第2話 最初っからカミングアウト&ネタバレ&クライマックスです‼︎
楽しんでくださってますかね?
よろしくどうぞ‼︎
額に触れる柔らかくて温かな唇。
好みのイケメンがイケメンな行動を取ると、私の容量がオーバーするから止めて欲しい……。
「俺は、俺を想ってくれたシエラ様の未来が確実に欲しい。だから、貴女を奪えるくらいの力をつけます。だから、今はまだ待っていて下さいね」
あぁ……そんな台詞言われたら、私だってイチコロです。
私は言葉もなく頷く。
側で精霊達が『よくやったー‼︎』とか『そのまま押し倒しちゃえ‼︎』とか雰囲気台無しにするようなこと言ってるけど、気にならない。
もう、私の視界にはルイン様しか映らなくて……。
『空気を読まずにすまないが、そろそろこちらも話を聞きたいんだが?』
「「……………」」
気づいた時には、もう遅かった……。
私とルイン様は王宮ではなくて、永遠に広がる花畑に立っていて。
これは……イベントスチルにもあった、精霊達と会うことができる《精霊の花園》……。
瞬きした瞬間にはこうなってたんですけど、どういうことですかね?
………とツッコミを入れる前に彼らは姿を現した。
赤い髪を持つ勇ましい顔をした青年。
長い青い髪を持つ美しい女性。
緑色の髪をツインテールにした可愛らしい少女。
茶色の髪を持つ優しそうな初老の男性。
えぇ、その笑顔が凄い威圧的でして。
なんだろう……何かをした訳じゃないのに、冷や汗が止まらない……。
「………御機嫌よう、四大精霊様」
『あぁ、御機嫌ようだな』
『うふふっ、シエラちゃーん。ちょーっとお姉さん達とお話ししましょうか?』
『逃がさないよぉ〜?』
『儂らにもちゃんと説明して欲しいのぅ』
そう……彼らは四大精霊。
つまりは精霊達の管理者。
火の大精霊、水の大精霊、風の大精霊、土の大精霊だった。
「えっと……説明って?」
『あはは。忘れたのか?お前は精霊に記憶を見せたんだ』
『つまりシエラちゃんが前世の記憶を思い出したってのもお姉さん達は把握済みよ?』
『で。シーちゃんはこの世界の未来のシナリオを知ってるってことになるんでしょ?』
『なら、それについて話し合わんと大変じゃろ?』
それからの私はって?
えぇ、話しましたとも洗いざらい全部。
精霊に私の記憶を覗かせたから、知ってるはずなのに……口頭でもう一度説明させられましたよ。
前世の記憶はもちろん、この世界を舞台にしたゲームの話まで全部ですよ。
ちゃんとアイラが精霊に愛される者、《精霊姫》になることも(まぁ、それに加えて神にも祝福されているらしいんですけどね)、攻略対象キャラ達のことも。
話し終えた私はもう完全に憔悴し切った。
……いや、だってそうでしょ?
何が悲しくて、〝私、この十八禁ゲームやってたから分かるんです〟を前提にした話をしなくちゃいけないの。
恥ずかしいから。
ルイン様の前で自分の性的嗜好暴露するようなモノだからね⁉︎
「驚きました……シエラ様はその、転生者?というやつなのですね」
ルイン様は純粋に驚いたようで、目を瞬かせている。
そんな顔をしててもイケメンなんだけど……。
それよりも聞きたいことがあるんです。
「……あの…ルイン様?」
「はい」
「その……わ…私が本当はおばさんで、嫌になりましたか?」
「…………え?」
ルイン様は意味が分からないといった顔でキョトンとしている。
私は泣きそうになりながら、言った。
「だって、本当は精神年齢三十代のおばさんですよ?それなのに年甲斐もなく私より若い人に告白なんて……」
そう、気にしてるのはそこなんです。
だって、ある意味詐欺みたいなものだからね。
自分より若い子に告白する罪悪感というか…なんというか……。
そんな私の心を見透かしたのか、ルイン様は柔らかく笑ってくれた。
「なんで俺が気にすると思ったんですか。シエラ様はシエラ様ですよ。年齢なんて関係ないって言ったのは貴方でしょう?」
そう言って……ルイン様は優しく笑って言ってくれる。
「それに、ちゃんとした大人の淑女が俺を想ってくれると知れて嬉しいですよ?」
「ルイン様ぁ……」
「それに年甲斐もないのは俺もです。シエラ様は俺より精神年齢は歳上でも、肉体年齢は歳下なんですから……俺の方が厳しい視線に晒されると思いますよ」
「あっ……‼︎」
そうだ、私はまだ八歳なんだ。
そう思うと、十代後半に見えるルイン様でもロリコンに見られるんじゃ……。
なんて、私の不安を察してくれるのがルイン様でして。
「だから、貴女がもう少し大人になったら色々しましょう?」
……………まぁ、精神年齢おばさんですからね。
色々なんて言われたら、本当に想像しちゃったじゃないですか。
ルイン様にめちゃくちゃに愛される想像を。
「あ、ぅ……」
「シエラ様?」
「その……その時は……か、可愛がって下さい、ませ………」
「……………………」
顔が火を噴きそうなぐらいに熱い。
多分、真っ赤になってると思う。
…………で、ルイン様も負けず劣らず顔を真っ赤にしていて。
「か、可愛がらせて……頂きます……」
私の言葉の意味を理解したんですね、うん。
そんなこと言われたらもう、キャー‼︎って感じですよね。
恥ずかしさの余り、思わずルイン様に抱きついてしまったんだから。
『………なんだ、あの甘々空間』
『………ちょっとお姉さんもびっくりかな〜』
『ラブラブだ〜』
『…………若いのぅ…』
なんて側で大精霊達が言ってたけど、ちょっとテンパってた私達には届かなかった。
しばらくして、火の大精霊がパンパンっと手を叩く。
そして、呆れたように溜息を吐いた。
『さて。イチャつくのはそこまでにしろ。話を戻すぞ』
「イチャついてないわっ‼︎」
「イチャついてませんよっ⁉︎」
『『『……………』』』
生温い目で見られたから、私とルイン様は目を逸らす。
火の大精霊がまた溜息を吐いて、代表して話し出した。
『つまり、シエラの話をまとめると重要になってくるのが……約九年後に、この世界が穢れに満ちる可能性があることだな』
そう、アイラ達が世界の浄化をするということはその前に世界が穢れに満ちることになるのだ。
私は頷いて、それを捕足した。
「えぇ。ゲームの中では《穢れの王》の所為だって言ってたけど……」
『王のこと、何か知ってるか?』
「えっと……小さい頃から差別をされて、酷い目にあって……最終的に生贄としてエルフに殺されたハーフエルフ………」
私と大精霊達の視線がゆっくりとルイン様に向かう。
いや、まさかね?
あれ?でも待って?
確か……スチルにあった《穢れの王》(戦闘前は黒い影に覆われたのっぺら坊みたいな感じで、戦闘後は血塗れになった黒髪の……)の姿は……。
私が冷や汗を掻いて呆然としていたら、彼はそれを聞いて「うん」と頷いた。
「多分、《穢れの王》って俺ですよね?」
ですよねーっ⁉︎
うん、なんかそんな気がしてたよ‼︎
ってことは、完全にルイン様もシナリオに関係あるじゃんっ‼︎
いや、これは前世の記憶があってもルイン様=シナリオに関係ありと把握してなかった私が悪いのかもっ⁉︎
『なるほど…それなら納得だのぅ』
「え?」
なんてテンパっていたら、土の大精霊が頷いていた。
『精霊達はどこかしら繋がっておるんじゃ。ハーフであるルインは、精霊達からの共有は不可能じゃが……ルインからの共有は可能なんじゃよ。だから、ルインの穢れが精霊達に伝播し、世界に穢れが満ちたのじゃろう』
「えっと……なんかすみません……」
『今のルイン君がしたことじゃないでしょう?それに……生贄として殺されるんだもの。穢れを放った理由もお姉さん達は分かるわ』
『そうだよ‼︎これからのエルフ達との付き合い方も考えておかなきゃね‼︎』
大精霊達はルイン様を慰めるように言ってくれる。
そう、まだルイン様は《穢れの王》じゃないんだから。
って、そうだ。
「ねぇ。ルイン様は今日、大火傷を負わせられてたんだけど……どうなってるんですか?」
ずっと聞きたかった。
ルインは精霊達の仲間であるはずなのに、精霊術で大火傷を負わせられたみたいだったから……。
『あー……基本、精霊は自らの意思でシエラ達の世界に干渉することは許されていない。精霊術だって、精霊力という対価があってだろう?』
『で、知能が低い下級精霊だと対価をもらったら何も考えずに精霊術を発動させちゃうのよ。だから、ルイン君は火傷をした』
『でも、あたし達は干渉できないから防げなかったってことだよ〜……』
『すまんのぅ、ルイン』
「いえ、分かっていたことなので大丈夫です。それに……どちらかと言えば俺の力不足が原因ですから」
ルイン様は少し困ったように微笑む。
私は彼にそんな顔をして欲しくなくて、ルイン様の手を握り締めた。
「大丈夫です、ルイン様」
「………シエラ様……」
「ルイン様のことは私が守りますから‼︎」
「っ⁉︎」
ピシッ。
ルイン様の身体が固まって……ゆっくりと膝をついて崩れ落ちた。
その反応に私はキョトンとしてしまう。
「え?えぇ?ルイン様っ⁉︎」
『今のはシエラちゃんが悪いわぁ……』
『そうだよ〜』
水と風の大精霊が困ったように言う。
私は分からなくて首を傾げてしまった。
『ルイン君は精霊術が使えないのよ』
「え?」
その言葉に私は固まる。
だって、ルイン様はエルフと精霊のハーフなんでしょう?
なんでそれなのに精霊術が使えないの?
「………あはは……そうなんです……精霊に頼んでも無理だし、俺自身も精霊達と同じように術を発動できなくて……」
ここでおさらい。
精霊術は、精霊力(魔力)を捧げて精霊に代わりに現象(魔法)を発動してもらうこと。
勿論、それだけじゃ上手く発動しないから、術者は〝どんな風に、どんな規模で〟とイメージをはっきりと呪文詠唱で伝えなきゃいけない。
私は、脳内を勝手に覗いていいよって許可を出してるから無詠唱だけど。
「だから、シエラ様に俺のこと守るなんて言われちゃうんですかね……」
………ごめんね、ルイン様。
女性に守られるって男のプライドがズタボロだよね。
『精霊は自分の意思で、何も考えずに発動できるのにねぇ〜?不思議だよねぇ〜?ルイン君、剣はできるけど精霊術はできないんだから、素直に守ってもらえば〜?』
「…………っ…‼︎」
風の大精霊よ……それは追い討ちと言うのだ。
私は頭を悩ませてしまった。
《穢れの王》戦では普通に精霊術を使ってた気がするんだよね。
精霊に頼んでも使えない。
自分の意思でも使えない。
あ、そういえば……精霊術発動モーションの前に………もしかして。
「《ルイン・エクリュ様に示す。私達の未来を斬り開くために、貴方の意思で精霊の力を行使することを》」
私の言葉に合わせて淡い光がルイン様を包み込む。
そして……彼の右頬には、ぼんやりと浮かぶ翡翠色の刺青が浮かんでいた。
『あ、精霊印。ルイン君、精霊術が使えるようになってるわ』
「えっ⁉︎」
「あー、やっぱり。ゲームの戦闘シーンで《穢れの王》が精霊術を発動する際に自分に呪文詠唱をしてたんです。だから、私達は呪文詠唱で精霊に力を貸してもらうけど、ルイン様の場合はその対象が自分になるのかと……」
『儂らは自分に現象を発動させるための呪文なんて唱えんからのぅ。ルインも同じように発動させようとしても無理じゃったんじゃなぁ。考え方が固かったんじゃぁ……』
「えぇ、なんとかなって良かったです」
ぼんやりと浮かんでいた刺青は馴染むようにルイン様の肌に溶けて消える。
ルイン様は自分に向かって「俺に示す」と呟くとその手の平に炎を浮かばせた。
やっぱりハーフだから(?)、発動条件がちょっと特殊なんだろうなぁ。
ゆっくりと手の平を握って火を消したルイン様は、もう泣きそうになりながら私を抱き締めた。
「………大好きです…シエラ様……」
蕩けるような声が耳元で囁かれて、腰が砕けそうになる。
いや、止めて‼︎
その熱っぽい声で私を翻弄しないでっ⁉︎
『………なんというか、シエラは規格外だな』
『前世の記憶がある時点でそうよ』
『シーちゃん、凄ーい‼︎』
『ふぉふぉふぉ……』
大精霊達が色々言ってくれてますが、失敬な。
『さて。これでルインが《穢れの王》になる確率はだいぶ下がった。と、なると……世界規模で穢れが満ちることはないだろう』
「でも、一応を想定しておいた方がいいですよ。世界にはシナリオ強制力、ゲーム補正なるものがありますから」
『ゲーム補正って何かしら?』
「うーん。なんていうか……多少脱線しても、なんだかんだで決められた筋書きに通りになってしまう力のことかな?テンプレなんですよ、そーいうの」
そうそう。
フラグクラッシャーが頑張っても、そういう強制力には勝てなかったりするんだよ。
それを聞いたルイン様は不安そうな顔で聞いてきた。
「………えっと…つまり、俺が《穢れの王》になってしまうかもしれないと」
「………まぁ、その可能性も捨てきれませんが、他の人がルイン様の代わりになる可能性もあります。実際にその時になってみないとなんとも……」
ここで無責任に「そうはさせません」とか「なりません」とか言えないよね。
あくまでも私が知ってる可能性だ。
それを完全否定するのは難しいんです。
「だから、こういうゲームってifシナリオとか倒したラスボスが二巡目では攻略対象になっー………あ」
そこまで言って血の気が引いた。
いや、あのね?
私が死ぬ前、このゲームは確かに十八禁だったけど……人気だったから、新シナリオ追加で十八禁のままのヤツと、年齢制限十五歳までに下げられたヤツの二パターンで発売されそうになってたんですよ。
つ・ま・り……。
「うわぁっ‼︎嫌な予感がしますっ‼︎」
私は思わず頭を抱えて悲鳴をあげる。
ルイン様達はちょっと慌てた様子で「どうしたんですかっ⁉︎」って聞いてきた。
「あの……私が死ぬ前、新シナリオが追加されたverが売られることになってたんですよ」
「…………はぁ…」
「この新シナリオって大概、ラスボスが攻略対象になったりするんですよね」
「…………………は?」
ルイン様は首を傾げる。
あん、可愛い……じゃなくて……私は大きく息を吐いて、もう一度説明してやりました。
「私が死んだ後に新装版で出たゲームに新シナリオ追加がされます。加えて、続編とかファンディスクとかが出た可能性もあります。ラスボスが攻略対象になるのはテンプレです」
「…………つまり…俺はその何人もの男を股にかける女に手を出される可能性があると……?」
「…………はい……」
ルイン様、一応私の異母妹なんですけどね?
ルイン様はそれを聞いて、頭を抱え……るかと思いきや、一切そんなことはなくにこやかに告げた。
「でも、俺が好きなのは貴女です。他の女なんかどうでもいい」
「…………はぅ…」
ねぇ、イケメン過ぎるでしょ?
というか、最初はあんなに渋ってたのに普通に好きって言ってくれるんですね?
精霊愛され補正ですか?
…………違うと願いたい。
「言っておきますけど、俺は君が精霊に愛されるから好きなんじゃないですからね?」
「………っ⁉︎」
「顔、出過ぎですよ?」
つんっと鼻を突っつかれて、顔が熱くなる。
私があわあわしていたら、ルイン様は柔らかく私の頬を撫でた。
「例え、貴女の妹が貴女より精霊に愛される《精霊姫》だとしても俺は貴女を好きになりますよ。だって、貴女は俺のために泣いてくれたんです。俺のこと、気味悪がらなかったんです。そんな優しいシエラ様を好きにならない方がおかしいでしょ?」
「でも……」
「まだ短い時間ですけど、この時間は俺が生きてきた人生の中で一番幸せで優しいです。でも、これでもまだ足りないんです。シエラ様は一目惚れ、俺は貴女の優しさに惚れただけだから。これからもっと好きが増えるはずでしょう?」
ルイン様はキラキラとした笑顔で、私の額に優しくキスをしてくれる。
そして……誓いをする騎士のように私の手を取り、その甲にキスをした。
「だから俺と同じ時間を過ごして、結婚するその日まで。互いを知って更に好きになりあいましょう?」
「…………ふふっ…ふふふっ……」
「シエラ様?」
ねぇ、これが笑わずにいられると思いますか?
だって、ルイン様は結婚するまでの間に、もっと恋をしましょうって言ってるようなもんなんだから。
なんだか……嬉しくて、恥ずかしくてムズムズする。
「アイラは精霊に愛されるだけでなく神の祝福も得ているので、もしかしたらルイン様も靡いちゃうかも」
「流石に、尻軽とは付き合えませんから……そんなことになったら、シエラ様に殺されてもいいですよ?あぁ、監禁でも大丈夫です」
あれ……?
ルイン様の目からハイライトが消えて…る……?
「俺が他の女に靡く訳がありません。大好きです、シエラ様」
その瞬間、私の背筋をゾワっとしたものが走った…………。