第28話 たまにはのんびりイチャイチャを
ランキングが凄いです、ありがとうございます‼︎
「悪役令嬢、五度目の人生〜」の方で、その後の話を更新し始めました。
多分、すぐ終わりますけどそちらもよろしくどうぞ‼︎
我、エディタ王国国王クリストフは、エクリュ中佐が持ってきた案件に頭を抱えた。
軍部総帥と精霊術師団団長以外は人払いをさせた謁見の間には、エクリュ中佐とその補佐官、シエラ嬢とロータル侯爵令嬢ネッサ嬢。
そして……半殺し状態になった暗殺者五名がいた。
加えて、今聞いた話である。
グライツ公爵家の横領に、辺境伯令嬢の妊娠。
ネッサ嬢との婚約解消、加えて暗殺未遂。
はっきり言って問題だらけだ。
「という訳で、グライツ公爵家は取り潰すべきかと」
エクリュ中佐がニコニコと笑いながら言う。
我は大きな溜息を吐いて、彼に問うた。
「その情報を掴んでいたのなら、そのまま我に報告しに来ればよかったのではないか?何故、ここまでことを大きくした?」
「そりゃあ暗殺者使ったら罪が重くなるからですよ」
…………この国において暗殺者の使用は禁忌に等しい。
使えば相応の報いを受けることになるだろう。
しかし、だ。
暗殺者が使われる前にエクリュ中佐ならば解決できると思うのだが?
「というか、俺は言われた通りに動いただけですから」
「…………何?」
「作戦立案は俺の補佐官です」
我はそれを聞いてギョッとする。
エクリュ中佐の背後に控える、至って平凡そうな男がこんな大事を仕組んだとは……思えなかったのだ。
「貴様、名は?」
「トイズ・フェンネル少尉です」
フェンネル少尉は和かに笑って答える。
しかし、我の背後に控えていた総帥は頭を抱えていた。
「………発言をよろしいでしょうか、陛下」
「………許可する」
デルタ総帥は大きく息を吐くと……般若のような顔で、彼に怒鳴った。
「フェンネル少尉っっ‼︎お前っ、エグい作戦を立てないようにとエクリュ中佐につけたのにっ……何をしてるんだっっっ‼︎」
「えー?普通に逆じゃないですか?エクリュ中佐という力技が使えるようになった以上、これまで以上にエグいことになると思わなかったんですか?」
「そもそもの話、エクリュ中佐自体が過剰戦力なんだっ‼︎エクリュ中佐を使うような事態は、それこそ戦争が起きた時ぐらいしか想定してないっ‼︎通常勤務が書類処理なのはそれが理由だっ‼︎ゆえに、補佐官のお前の仕事もなくなると思っていたのにっ……」
少し待て。
今、凄いこと言わなかったか?
「…………そいつに何か問題があるのに、エクリュ中佐の補佐官にしたのか?」
「………………」
デルタ総帥はそっと目を逸らす。
しかし、観念したのか……渋々答えた。
「…………ハイエナ、です」
「……………」
ハイエナー。
余りにもエグい作戦で、敵を蹂躙し……それこそ悪鬼のような作戦を立てると言われるあのハイエナか?
味方であることはとても心強いが、それでも余りにも残酷な方法で敵を排除し、敵味方の精神に著しいダメージを残すような策略家。
そのハイエナを、エクリュ中佐につけていただと?
「………それ、普通に危険なヤツじゃないのか?」
「………エクリュ中佐は、力技で全てを解決してしまう方です。ゆえに彼のための策略家をつける必要があると判断しました。しかし、過ぎたる力は味方であろうと畏怖の対象となる。エクリュ中佐に怯えないかつ、それなりのブレーンを持つ補佐役が……そいつしかいなかったのです。加えて、本当に危機的状況にならない限りエクリュ中佐を出陣させるつもりはないので、ついでにハイエナも使わずに済むかと……つまり、面倒な者をまとめてしまおうとしたというか……」
…………我はそんな浅慮な行動を取った総帥に対して、色々と諦めの境地に達しながら、ひとまずは王としての仕事をすることにした。
「我が国の金に手をつけたことは重罪である。この国の金は民のもの。たかが一貴族の欲望に使われるべきではない。ゆえにデルタ総帥に勅命を下す。直ちにグライツ公爵を取り押さえよ‼︎」
「はっ‼︎」
「後、エクリュ中佐とフェンネル少尉は、グライツ公爵の捕縛に参加するなよ」
「「御意」」
さて……後は……。
「ネッサ嬢」
「はい」
「作戦に巻き込まれただけだと思うが……か弱い令嬢が、よくこんな強者達と共に奮闘した。婚約解消、確かに確認した。暫くはゆっくりとするがいい」
「有難きお言葉ですわ、国王陛下」
「発言をよろしいですか?国王陛下」
しかし、まだ何かあるのか……フェンネル少尉がケロッと言ってくる。
こやつ、王を前に中々に肝が据わり過ぎじゃないか?
「…………許可する」
「こたびの件はネッサ嬢の武功にして下さい。いや、しなくてもいいですけど彼女が協力したと宣言して下さい」
「…………何?」
「元々、ネッサ嬢の婚約解消から分かったことなので。それに、婚約解消とはいえ犯罪者の婚約者だったのです。これから貴族界隈では悪意に晒されることになるでしょう。そうならないように、ネッサ嬢が公爵家の不正を暴く要因になったとかフォローしとけば……勇気と正義感溢れる令嬢として、好奇の視線に晒されることが少なくなると思います。婚約者を売った女とは言われるかもしれませんが、相手は辺境伯令嬢を妊娠させてますし、その父親は横領してますからね。概ね、好意的……同情的に見られるようになるかと」
…………おい、誰だ?
敵味方の精神にダメージを与えるような策略家だと言ったのは。
結構普通なこと……というか、令嬢を庇うようなことを言ってるぞ?
「トイズ、様……」
「まぁ、多少の悪意くらいなら自分で頑張れますね?」
フェンネル少尉はニヤリと意地の悪そうな顔でネッサ嬢に笑いかける。
彼女はその笑顔に強気な笑みで答えた。
「わたくしを誰だと思ってらっしゃるの?元々、ギルバート様の婚約者である時点で沢山の悪意に晒されてきましたわ。これぐらい、どうってことありません」
「流石。それでこそオレが見込んだ女だ」
「っっっ⁉︎」
ネッサ嬢の顔がボンッと赤くなる。
…………ずっと黙っているシエラ嬢と、エクリュ中佐がニマニマニマニマと笑っていて……。
え?そういうことなのか?
だが、二人の身分は………。
……………あぁ、まぁ、うむ。
そこはもう、エクリュ中佐がいるから問題ないか。
ちなみに……後日。
〝ロータル侯爵令嬢がハイエナに気に入られた〟という噂が流れ、着実に外堀を埋めにきているフェンネル少尉に驚いたのは、別の話だ。
*****
無事に公爵家が逮捕されて早一週間。
詳しい話は知らないけれど、私とルイン、ネッサ様には報奨金。
罪を重くするような作戦を立てたトイズ様だったけど……一応は公爵家の横領を暴いたってことで、報奨金も頂いて、ついでに男爵になることになったらしい。
きっと直ぐにでも爵位を上げちゃいそうね。
いや、その前にもう既に〝ハイエナがネッサ様を気に入った〟という噂が流れ出してるから……多分、ネッサ様と結婚する方が早いかも。
ロータル侯爵としては災難かもしれないけど、自由恋愛ができないご時世。
せめて、知り合いが恋愛結婚で幸せになってくれたら嬉しいわ。
「………何考えてるの?俺のこと、構って?」
そこで私を後ろから抱き締めていたルインが、私の首筋に優しくキスをする。
どうやら折角、彼の屋敷でのんびりイチャイチャしていたのに私が他のことを考えているから拗ねちゃったみたい。
私はクスクス笑いながら、彼の腕に手を添えた。
「ネッサ様達のことよ?幸せになれるかなぁって」
「………まぁ、大丈夫じゃないかな?トイズ、要領いいし」
………要領いいって言うのとは少し違う気がするけど。
まぁ、トイズ様だったらなんとかしちゃいそうだから大丈夫ね。
「なんか、シエラと会ってから色々と起きた気がする」
「そうねぇ……」
私が王太子と王妃とお茶会をしている時に、前世の記憶を思い出して。
当て馬回避のために精霊達に私好みの人を探してと言ったら瀕死のルインで。
互いに一目惚れしたけど、身分の差とかまさかのラスボス事件とか……。
精霊王がルインの父親だと分かったとか。
………ドラゴンが来て、単独討伐して。
それのおかげで身分の差という憂いがなくなって。
公爵子息とか王女の暴走を乗り越えて、今は結婚式の準備中。
……………濃厚過ぎるわ……。
「シエラに出会わなければ俺はドラゴンの生贄にされてそのまま《穢れの王》になっていただろうからね。君に出会えて運命が変わったんだ。俺、今、とっても幸せだよ」
「…………ルイン……」
「愛してるよ、シエラ」
そう言ってくれるルインはとても綺麗な笑顔を浮かべてくれて。
私の胸がきゅぅっとする。
「私もよ、愛してる。ルイン」
なんなの、急にこんなこと言ってきて。
なんだか、泣いちゃいそうだわ。
「急に、どうしたの?」
「うん、何が?」
「なんか、死亡フラグみたいだわ」
「………シボウフラグって……?」
「戦争とかで〝俺、帰ったら結婚するんだ〟とか言った人がその戦争で死んだりしちゃうヤツよ‼︎」
「いや、そんなつもりで言ったんじゃないよっ⁉︎」
ルインは大きく息を吐いて、ちょっと困ったように笑う。
そして、優しく私を抱き締めた。
「結婚前だからちゃんとシエラにお礼を言いたくなったんだよ。君が俺といてくれたから、俺は君と結婚できるって」
「…………それ、私の台詞よ……?」
「じゃあ、互いに思ったってことで」
二人で額を合わせあって、至近距離で見つめ合う。
蕩ける真紅の瞳はいつ見ても綺麗で。
その真紅に私だけが映ってることが幸せで堪らない。
「ルイン……」
自分の声じゃないような甘い声で彼の名前を呼べば、彼は心得ているように私の唇に噛みつくようなキスをする。
荒々しくて、次は優しく。
その次は互いを確かめるように深く。
…………二人っきりの甘い時間は、とても幸せ。
その日の私達は、ずっと一緒にくっついていた。




