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第24話 ただのガーデンパーティーではありません。


今後も‼︎よろしくどうぞ‼︎






レーフ侯爵家の屋敷にはとても美しい庭園があった。



薄黄色のアフタヌーンドレスを着た私は、ダークグレーの軍服(ルイン専用カラーらしい)に身を包んだルインにエスコートされながら、レーフ侯爵の元へ挨拶に向かった。

確か……ルインの爵位授与式後のダンスパーティーでご挨拶したはず。

レーフ侯爵は初老の男性で柔和な雰囲気を纏っている。

お隣にいる奥方様も朗らかな雰囲気で……とってもお似合いって感じだったから、私達もこんな夫婦になりたいと思ったからよく覚えてるわ。


「お久しぶりでございます。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」

「ご招待頂きありがとうございますわ」

「ようこそいらした、エクリュ侯爵。ジキタリス嬢。ドラゴンスレイヤー殿を我が家のパーティーにお招きできたなんて光栄だ。ぜひ楽しんでいってくれ」

「えぇ、楽しんでいって下さいな」


それから参加者達と挨拶を交わす。

日中のガーデンパーティー……というか、社交界デビューしていない子もいるから腹の探り合いとかドロドロしたコトはなさそう。

………というか、社交界デビューしていないからこそ……ルインを初めて見る令嬢とかが、ルインに見惚れてるわね。


「シエラ」

「なぁに?」

「俺にはシエラだけだよ?」

「…………分かってるわ」


ルインは私の手を取って、するりと指先で手の甲を撫でる。

触れるか触れないかの微かな触れ合い。

………ちょっと嫉妬してたのが、バレちゃったみたい。

彼は私の耳元に唇を寄せて、チュッと軽くキスをする。

そして甘い声で囁いた。


「こんなところじゃなかったら、シエラだけだって証明・・してあげるんだけどね?」

「…………んっ…」


ぞくっと腰が甘く痺れる。

最近のルインは無駄に色気があって……私の理性がドロドロになっちゃいそう……。

私とルインの間に甘い空気が流れて、とろりと彼の真紅の瞳が蕩け出す。

私はゆっくりと口を開いて……。



「…………なんなのかしら…この……。ガーデンパーティーに相応しくない空気は……」



と、そこで私達は現実に戻された。

振り返ったそこにいたのは、薄水色のドレスを着て……顔を真っ赤にしたオリビエの姿。

彼女は大きく溜息を吐いて、ジト目で睨んできた。


「あら、オリビエ。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう……じゃなくて‼︎ここは健全なガーデンパーティーなのよ?なんでそんな甘々セクシーな空気になってるの‼︎」

「そんなこと言われても……というか甘々セクシーな空気って何?」


ルインは怪訝な顔で首を傾げる。

……ルインのあの色気ダダ漏れは無自覚だものねぇ……。

オリビエも額を押さえてしまったわ。


「なんなの……というか、レーフ侯爵家のパーティーなんだからそんな相応しくない空気撒き散らしたらレーフ侯爵が困るでしょうに‼︎」

「あら〜。問題ないわよ〜?」


オリビエのお説教はまさかのレーフ侯爵夫人によって返される。


「エクリュ侯爵とシエラ様の甘々は元々知ってるもの。わたくしがお二人をこのパーティーに呼んだのはそれが見たくてよ?」

「「「え。」」」

「わたくし達のお茶会でもよく話のネタに上がるのよ〜。若いカップルがイチャイチャしているのを横から見てるのも面白いでしょう?わたくし達も楽しめるから、このガーデンパーティーでは何も気にせず甘い空気をお出しなさいな」


いや、そう言われても言われて出せるものではないし。

イチャイチャしてる私達が面白いから、イチャついててってこと?

………なんか、ねぇ。


「えっと……そう言われてしまうと難しいですよ。侯爵夫人」


ルインが私の代わりに言ってくれる。

侯爵夫人は「あらあら」とつまらなそうに頬に手を添えた。


「折角、間近で噂のイチャイチャを見られると思ったのに……ショックだわ」

「若い子が甘い空気を出してるのって面白いのですけどねぇ」

「ですわねぇ〜……折角、次のお茶会での話にしようとしていたのに」


レーフ侯爵夫人のご友人らしき婦人達が、楽しそうに笑う。

それを見たオリビエは、自分が侯爵夫人とそのご友人達の〝楽しみ〟を潰してしまったのだと悟り……顔面蒼白になっていた。

オリビエの主張の方が正しいけれど、相手は侯爵夫人なんだもの。

伯爵令嬢のオリビエは、爵位が上の人に睨まれたら……。


(ごめん、シエラ。貴族界の……というか女性の機微に疎くて……。今、どういう現状?)


そこでルインの念話が届く。

私は同じく念話でそれに返した。


(多分……このガーデンパーティーに招待された最たる理由は、侯爵夫人が私達のイチャイチャしてるを見たくてここに呼ぶのをオーケーしたからよ)


侯爵夫人の意見でガーデンパーティーになるぐらいなのだから、レーフ侯爵も侯爵夫人に甘い人なんだと思うわ。


(だけど、私達のイチャつきはあんまり意識してしてる訳ではないじゃない?)

(そうだね)

(だから、オリビエが私達に注意したから……侯爵夫人達の私達のイチャつきを見るっていう楽しみがなくなっちゃったのかもって、オリビエが怯えてるんだと思うわ)

(なんで怯えてるの?)

(オリビエは伯爵令嬢だから、上の階級の人に睨まれたら周りの人達にも目の敵にされるでしょう?長い物には巻かれろってヤツよ)


偉い人が下の者を睨んだら、偉い人の周りにいる人達だって同じ行動をする。

だから、オリビエは侯爵夫人が怖いんだと思うわ。


(………うーん…どうやら、侯爵夫人達は他人の恋愛話を肴にお茶してるみたいだね?)


ルインは精霊達に侯爵夫人達の話を聞いたのか、考え込む。


(元々は私達が原因なのよねぇ。なら、私達のイチャつきを実際に見る代わりになるような恋愛話を……なんてあるかしら?)

(面白そうな恋愛話……あー…イケるかな)

(え?)

(恋愛話ではないかもだけど、意識を逸せそうだから、前に第五部隊の奴らに言われたことを言ってみるね)

(?)


ルインは侯爵夫人を見ると困ったように笑う。


「えっと……申し訳ありません、レーフ侯爵夫人。こんな時に失礼とは思うのですが、少しばかり訂正を」

「あら、何かしら?」

「俺、若くないんです」

「…………ん?」

「シエラとは年の差婚になるんですよ」


その会場に沈黙が満ちること数秒。

レーフ侯爵夫人は首をゆっくりと傾げた。


「えぇ……でも、五歳くらいでしょう?それぐらい、年の差婚とは言わないんじゃなくて?」


…………まぁ、ルインは確かに若く見られるわよね。

十代後半の……というか、途轍とてつもない美貌の持ち主だもの。

ルインはクスクスと笑って、自身の胸に手を添えた。



「俺、今、三十三歳ですよ?」



再び沈黙が満ちること数秒。

そして……。



『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ⁉︎』



絶叫が、満ちた。

………思わず耳を塞いだ私は悪くないわ。

というか、ルインの実年齢……知られてなかったのね?


「えっ、じゃあ二十歳差なのっ⁉︎」


十歳差ぐらいならあるけれど、二十歳差以上の結婚は少ない。

それこそ政略結婚……または後妻などだ。

だから、恋愛結婚と知られている私達が年の差婚だということに侯爵夫人は驚いたのだろう。


「はい。五年前……俺が死にかけてる時にシエラに出会い、互いに一目惚れしました。でも、当時の彼女は八歳ですし、俺はただの一兵卒。身分差があって、想いを告げることはできたとしても……当時の俺達が実際に結婚するのは夢のまた夢でした」

「まぁぁぁ‼︎二人の馴れ初めね‼︎死にかけてるってどうしたの?」

「俺は昔、精霊術が使えなかったんです。だから大火傷を負って……治せなくて。このまま死ぬのかなぁ……って思って死を覚悟したら、シエラが精霊に導かれて俺を助けてくれたんですよ」

「そんなロマンチックな出会いなのね‼︎」


ルインはそれがキッカケで精霊術が使えるようになり、ドラゴンが現れたあの日。

単独討伐を成し得たことで爵位を得て、私を妻とすることができるようになったと語る。

………いや、若干オブラートに包んでる事実だけど……こんなに沢山の人に聞かれるとなんか恥ずかしいわ。

いつの間にか……オリビエのことを忘れたのか侯爵夫人とそのご友人達は楽しそうにルインの話を聞いていて。

そこで、レーフ侯爵からストップがかかった。


「すまないが……エクリュ侯爵、ジキタリス嬢。少しよろしいかな」

「あら?連れて行ってしまうの?」

「すまないね。お話があるんだよ」


侯爵夫人は少しつまらなそうだったが、朗らかな笑みを浮かべて私達を送り出してくれた。

屋敷の応接室に案内された私達は……レーフ侯爵と向かい合うように座り、侯爵に言われた言葉に驚くことになる。


「さて、君達へのテストは合格かな」

「「……………へ?」」

「後で巻き込んでしまったあの令嬢には謝罪しなくてはいけないなぁ」


侯爵は「ホッホッホ」と笑う。



…………どうやら、あの騒ぎはこの人なりの私達へのテストだったらしいわ。



「そもそもの話、リチャード君の紹介だからって無条件で信頼関係を築く馬鹿はいないだろう?信頼関係を築くに値する技量があるか?今回は分かりやすく、格が上の人間に絡まれたらどう対応するかを見せてもらったんだ」



レーフ侯爵は優しい笑顔でそう言ってくる。


「元々、君はただの軍人だろう?ジキタリス嬢がいるからと言ってもいきなり貴族になったんだ。君は今後、沢山の者達に見定められることになる。今回のことはその一例だと思ってくれ。まぁ、流石にこんなテストをする人はいないかもしれないけどね」


確かに、ドロドロとした世界だものね。

………流石にこんなテストをするような人はいないだろうけど、もっとタチが悪い人だって沢山いる。

レーフ侯爵はそんな人達に対して、ルインが上手く対応できるかが気になったんでしょう。


「妻に頼んで、本当はジキタリス嬢に絡んでもらうつもりだったのだが……どうやら君の友人らしき令嬢がいたからね。きっと、友人が絡まれた場合の方が対応力がどれくらいか分かりやすいと思ったんだろう」


ルインは侯爵で、私は伯爵令嬢。

確かにルインよりも、レーフ侯爵家よりも格下だものね。

絡むとしたら私が標的になりやすいでしょう。

ルインも若干、不満気な顔をしながら問うた。


「………で、結果は合格だと?」

「あぁ。上手く状況を誤魔化してしまうのも貴族としての一つの技術テクニックだよ。騙し討ちみたいで申し訳ないが……だが、君もこれでよく分かっただろう?貴族の世界というのは平民きみが思っているより恐いところだとね」


……貴族同士の繋がりを作るためとはいえ手厳しいわね。

関係ないオリビエまで巻き込んだんだもの。


「我々が精霊を使ってそのテスト内容を知っていた、などとは思わなかったんですか?」


ルインはなんとも言えない顔でレーフ侯爵に聞く。

やろうと思えばこの騒動がテストだと精霊から聞くことができていたでしょう。

流石に全てを事前に教えてもらうようにするほど精霊に依存していないから、してないけど。

彼はそう聞かれて驚いたような顔をした。


「おや。君達はそんなことまでできるのかい?」

「………多分、俺とシエラがいたらほとんどのことはできますよ」

「ふむ。流石、ドラゴンスレイヤーだね。だが、その口振りからするにしていなかったんだろう?なら関係ないさ」


私とルインは複雑な顔になる。

やっぱり年長者の功ってヤツかしら?

貴族の先輩には勝てなさそう。


「それにその力があるなら、腹の探り合いなどは大丈夫そうだね。気をつけた方がいい。表の顔は良くても、裏では悪どいことをしているかもしれないからね。巻き込まれたら大変だよ」

「……………はぁ……貴族、止めたくなってきた……」


ルインは疲れたように溜息を吐く。

私は困ったように笑った。


「大丈夫?ルイン」

「…………シエラが〝頑張って〟って言ってくれるなら、頑張るよ?」

「あら。じゃあ、二人で・・・頑張りましょう?」


ルインは驚いたように目を見開き……頬を微かに赤くしながら微笑む。

…………やだ…そんな笑顔見せられたら恥ずかしくなっちゃうわ……。

私は「ごほんっ」と誤魔化すように咳をした。


「とにかく。ルインはこういう貴族的なこと苦手そうだし、基本的に私がやるわ。だから、ルインは軍人としての仕事を優先して?」

「駄目だよ?俺だってちゃんとする。シエラだけの負担にしない」

「でも、ルインは貴族になったばかりだから……」

「なら、シエラが教えて?それに結果に合格したってことはレーフ侯爵もフォローしてくれるってことだと思うし。大丈夫。俺、シエラのためなら、なんだってできるよ」


指を絡めて恋人繋ぎをする。

そのままルインは私の指先に優しくキスをしてくれて。



「………二人で・・・、頑張るんでしょ?」



悪戯っ子のように、クスッと微笑んだルインに私は逆らえない。

私もそれに答えるように、彼の指先にキスをした。


「そうね。頑張りましょう、ルイン」


クスクスと笑い合う私達。

それを見ていたレーフ侯爵は……若干、ここに居づらそうな声で……。


「………この甘い空気は中てられるねぇ……」



と、呟いた。





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