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第29話 裏方へ降りかかった(一種の)災い


いつもありがとうございます‼︎

今後もよろしくどうぞ‼︎






カラミティ工房。



王家御用達の店であり、オーダーメイドのドレスは数年先まで予約で埋まっていると言われている。

そんなカラミティ工房のデザイナーミラは、今、猛烈に興奮状態だった。


「うふふふふっ‼︎楽しいですわぁ‼︎」


……こうなった彼女は寝食を忘れるんだよなぁ……。

わたし、カディロフは、そんな彼女の頭を殴って集中を無理やり途切れさせた。


「ふぎゃぁっ⁉︎」

「ほら、いいからメシ食え」

「いやん、ダーリン‼︎もっと愛ある止め方して下さいませ⁉︎」

「あ゛?」

「頂きますわ‼︎」


わたしが持ってきたサンドウィッチをパクリと食べるミラ。

抑圧されることがなくなったからなのか、ミラはどうにも暴走体質になってしまった。

まぁ、昔の人形みたいな時よりはマシだけど。


「楽しいか?」

「えぇ‼︎シエラ様とのお話しはインスピレーションがバンバン湧きますわ‼︎」


………シエラ様には頭が上がらないな。

この国に限らず殆どの国では、貴族女性というのは働く女性への忌避感が強い。

まぁ、貴族として子供を作らなきゃいけないとか、屋敷の女主人であるからとか理由はあるんだろうけど。

とにかく、働く女性は平民ばかりだから上から目線ばかりだ。

だが、シエラ様はそんなことがなく……普通に接してくれている。

それどころか、ミラどころかウチの工房で働くお針子(女性達)とも世間話をしたりしているんだとか。

お針子の一人が「普通に私達にもお菓子を差し入れてくれるとか……良い貴族もいるんですねぇ」なんて言っていたが、多分シエラ様が特殊なだけだ。

だって、裏方でしかない我々全員を結婚式に招待するような人だぞ?

日にちはまだ決まっていないらしいし、仕事を滞らせることになるから、できたらでいいらしいが……。

…………既にわたし以外の全員はこぞって参加する気だ。

まぁ、それはそうだろう。

招待をしてくれるってことは、わたし達をただの服職人だけとしてではなく招待するに値する人物だと評価してもらっていることになるのだから。

そういう皆に平等な人の仕事っていうのは、作る側だって頑張りたくなる。


それに、王家御用達ではあるけれど、文句が多い貴族は多い。

やれ他の人と似たようなデザインは嫌だとか。

仮縫いまで終わったのに他のが良いとか。

だけど、エクリュ侯爵は「君達は信用して良いかなって思えるから、全部任せるよ。あ、お金もちゃんと払うから安心してね」なんて……シエラ様も「デザインの希望は出したけど、他は好きなようにして良いわ。何かやってみたいこととかあったら、私のドレスでやってみていいわよ」と言ってくれて。

どんだけこちらのやる気を出させるんだろうと思ってしまった。


それに……エクリュ侯爵は、どうやら王家の紹介とはいえ無理をさせてしまうからと、精霊達にわたし達のお手伝いをしてあげて欲しいと精霊術を行使してくれたらしい。

確かに、王家から紹介された時など特別な事情以外では、おいそれと注文は受けない。

でも、エクリュ侯爵の注文はその特殊例であるから、気にしなくていいのに……。

と、最初は思ったのだが予想以上に精霊達のお世話になってしまっている。



カラミティ工房は、数年先までドレスの注文が入っているから、次の年のドレスを作れと無理やり注文されても断っているのだが、その所為で罵詈雑言を言われることも一度や二度ではない。

その度にウチで働いている人達がピリピリするのだが……なんか癒しの効果でも発動しているのか、いつもはピリピリしている工房内もリラックスムードで仕事に取り組めている。

それに、少し散らかったりするといつの間にか元の位置に戻っていたり。

捨てるような布の切れ端で小さなリボンが勝手にできてたりするのだ。

後日、エクリュ侯爵に聞いてみたら……。


「なんか働いてるの見て、やってみたくなっちゃったらしいよ?……えっと…アレだったら、一緒に働かせてあげて。姿は見えないけど言葉は通じるから」


ということで、何故か精霊のお針子が増えた。

給料は精霊力でいいらしい。

お手伝い中はエクリュ侯爵の精霊力を代償にしていたらしいが、今ではこの工房で働く人々の精霊力を渡している。

………普通に精霊術って、火とか水を出すとかぐらいだと思ってたんだが。

精霊がお針子するとか驚きでした。



まぁ、そんな感じで色々とお二人に恩恵をもらって。

お礼を兼ねてミラが独断でシエラ様のデビュタントのドレスを作るとか言い出したんだが……他の人達も普通に賛同してしまった。

まぁ、わたしも賛同した一人だが。

ということで。

シエラ様の仕事に専念するために、今ある仕事を急ピッチで片付けている最中なのだ。


きっと、あんな風に気配りができるから、王族などの人脈ができるんだろうな。




だが……今日ー。

わたしは、お二人の本当の人脈・・(?)を知ることになるー。








『失礼するね〜‼︎』

「「……………え。」」



部屋に唐突に現れた緑の髪の少女。

しかし、その身が纏う神聖な空気は人ならざるモノで。

わたしとミラは、ビキッ‼︎と固まった。


「貴女、は……」

『んー?あぁ、風の大精霊だよ〜‼︎』


そんな軽いノリで現れた大精霊様に、わたし達は慌てて頭を下げる。

しかし、かの方は『畏まらなくていいよ〜』とこれまた軽いノリで言ってきた。


「あの……大精霊様はどのような御用で?」


わたしの質問に大精霊様は『そうだった‼︎』とその手に何かを出現させる。

それは………。


『あのね、ルインとシーちゃんのウェディングドレスのためにコレ、持ってきたの‼︎』

「「えぇっ⁉︎」」



風の大精霊様が持ってきたのは、淡い虹色の光を放つ、今まで見たことがないくらい美しい純白の生地。



〝精霊の布〟と呼ばれる精霊の加護が与えられた生地だった。

精霊が気まぐれで加護を与えたため、滅多にお目にかかることはない。

というか、こんなドレスを何着も作れるような量……一体何千億するのだろうか?


「これ、は……」

『あのね?家族の結婚式にはお祝いを渡さなきゃいけないんでしょ?だから、持ってきたの』

「………家族…?」

『うん、ルインの‼︎』


………エクリュ侯爵……貴方、精霊に家族だと思われてるんですか……。


『それに、君達には同胞もお世話になってるしね‼︎ちょっとしたお礼も兼ねてるよ‼︎』

「………まぁ…まぁまぁまぁっ‼︎ありがとうございます、精霊様っ‼︎」


ミラは精霊の布を受け取り、感嘆の溜息を漏らす。


「今まで見たことがないくらいに美しいですわ……」


確かに。

今まで見た精霊の布は、あくまでも単色の光を放つだけだった。

虹色なんて……。


『そうじゃないかな?大精霊四人で加護を与えたから』

「「えっっ⁉︎」」

『本当は精霊が人間に干渉しちゃいけないんだけどねぇ〜……まぁ、ルインも半分こっち側だからセーフってことで‼︎』

「「……………」」


今、この方、サラッと凄いこと言いませんでした?



エクリュ侯爵が、半分、精霊こっち側?



流石に能天気なミラも固まってるし。



『じゃあ、よろしくね‼︎精霊達みんなも頑張るんだよぉー‼︎ルインとシーちゃんの結婚式が失敗しちゃったら、世界が滅亡しちゃうかもしれないんだからね‼︎』



更に爆弾落としていったっっっ⁉︎

風の大精霊様は、淡い光と共に消え去る。

……………わたしとミラは顔を見合わせて、ゴクリッと喉を鳴らす。


「………流石のわたくしも……こればっかりは驚かずにいられないのですが?」

「…………安心しろ……わたしもだ」




こうして、わたし達はこの件をわたし達だけの秘密にすることにした。

だって、それを他の人に話したら問題になりそうだからな。


「次にシエラ様に会った時……どうしましょう……」

「わたしはもう無理だ。全部任せる」

「酷いですわっっ‼︎」





後日、ミラが精霊の布のことをシエラ様に話したら……「緊張しないで好きにしちゃっていいわよ?」と凄く軽いノリで言われたそうだ。

わたし達に、盗まれるとか思わないのだろうか?

………いや、信用されているってことにしておこう。



ちなみに、他の仲間達とも話し合った(精霊の布を見せたら、かなり動揺してた)結果……精霊の布はシエラ様関連のみでしか使わないことがカラミティ工房の総意で決定した。







大精霊に会う機会なんて人生に一度あるかどうかだし、何千億とする布をぽいっと渡されてしまったのはある意味、一種の災いですね(笑)

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