第25話 悪役令嬢救出作戦
この作品の他に……
「悪役令嬢、五度目の人生を邪竜と生きる。–破滅の邪竜は花嫁を甘やかしたい–」
「悪役令嬢は乙女ゲームよりRPGがお好みです。」
の連載作品の他、短編作品も日間ランキングに乗りまくってます‼︎
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レーフ侯爵のガーデンパーティーから早数週間。
社交界シーズンになったこの頃。
まだデビュタントを迎えていない私は、日中のお茶会。
ルインはレーフ侯爵に連れられて夜会に参加しているわ。
あ、ちなみにオリビエはテストに巻き込まれただけだと分かって、燃え尽きてたわ。
そんだけストレスかかってたのね。
ちょっと可哀想だったわ。
ガーデンパーティーに参加してた人達はほとんどグルだったみたい。
オリビエ……というか子息令嬢達は事情を知らなかったみたいね。
まぁ、あの日のおかげで他の貴族の方とも繋がりができたから……今となってはいい思い出かしら?
で、今の私。
侯爵夫人になることが確定しているからか、私に取り入ろうとしてくる令嬢達を撒いて息抜きがてら裏庭に来ていたの。
そしたら始まったわ、修羅場が。
「ギルバート‼︎」
「煩いっ‼︎婚約者だからってお前に指図される筋合いはないっ‼︎」
「わたくしは貴方のことを思ってっ……」
「それが恩着せがましいんだよっ‼︎お前みたいな性悪が婚約者だなんてっ……最悪だっ‼︎」
パンッ‼︎
頬を叩く音にバッと振り返れば、そこには呆然とする水色の……ドリルヘアーの令嬢と歩み去る濃紺の髪を持つ子息。
彼女の頬が赤くなっているから……どうやら彼が叩いたみたい。
口論になったからって手を上げるのは最低だわ。
私はゆっくりと彼女に近づいていった。
「大丈夫ですか?今直ぐ治癒しますわ」
「…………え?」
「勝手に触れること、お許し下さいませ」
私は治癒の精霊術を発動して赤くなっていた頬を治す。
そうしたら彼女は、困ったような笑顔を浮かべてしまった。
「………申し訳ございませんわ。わたくしはネッサ・ロータル。ロータル侯爵家の長女ですわ」
「私はシエラ・ジキタリスと申します。ジキタリス伯爵家の長女ですわ」
「あら……貴女が噂のエクリュ侯爵の婚約者様なのね」
…………どういう噂か少し気になるけど、それよりも。
「何かございましたか?浮かない顔をされておりますわ」
「……………」
「大丈夫です。私は誰にも言いません。苦しんでおられるなら吐き出した方が楽になることもあるでしょう?なんなら、他言無用の契約の精霊術を行使致しますわ」
「…………そう、ね……その様子を見ると、わたくし達のやり取りを見ているんでしょう。なら、今更話したって変わらないわ」
私とネッサ様は裏庭のベンチに座って、空を見上げる。
そして、ぽつりぽつりと……彼女が語り始めた。
「先程口論していたのは、わたくしの婚約者……ギルバート・グライツ公爵子息ですわ」
曰く、彼は行動は少しばかり公爵家嫡男として相応しくないものらしく……。
婚約者がいる身でありながら、他の女性と親しくしたり。
勉学に励むよりも、遊ぶことを優先してしまうらしい。
まぁ、当主になったら好き放題できなくなるからって考えなんでしょうけど……貴族というのは幼い頃から見定められるもの。
ネッサ様はそんな彼が将来困らないようにと、ついつい厳しく言ってしまうのだとか。
そして今日、ついに彼から叩かれてしまった。
「…………もう、ギルバートには嫌われてしまったでしょうね」
「…………ネッサ様……」
「うふふっ……婚約解消も秒読みかしら」
そう言った彼女はとても悲しそうで。
その笑顔を見た瞬間、私はやっと彼女のことを思い出した。
悪役令嬢ネッサ・ロータル。
当て馬令嬢である私と同じく、アイラの恋を邪魔する存在。
でも、貴族になった今なら分かる。
ネッサ様はゲームでも当たり前のことしか言っていなかった。
フィクションだから、何も疑わなかったけど……この現実世界で当たり前のことを言っただけで断罪されるなんて馬鹿げてる。
なら、私は……。
「ネッサ様」
「何かしら?」
「ネッサ様はギルバート様がお好きなんですか?」
「………………」
彼女は驚いたように目を見開き……そして困ったような顔になる。
そして……静かに、答えた。
「分からない、わ」
その声はとても頼りなくて、まるで迷い子のようで。
ネッサ様は手をぎゅっと……握り締める。
「ずっと……幼い頃から一緒にいたの。だから、ギルバートが隣にいるのが当たり前だった。でも…もう……あの憎むような目で見られるのが。彼の隣にいるのが……辛いわ」
「……………」
流石にね。
断罪されるような未来が分かっているのに、このままにしておけないわ。
なら、私がすべきことは。
「ネッサ様」
「…………何かしら……」
「お友達になりませんか?」
「…………え?」
「いえ、今から友達ですね」
「………えぇ…?」
私は彼女の手を取って笑う。
そして、泣きそうな瞳を真っ直ぐに見つめて。
「なので、友達が困っているので……私はネッサ様のお手伝いをしようと思いますの」
「…………シエラ様……」
「という訳で。放課後、迎えに来ますわ」
「…………ぷっ……うふふふっ……」
ネッサ様は強引な私が面白かったのか、クスクスと困ったように笑う。
でも、どこか覚悟したような顔で頷いた。
こうして、私は悪役令嬢救出作戦を決行することにした……。
*****
放課後ー。
私とネッサ様は軍部に訪れていた。
軍部なんて普通なら来ないからか……ネッサ様は緊張した面持ちをしている。
でも、私はスイスイと迷いなく進んで行ったわ。
「慣れてますのね?」
「えぇ。ルインに会いによく来ますから」
「一緒の空間にいたくないほど仲睦まじいと噂ですものね」
………それはなんとも返答に困る噂ね。
私は中佐になったことでルインに与えられた執務室の扉を三回ノックする。
すると、栗色の髪にオリーブ色の瞳を持つ柔らかな雰囲気の青年が扉を開いた。
ルイン付きの補佐官トイズ・フェンネル少尉だ。
「おや、ジキタリス嬢。どうされましたか?」
「ルインに用があって。入れて下さる?」
「はい。構いませんよ」
トイズ様はニコッと笑って私達を部屋に通してくれる。
アンティーク調な執務室。
応接用のソファとテーブル、書類を入れるための本棚と執務机があるだけだけど……凄く威厳があるのよね。
ルインは執務机に座ったまま、こちらを見て微笑んだ。
「ようこそ、シエラ」
「ご機嫌よう、ルイン」
私は彼の元に歩み寄り、その頬に優しくキスをする。
そして、そのまま彼の膝の上に座った。
「お話があるのよ。少しいいかしら?」
「勿論。シエラのためならいくらでもいいよ。トイズ、お茶を」
「はい」
執務室の中でどうしたらいいのか分からないのか、あわあわとするネッサ様。
というか、至近距離の私達を見て顔を真っ赤にしてるわね。
余計に挙動不審になっているわ。
そうしたら、トイズ様がさり気なく彼女をソファにエスコートしてくれた。
「こちらにどうぞ、レディ」
「あ……ありがとうございますわ……」
あら?
ネッサ様の顔が、さっきとは違う感じで凄く赤いわね。
…………あー…もしかして?
「移動するよ」
「あ。えぇ」
私がその答えに辿り着く前に、ルインが私を抱き上げて、ネッサ様の向かいのソファに座る。
そして隣に私を座らせた。
「初めまして。俺はルイン・エクリュ。侯爵であり軍人です。至らぬところはあると思いますが、お目溢しを」
「……初めまして。わたくしはネッサ・ロータル。ロータル侯爵家の長女ですわ。それほど作法は気にしませんのでお気になさらず」
「それは助かるね」
「お待たせしました。お茶をどうぞ」
そこで丁度、トイズ様がお茶を用意してくれた。
私達は感謝してから、紅茶を飲む。
良い匂いがして、飲みやすい。
一息ついてから、ルインが私を見つめながら問いかけてきた。
「で?要件は?」
「ネッサ様のお手伝いをしたくて」
私は言葉を発するのと同時にルインに念話を送る。
(彼女、悪役令嬢なの。このままにしておいたら、断罪されて良くて国外追放。悪くて処刑になってしまうわ)
(成る程ね……流石にそれが分かってて放置はできないね)
ルインはゆっくりと頷いて、私を見つめた。
「では、俺は何をしたらいい?」
「そうね……取り敢えず、ギルバート様の情報の共有化をしましょう」
「分かった」
私とルインはコツンッと額を合わせて、精霊達にギルバート様の情報を持ってくるように指示する。
そして、数秒と経たずに精霊達から情報がやってきた。
『情報だよ〜』
『二人に流すよ〜』
膨大な情報量が互いの脳内に送られてくる。
そして、フッと息を吐いた。
「………これ…早々に婚約解消した方がいいんじゃないかな?」
ルインがとっても、なんとも言えない顔で言ってくる。
私もそれに頷いた。
「そうね……流石にこれは……」
「どうなされたの?」
ネッサ様はルインの言葉に不安げな顔になる。
私はちょっと静かに彼女に言った。
「言ってしまえば、不貞を働いてますわ」
「…………え?」
「相手は辺境伯のご令嬢みたいだね。あ、ちなみに肉体関係ありだよ。というか、相手さん妊娠しちゃったみたい。子供を堕胎するかしないかで裏で揉め合いになってるみたい」
「……………」
ネッサ様は顔面蒼白で呆然とする。
………敢えてそこは伝えなかったのに、ルインったら言っちゃうんだから……。
(早めに知った方が傷は小さいでしょう?)
私の内心に気づいたのか、ルインはそう伝えてくる。
まぁ……そうかもしれないわね。
「…………そん、な……」
何を考えたらいいのか分からない、といった顔で虚ろな目をするネッサ様。
ルインは少し困ったように首を傾げた。
「という訳で、婚約解消しに行く?行くなら、先ほどの情報を他の人にも見せるためにも力を貸すけど」
「エクリュ中佐。流石にそれは急過ぎるかと思いますよ」
だが、そこで待ったをかけたのはトイズ様だった。
彼は呆然とするネッサ様の足元に跪いて、彼女の瞳を見つめる。
そして、優しく微笑みかけた。
「ほら、泣いて下さい。ここには誰も、貴女が泣いたことを言いふらす人はいませんから……」
トイズ様が優しく声をかけた瞬間、ネッサ様の瞳からポロポロと涙が溢れる。
「…………うっ……うぅぅうっ……」
恋愛感情がなかったとしても、ずっと婚約者として共にいたから……こんな真実知ったら、傷つくわよね。
「いっぱい泣いてしまいましょうね」
「うぅぅぅぅっ‼︎」
彼の優しい声がそうさせたのか、ネッサ様が勢いよく彼に抱きつく。
トイズ様もそんな彼女の背中を優しく叩いていた。
(…………シエラ)
(………そうね)
………ちょっとお邪魔っぽそうだったから、私とルインは静かに部屋を出る。
パタンッ……と、扉を閉めて互いに顔を見合わせた。
「なんか、良い雰囲気だったかも?」
「そうねぇ……びっくりしたわ」
「そうだねぇ……」
それから暫くして。
執務室に戻った私達は顔を赤くする二人を見て、ニマニマと笑ってしまったわ。




