第20話 決闘にすらならなかったという現実
いつもありがとうございます‼︎
今後もよろしくどうぞ‼︎
はっきり言って、わたし、オリビエ・ナザヴィサはエクリュ侯爵に恐怖を覚えた。
いや、だってそうじゃない?
あんな危険なオーラを放つ人なんて初めて見たわ‼︎
それに監禁宣言までしてるのよ⁉︎
シエラのことが心配で堪らないんだけど‼︎
最初は好青年で見惚れてしまったけれど……あんな危険な顔を見たら千年の恋も冷めるわ。
というか、シエラが殺されそうで怖いんだけど……。
エクリュ侯爵との婚約を止めるように……別れるように言った方がいいのかしら?
でも、そんなこと言ったら逆にわたしが殺されそう……。
でもでも、後ろからついて来てる二人はなんか普通の……いや、普通ではないくらい甘々だけど、ベタ甘カップルみたいだし……。
もう何が何だか分からないわ‼︎
………これはもう少し情報を集めなくちゃいけないかも。
*****
訓練場は分かりやすく言えばあのコロッセオみたいな感じになっている。
訓練に使う以上、待機生徒達が訓練中の生徒の側にいるのも危ないかららしい。
まぁ、そんな訓練場に来た私はちょっと呆然としてしまった。
いや、だって仕方ないでしょう?
どういう訳だか凄い数の観客がいるんだもの。
大半は生徒ばかりだけれど、教員達や貴族の方達までいるみたい。
「………あら…」
それどころか国王陛下やら王弟の公爵様までいらっしゃるわ。
どういうことかしら?
「………王女殿下が大々的に報道したから、エクリュ侯爵の妻となるシエラに興味があるんだと思うわ」
オリビエがそう教えてくれる。
というか……。
………負けるのが分かってるのに、こんな観客を呼ぶなんて……王女様ったら、精神強いのね?
「シエラ、頑張ってね」
ルインが私の唇に噛みつくようなキスをする。
私はそれに微笑みかけて、頷いた。
「じゃあ観客席にいるね」
ルインは颯爽と観客席に歩き去って行く。
後ろ姿もとてもイケメンだわ……。
ふっと振り返ればそこには顔を真っ赤にして狼狽するオリビエ。
あ、そういえば……未婚の女性が男性と親しくしてるのは、はしたないんだったわ。
私は彼女に笑う。
「オリビエもいつか旦那様とこうするのよ?」
「………うっ…」
訓練場の中央に歩み出て、対戦相手を待つ。
そして……やっと来た王女様に微笑んだ。
「ご機嫌よう、王女殿下」
「ご機嫌よう」
強気な笑みを浮かべる王女様はどうやら私に負ける気がないみたい。
………ちゃんと実力を弁えてないのね。
「えーっと……じゃあ決闘を開始しまーす」
審判役の先生がやって来て、面倒そうな顔をする。
手元にある紙を見て言う。
「えっとー。決闘にかけるのは……エクリュ侯爵?え?人間かけんの?ヤバくね?」
「………待って。私、ルインがかけられるって知らなかったのだけど?」
「え?マジで?」
………普通に、王女様が私達に公的に近づけなくさせようと思ってただけなんだけど……ルインがかけられるとなると話は別じゃない?
王女様は「クスクス」と笑った。
「あら?だってルイン様はわたくしを好きなのよ?なら、公的にルイン様を貴女から解放するためにも決闘の褒美になるのは当然でしょう?」
「……………ルイン」
ルインの方に視線を向けると、彼はとっっても嫌そうな顔を王女様に向けて……首を横に振った。
「シエラしか好きじゃないってば。疑うなら証明するけど」
「………大丈夫よ。ルインは顔に出やすいから」
はぁ……暴走思い込み王女様はとっても頭がおめでたいのね。
どうしてルインが王女様が好きだってそこまで思い込めるのかしら?
ルインの美貌が原因?
………あり得そうでなんとも言えないわ。
「えーっと……どうするの?」
先生がなんとも言えない顔で聞いてくる。
私は溜息を吐きながら答えた。
「王女殿下がルインが欲しいと言うなら、かければいいわ。こちらが勝ったら、ルインに近づかないで。二度と、ね」
ビクッ‼︎と王女様が狼狽するけど、私、そこそこ怒ってるの。
だって、ルインを物みたいにかけてるんだもの。
私のルインを物扱いするなんて……怒るに決まってるでしょう?
だから……覚悟してね?
「んじゃー、いきます。開始‼︎」
その合図と共に王女殿下は呪文を唱えた。
「《精霊に示す‼︎我が敵を火の槍で貫き給え‼︎轟々と、燃えて‼︎》」
王女様の背後にはとっても小さい火の槍が出現する。
………うん、出現したけれど……こっちに向かって来ないし、プルプルと震えてなんとかそこに存在してるだけみたい……。
なんか……ちょっと予想外かも?
「ちょっと‼︎なんで向かって行かないのよ⁉︎」
王女様がワザと止めてる訳でもなさそうだし……。
「えーっと……《消してくれる?》」
フワッ……。
私がお願いすると簡単に火の槍は消えてしまった。
………呆然とする王女様(&観客達)を無視して、私は精霊に聞いた。
(かなりの精霊力を渡したみたいだけど……火の槍、小さくなかったかしら?)
『そりゃそうだよ〜。下級の精霊が何も理解せずに出現させたんだもん。いっぱい精霊力をもらっても、下級だから起こす事象は小さいし』
『それに……相手がシエラなら、ボク達は敵対しよーと思わないし、しないよ』
『ルインが恐いし‼︎』
王女様はその後も何度も精霊術を発動させようとするが、失敗する。
……なんか、ちょっと可哀想になってきたわ。
「なんでっ‼︎発動しないの⁉︎」
「………えっと…私が精霊と仲良しだからかしら?」
「なぁっ⁉︎」
『いや、それもあるが……主要な理由は、ルインの妻に手を出したらルインからの報復が恐いからだと思うぞ』
「あら」
轟ッ‼︎と火柱が私の隣に立つと、そこには火の大精霊が立っていた。
愕然とする会場の人々。
たとえ、姿を見たことがなくても人の姿を持ち……その神聖な雰囲気を纏っていれば否応無しに彼が火の大精霊だと分かってしまうんでしょうね。
だけど、彼は周りを気にする様子もなく私に声をかけてきた。
『なぁ、今すぐこの決闘止めてくれないか?』
「あら?どうして?」
『横から見てるルインが、闇のオーラを放ち始めてるからだ』
「………あら…」
そう言われてルインの方を見たら……確かに微かに闇が出始めていた。
私が傷つけられた瞬間にでも暴れ出しちゃいそうな雰囲気ね。
私が勝つって分かっていても、心配なんでしょう。
「でも、王女様が降参してくれないと無理よ?」
『国王‼︎一国が滅びるのと王女が負けるの、どっちがマシだ⁉︎』
「王女が負ける方に決まっている」
火の大精霊に聞かれた国王陛下は即答した。
………まぁ、大精霊が出てくるってことはそれなりに危険な事態ってことよね?
ルインったら心配性なんだから。
「審判。精霊術が発動できない時点でクリスタの負けだ」
陛下が先生に言うと、先生も納得したように頷く。
私と愕然とする王女様の顔を見て……宣言した。
「えーっと……まぁ、火の大精霊様がシエラ嬢の味方になってる時点でそーすよね。では。勝者はシエラ・ジキタリス‼︎」
拍手も何もない勝敗。
でも、まぁ……そうよね。
片方は精霊術さえ発動できなくなって、片方は大精霊と暢気に会話。
確かにどう反応すればいいか判断に困るでしょう。
でも、ルインだけは嬉しそうに私の元に飛び降りてきた。
「シエラっ‼︎」
「ルイン」
ルインは勢いよく抱きついてくる。
そして、私の頬やこめかみに優しくキスをしてくれた。
「あー……怪我しなくて良かった‼︎少しでも怪我したら殺すところだったよ‼︎」
………何をとは聞かないわよ。
なんとなく察したから……。
まぁ、私がすることはルインの精神状態を落ち着かせることよね。
「うふふっ。私が怪我すると思ったの?」
「思ってなかったけど……でも心配になるよ」
「心配性ねぇ」
「仕方ないよ。シエラが大切なんだから……」
そう言ってくれるルインはとても熱っぽい視線を向けていて。
はぁ……そんな目で見られたら、ドキドキしちゃう。
私は彼の頬に手を添えた。
「………ルイン…」
私の声は私自身が驚くくらい甘くて。
ルインは大きく目を見開いて……我慢するような、切羽詰まったような顔になる。
「………そんな甘い声出すなんて……今すぐシエラを喰べちゃいたくなる……」
「もう少し、我慢して頂戴。ね?」
「…………うん……ごめん。獣みたいだ」
「……うふふっ。それだけ私が好きってことでしょう?嬉しいわ」
ぎゅうっと強く抱き締められて、私の頬も緩んでしまう。
このとろとろと甘い空気に浸っていたいけれど、後始末はしなくちゃね。
王女様の方に視線を向ければ、彼女は顔を真っ赤にして絶句していて。
私達を見てそんな反応しているんだと分かったけれど、まぁとにかく。
「私の勝ちですから、王女殿下にはもう二度とルインに近づかないで頂きますわ。よろしくて?」
「………うっ…ぁ……」
「あぁ、言っておきますが……ルインと私は相思相愛なの。だから、王女殿下がルインが自分のことが好きだと言ってたのは思い込みの見当違いよ」
言い切ってやれば、王女様はそのまま灰のように燃え尽きた表情になる。
私はそれを尻目に、今度は火の大精霊の方に視線を向けた。
『よし。そのままルインとイチャついて世界を救ってくれ』
「………そのために来たの?」
『シエラのことに関してだけはルインは我慢が利かないからな。ルインの機嫌次第で世界が歪むんだ。そのシワ寄せは我らにくるんだぞ?それなら事前にそうならないように対処する方が楽なんだ』
火の大精霊はルインと私の頭を撫でて『じゃあ、また今度な』と言って消え去って行く。
………ちょっとお兄ちゃんみたいよね。
私はルインに視線を向ける。
そうすれば彼はとろりとした笑みを見せてくれる。
「シエラ、大好き」
「私も大好きよ」
「言葉の通り、イチャつこうか」
「言われなくてもしましょう?」
そうして周りを気にせずイチャつき始めた私達を見て……。
「だから二人っきりの時にイチャつけと何度言わせるんだ……」
って、国王陛下が顔を真っ赤にして言ったわ。
まぁ、最終的に?
周りの人達を置いて帰宅した私達は、そのまま甘い時間を過ごしたわ。




