースでできたノースリーブタイプ。
ノースリーブタイプのドレスも今までなかったみたいなのよね。
カラミティ工房のミラさんに話したら、デビュタントのためにって、私のドレスがお披露目一号になるようにしてくれたの。
ふわりと広がる裾は薄地のレースを幾重にも重ねているから、余り重さを感じさせないし。
ちょっとだけ、結婚式の予行練習みたいだわ。
………まぁ、この精霊の布、ウェディングドレスにも使っているんだけどね。
周りの皆さんの、私のドレスを見た驚きの顔が凄いわ。
とっても高いらしいしね。
「………やっとだね」
「…………えぇ」
「成人おめでとう、シエラ」
「ありがとう、ルイン」
ルインは私の手を口元に運んで、優しくキスをする。
一週間後には、私達は結婚式を挙げる。
かなり前から準備していたけど、でも直前になると感慨深いものがあるわね。
リチャード様に助けてもらいながらだけど、色々と大変だったわ。
主に招待客の準備とか準備とか準備とか……。
今から楽しみだわ。
「シエラ様」
「ネッサ様」
ロータル侯爵にエスコートされたネッサ様が、にこやかな笑顔でこちらに歩いて来る。
そして、互いにカーテシーをした。
「成人、おめでとう」
「ありがとうございますわ」
ネッサ様は一歳年上だから、もう既に成人済みなのよね。
ギルバート様の件があって、国に忠誠心が高い令嬢と少し注目が集まったけれど……ハイエナのお気に入りパワーは凄いわね。
未だに新しい婚約者ができてないわ。
まぁ、ネッサ様からしたらラッキーでしょうけど。
「そのドレス、とても素敵ね。初めて見る生地だわ」
「そうらしいわ。なんでも、私達への結婚祝いとして……私のドレスを作ってくれている工房に届けられたものらしいの」
「まぁ‼︎そんな高そうな生地を頂けるなんて……流石ね」
ネッサ様は普通にニコニコと言うけれど、ロータル侯爵はこの生地がなんなのか分かっているみたいね。
この布、滅多に出回らないらしいから分かる人の方が珍しいのに。
「あ、トイズだ」
そんな時にルインが言った言葉に私は視線を向け、ネッサ様は顔を真っ赤にする。
少し離れたところには……アダム様に付きまとわれるトイズ様の姿。
あ、ちなみに……アダム様は爵位持ちじゃないけど、伯爵家に婿入りするらしいから、エスコート役として参加しているらしいわ。
あぁ、相変わらずあの二人はセットなのね。
あ、こっちに気づいた。
「エクリュ中佐っ‼︎」
「おい、犬っころ。待たないと書類仕事させるぞ」
「イエッサー、ボス‼︎」
……うわぁ、凄い。
完全に手綱を握ってるわぁ……。
「あの方は……?」
ネッサ様も初めて見るのか怪訝な顔をする。
ルインはいつも通りの二人を見ながら呆れた声で答えた。
「アダム・ネルック二等兵だよ。分かりやすく言えば騎神」
「ぶふっ⁉︎」
ロータル侯爵が侯爵なのに思いっきり噴き出す。
まぁ、そうよねぇ。
三大危険人物の二人が一緒にいるんだもの。
二人はこちらに来ると、トイズ様は礼儀正しく。
アダム様は勢いよく頭を下げた。
「シエラ様。この度はデビュタント、おめでとうございます」
「おめでとうございます‼︎」
「ありがとうございます、トイズ様。アダム様」
そのままトイズ様はネッサ様に視線を向ける。
ネッサ様……茹ってしまっているわね。
「お久しぶりです、ネッサ様」
「………お久しぶり、ですわ……トイズ様……」
「フェンネル少尉、こちらの女性はー……」
「黙れ、アダム。黙らないと特別調教コースにするぞ」
「失礼しましたっっ‼︎」
トイズ様。
特別調教コースとは、なんぞや。
アダム様の顔面が蒼白なんだけど。
「ネッサ様がよろしければ、ファーストダンスを踊って頂けますか?」
「…………でも……」
ネッサ様がロータル侯爵に視線を向ける。
ロータル侯爵は、若干顔色悪く……ゆっくりと頷いた。
「………好きにしろ」
「っ‼︎では、喜んで‼︎」
ネッサ様が、差し出されたトイズ様の腕を取る。
そのまま二人は人混みの中に消えて行った。
あら、流石。
抜かりなくエスコートしていったわね?
「相変わらず手が早いなぁ」
「……………」
「ルイン。アレは手が早いんじゃなくて、他の人に邪魔されないように離れただけよ。強かと言うのよ。ロータル侯爵が勘違いなさってるわ」
「……………いや……うむ……」
あら?
この様子じゃもう諦めかけてるわね。
まぁ、その方がいいと思うわ。
トイズ様を敵に回すと面倒そうだもの。
「さて、アダム。お前、エスコートするはずの婚約者はいないのか?」
ルインは話を変えるように声をかける。
すると、彼はキョトンとしながら答えた。
「え?」
「相手は?」
「あれ?」
…………まさか……この会場の中に置いてきたんじゃ……。
「どこに行ったんだっ⁉︎イヴリーンっ‼︎」
「煩いですぅ〜」
バシンッ‼︎
アダム様の頭が凄い勢いで叩かれる。
彼の背後には、小柄な体格の眠そうな少女。
藍色のふわふわした髪に碧眼。
彼女は大きなあくびをしながら、とろんとした目でアダム様を見た。
「イヴリンっっ‼︎」
「うぐぇ」
アダム様は犬耳と尻尾をボンッ‼︎と勢いよく出して、婚約者らしき彼女に勢いよく抱きつく。
というか、どんどん顔色が悪くなってるんだけどっ⁉︎
「ちょっとアダム様‼︎顔色、婚約者様の顔色が危険な色にっ……」
「えっ⁉︎あぁぁっ‼︎イヴリンっ、一体誰がっっ⁉︎」
「テメェですぅっ‼︎」
バシーンッ‼︎
再び勢いよくビンタされるアダム様。
………アダム様は叩かれてるのに、ニコニコと笑っていた。
「そんなに元気なら大丈夫だな‼︎」
「………はぁ……なんでこんなに面倒くさいんですかねぇ……ゲームより面倒になってるじゃないですか……」
あら?
最後に小さく呟いた言葉に私は目を見開く。
そして、彼女……イヴリン様に声をかけた。
「ご機嫌よう」
「え?ご機嫌よ……」
イヴリン様は私を見て、目を見開く。
そんな彼女に私はカーテシーをした。
「私はシエラ・ジキタリスと申します」
「え、あぁ……イヴリン・ノートンです……」
「ちなみに、義妹のR指定される行為を見る羽目になる義姉をどう思うかしら?」
「っっっ‼︎」
イヴリン様は私の言葉に目を見開く。
そして、アダム様を押しやってガバッと勢いよく私の手を握った。
「まさかっ……シエラ様もですかっ⁉︎」
「えぇ。ちなみにルインも事情は把握してるわ」
「〜〜〜っ‼︎やっぱり……‼︎わたしと同じ人がいると思ってたんです‼︎だって、ルイン様が結婚するなんてゲームのシナリオになかったから‼︎」
イヴリン様は泣きそうになりながら勢いよく私に抱きつこうとする。
しかし、そうなる前にルインとアダム様に止められた。
「ストップ。俺のシエラに抱きつかないで。っていうか、俺のこと名前で呼ばないで。呼んでいいのはシエラだけだから」
「イヴリンっ‼︎おれ以外の人に抱きつかないでくれ……」
アダム様が子犬のように耳をしょげさせて、イヴリン様の頬にスリスリと頬を寄せる。
私はルインに念話で告げた。
(どうやら私と同じ転生者みたいだわ)
(あぁ……そういうことね)
ルインは私に抱きつこうとしたからか、イヴリン様を警戒する。
それでも私は彼女に声をかけた。
「イヴリン様、お友達になって下さる?」
「えっ、あ……はい‼︎」
「後でお茶会でもしましょう」
そこで丁度、王族の方達の登場の時間になり……挨拶が始まる。
まぁ、所詮挨拶だからそこら辺は省くけれど。
国王夫妻が最初に踊り、それぞれがその輪に参加し始めた。
私達もここでする話ではないと判断して、そこでダンスに参加していく。
ただのデビュタントと思っていたけれど、思わぬ出会いだったわね。
「シエラ。あの女に会う時は俺も一緒ね」
「あら、どうして?」
「抱きつこうとした奴は女であろうと許さないからね。とにかく、今は俺のことだけ考えて」
そう言ってルインはさっきよりも強く私を引き寄せる。
その目には嫉妬の色が滲んでいて。
私はクスッと微笑む。
「女の人にも嫉妬しちゃうの?」
「言ったでしょ?シエラに関してだけは俺の心、凄く狭いんだよ」
ルインは私の頬に微かにキスをして、少しだけ頬を赤く染める。
うふふっ……凄く愛されてるわね。
「大丈夫よ。私はルイン一筋だから」
「知ってるけど。それとこれとは別だからね」
あぁ……もう幸せ。
ルインが嫉妬するってことはそれだけ私のことを愛してくれてるってことだもの。
嬉しいわ。
ルインが私だけを見て、一緒にダンスを踊る。
少しだけ彼が嫉妬してしまったけれど、素敵なデビュタントではあったわ。




