第30話 騎神はワンちゃんだったらしい
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その日、私はルインの屋敷で聞いた言葉に首を傾げた。
「………えっと、今、なんて?」
「………直属の部下に騎神が増えたんだよ……」
前に、トイズ様のハイエナという渾名の件でついでに聞いた……三大危険人物の一人(近衛騎士団所属)だったはず。
その人が、ルインの直属の部下に?
「何が起きたの?」
「いや……うん。自業自得かなぁ……」
遠い目をするルインは、かなり疲れているみたい。
私は彼の頭を抱き締めるようにして、頭を撫でた。
「……その……騎神ってアダム・ネルックっていうんだけどね。すっごく猪突猛進馬鹿正直頑固で、融通の利かない超強い破壊神だったんだけど……」
なんか、それだけでかなり危険人物だと思うんだけど?
というか、どんだけ頭が固いの?
「俺が伸したんだよ」
「…………あら…」
でも、そんな人よりもルインの方が強いのね。
少し誇らしいわ。
「で。あいつがそうなってたのって、騎士団で暴れられなかったからみたいで……ほら、騎士団って守る専門だからさ?軍部に移ればって言ったら、本当に移ってきちゃったんだよ……」
「それは確かに自業自得ねぇ……」
そういうのは冗談でも言わない方がいいのよ。
ルインは「というより」と悔しそうに呻く。
「アダムの器物破損による騎士団の予算不足という裏事情がある」
「………………」
「つまり、今後、アダムが器物破損させたら軍部の予算が………」
…………つまり、ルインの言い分を利用されたって訳ね。
というか、なんかその裏事情……ショボいわね。
「シエラ。だから、あいつの調教が済むまで、軍部に来ないでくれるかな?」
「え?」
「頭が固いから、シエラのこと、不法侵入者だって殺そうとするかもしれないから」
…………ねぇ。
それって、本当に、大丈夫なの?
そこまでいっちゃってるの?
普通に用事があった人も、殺しちゃわない?
「そんなことになったら……俺、アダムだけじゃなくてこの世界ごと潰しそうだからさ?」
そう言ったルインは、想像だけで黒い粒子を溢れさせていて。
ここ最近は安定してたけど、久しぶりに出たわね?
私は彼の名前を呼んで、こちら側に連れ戻す。
「分かったわ。終わったら、また会いに行くわね」
「うん。直ぐに終わらせるよ」
その後ー。
ルインと暫く連絡が取れなくなったりしつつも、数日後には、彼にまた軍部に来て大丈夫だと連絡をもらったーー。
*****
という訳で、久しぶりに来た軍部のルインの執務室。
そこに、ルインとトイズ様……そして……。
犬耳と尻尾を生やした青年がいた。
金髪に榛色の瞳……聞いていた特徴から、彼が騎神アダム様だとは分かるんだけど……。
流石に獣人だったとは聞いてなかったわ。
「むっ。なんの御用か、令嬢。ここはルイン・エクリュ中佐の……」
「アダム。ハウス」
「ハッ‼︎」
ルインの言葉に、アダム様は敬礼をして部屋の隅で直立不動する。
…………えっと……これが、融通が利かない騎神?
忠犬みたいになってない?
「ネルック二等兵。こちらエクリュ中佐の婚約者であられるシエラ・ジキタリス様です。今後、この執務室においでになることがあるので、その空っぽの頭に最優先事項で書き込んどきなさい」
「イエス・サー‼︎フェンネル少尉‼︎」
「………………」
えっと、うん?
どういうことかしら?
「シエラ」
「ルイン」
彼に呼ばれて、取り敢えず思考を止める。
そして、彼の元に歩み寄って……彼の膝の上に腰かけた。
「えっと……彼のことは聞いても大丈夫かしら?」
「あぁ、うん。取り敢えずね。トイズに馬鹿の調教はどうしたらいいかを聞いたんだよ。そしたら、力技で完膚なきまでに叩き潰して、逆らえなくすればいいって」
ルインが語った内容はその……えっと。
うん、まさしく犬の調教って感じだったわ。
ルインは、模擬戦と称して本気でアダム様を潰しにかかったらしい。
でも、アダム様も騎神と呼ばれるぐらいだから無駄に体力があって。
三日三晩ほど、ずぅっと戦闘してたとか。
………道理で三日間、ルインと連絡取れなかった訳ね。
最初は戦闘狂で、戦えないストレスが溜まってるだけだと思ってたら……なんか、覚醒したのか、アダム様が獣人の力に目覚めて。
え、ちょっと待って。
獣人の力に目覚めたってどういうこと?
「アダムはトイズと似たように、騎士家系の次男なんだって。で、一応その一族は人間なんだけど……アダムの母親は獣人だったんだってさ。つまり、アダムのお父さんが妻以外の……お手つきで産まれた半獣人ってヤツだね」
「ですが、獣人としてではなく人間として教育されて。獣人の力を封じるように暮らしていたので、それが暴走して猪突猛進に拍車をかけてたらしいんです。それをエクリュ中佐が模擬戦というカタチで、解放させたので……直情型馬鹿ですけど、話が通じるようにはなったんですよ。要はストレス発散させて、獣人として力を抑えないようにさせたので、ストレスが溜まらなくなったんです」
トイズ様が紅茶を出しながら、アダム様を見る。
アダム様はちょっと申し訳なさそうな顔で、頬を掻いた。
「その節は、申し訳ない。自分でもどうしてあんなに暴れていたか……」
「獣性を抑えつけ過ぎて、獣性が暴走しちゃったから仕方ない……とは余り言えないけど。まぁ、もう獣人の力を封じないでいいから暫くは大丈夫じゃない?暴れ足りないなら俺が付き合うし。アダムはそこそこ強いからね。訓練になるよ」
「ありがとうございます‼︎エクリュ中佐‼︎」
……………つまり……ワンちゃんが、犬として運動ができなくて……癇癪起こしたって感じかしら?
その癇癪がかなり周りに迷惑を与えているみたいだけど……。
………まぁ、万事解決したのかしら?
「そっからは俺に逆らえないように調教して」
「僭越ながら僕が一般常識を叩き込ませて頂きまして。おかげで僕にまで逆らわないようになりましたよ」
………トイズ様が何をしたのか聞いてみたい気もするけど、聞かない方が幸せなんでしょうね。
だって、アダム様が顔面蒼白でプルプル震えてるんだもの。
ルインが肉体的に。
トイズ様が、精神的に完膚なきまでに叩き潰したんでしょうね。
「えっと……まぁ、取り敢えず。トイズ様、これ、招待状ですわ」
「え?あぁ、ありがとうございます」
「アダム様は後日お渡しするわ」
「?何をだ……ですか?」
ルインにギロリッと睨まれて、アダム様は敬語に直す。
私はクスクスと笑いながら、答えた。
「結婚式の招待状よ。無事に式場も予約できたし、招待客も大体まとまったから、招待状を渡し始めたの」
「誰の、ですか?」
「私とルインのよ?私のデビュタントが終わったら、直ぐに結婚するのよ」
「えっ、そうなんですか⁉︎おめでとうございます‼︎」
アダム様は私達に勢いよく頭を下げる。
………うん、なんか本当に普通の人ね。
あ、そうだわ。
「トイズ様」
「……?なんですか?」
「ネッサ様もご招待したからね?」
「………っ‼︎……そうですか……」
トイズ様はネッサ様の名前を聞くだけで頬を微かに赤くする。
ふふふっ、面白いわ〜。
ここ最近はルインが調教で頑張ってたから、ネッサ様とお茶会をしたりしてたの。
彼女にもトイズ様を招待する旨を伝えたら、同じように顔を真っ赤にしてたわ。
早く二人がイチャイチャできるようになればいいのにねぇ……。
「ふはっ……面白いね」
どうやら、ルインも同じことを思っていたらしく、ニマニマしてたわ。
「ルイン、楽しみね」
「そうだね」
仲のいい友人ができて、大好きな旦那様と一緒にこうやって結婚式までの期間を楽しみに過ごせる。
それはなんて幸福なんだろう。
早く結婚式が来てくれないかしら?
………まぁ、その前にデビュタントが先だけどね。




