第17話 プライド高い系暴走王女
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わたくし、クリスタ・ルン・エディタは……シエラ・ジキタリスが大嫌いですの。
エディタ王国の第一王女であるわたくしは、王族として恥じない容姿を持っていますわ。
王族が引き継ぐ金髪碧眼は、わたくしの誇りでもありますもの。
ですから手入れを怠ったことはありません。
わたくしはどこでも第一王女として相応しいと言われてきました。
所作は勿論、教養も精霊術も高い成績を収めておりますし……皆がわたくしを褒め称えるけれど……。
わたくしだって馬鹿ではありません。
それが媚を売っていることぐらい知ってますわ。
そう……わたくしよりも目立つ方がいらっしゃいますの。
それが、シエラ・ジキタリス。
伯爵令嬢に過ぎないのに、成績優秀、強力な精霊術を使い……その美しい容姿も含めて、クリストファーお兄様の婚約者候補にまでなった方。
ですが、彼女はお兄様ではなく……ただの一兵卒の軍人と恋人になったというのは貴族界でも有名でしたの。
あの人がそのまま軍人の妻になれば、平民になるしかない。
それがどんなにわたくしの自尊心を満たしたか。
いつもあの女と比べられておりましたから、ざまぁみろと高笑いするほどでしたわ。
なのに、その軍人はまさかドラゴンを単独討伐するような猛者で。
侯爵位と、中佐という階級を与えられてしまった。
……まぁ、でも。
ドラゴンを単独討伐するような方ですから、熊のような方だと思っておりましたからまだ、余裕がありましたわ。
………ですが、ダンスパーティーの日。
シエラ・ジキタリスの隣に立つその美青年を見て、会場中の令嬢達が浮き足立ったのが分かりましたの。
だって思わないでしょう?
騎士でもない、たかが軍人風情が。
あんな好青年だったなんて‼︎
だから、わたくし達王族が入場する前に起きた叔父様の意地悪が上手くいかなかったことに……わたくし、悔しい思いをしましたの。
だってそうじゃない?
わたくしとエクリュ侯爵が婚姻することになれば、あの女から奪うことになりますもの。
それにアレほど顔が良ければ、わたくしの隣に立っても見劣りしないでしょうし。
………叔父様の独断とはいえ、成功したらとっても胸がすく思いだったでしょう。
でも、思いましたわ。
諦めるのはまだ早いと。
エクリュ侯爵がわたくしを好きになれば問題ありませんもの。
だから、シエラ・ジキタリスに婚約の申し出をしていたジェームズを利用することを思いつきましたのよ。
共に互いの欲しい人を手に入れないかと持ちかければ、きっと彼は頷くでしょう。
だから、覚悟なさい?
貴女からあの男を奪って差し上げるから。
*****
教室の隅の席。
日差しが暖かい窓際で座った私は、溜息を吐いてしまった。
ここ最近、気を抜くと溜息が漏れてしまう。
まぁ……私がしたことだから、気が滅入ってしまうのは少しお門違いなのだけど。
この間、無事に離縁されたお父様とお母様。
どうやらリチャード様がきちんと準備なされていたみたいね。
とっても速やかだったわ。
まぁ、おかげで?我が家の温度は氷点下以下になったみたいに、冷え冷えとしている。
お父様は完全に燃え尽きたし、使用人達は気まずそうだし……使用人達には申し訳ないけど、アイラが王太子妃……未来は王妃になるのだからその代償だと思ってもらいましょう。
…………早くあの家を出てしまいたいわ。
『シエラ〜、大丈夫〜?』
(大丈夫よ、ありがとう)
精霊達が心配そうに聞いてくる。
ルインも心配していたのだけど……心を落ち着かせる時間も必要だからと、今は私の心が落ち着くのを待っていてくれている。
早く元気になって、ルインに任せ気味の結婚式の準備をしなくちゃいけないのだけどね。
ルインとは私の成人と同時に結婚式を挙げることにした。
だから、もう一年を切ってるの。
あぁ……結婚することを考えたら、胸が温かくなる。
楽しみで……。
「百面相してるところ、悪いわね」
……と、私の思考を邪魔したのはオリーブ色の髪に琥珀の瞳を持つ少女。
彼女はオリビエ・ナザヴィサ伯爵令嬢。
令嬢らしからぬ態度に歯に衣着せぬ彼女は、私の数少ない友人だ。
「どうしたの?オリビエ」
「あんたの無駄な色気にヤラレた男どもが凄い顔してるのよ」
「………色気…?」
「あー…無自覚かぁ……」
オリビエは頭を押さえながら、目の前に座る。
そして、ニヤリと笑った。
「学園の美姫と名高いシエラ嬢は、その溜息さえも男達を惑わせる。あぁ、彼女があんなにも悲しい顔をしているのはもしやエクリュ侯爵との婚約は彼女の意に沿わなー」
「それはないわ。相思相愛よ?」
演技じみたオリビエに即答する。
そうしたら、彼女は首を傾げた。
「じゃあ、どうしたの?」
「………どうせいつかは分かることだけど…お父様とお母様が離縁されたの」
「………ぁ…」
「余り接してこれなかったとはいえ親子ですもの。沈んでしまうのも仕方ないでしょう?」
お父様とお母様の仲の件は社交界でも有名だから、オリビエはそれを聞いて申し訳なさそうな顔をした。
というか……。
「私とルインはとっても仲がいいのに……私が元気がないだけで、婚約が意に沿わないなんて言われてしまうなんて……悲しいわ」
「………ごめん。シエラの事情を考えてなかったわ」
「いいえ、大丈夫よ」
私は苦笑して答える。
私が沈んでいた理由は、盗み聞きしていた人達から直ぐに学園に広まるでしょう。
だから、もう大丈夫よ。
利用してごめんなさいね、オリビエ。
「………ところでさ。元気のないシエラには申し訳ないんだけど……少し気になる話があるんだよね」
「…………」
こてんっと首を傾げる私に、オリビエは耳打ちしてくる。
それは……とても驚く内容だった。
「どうも、クリスタ王女がエクリュ侯爵と婚約したいとか言い出してるらしいんだよねぇ」
「…………え?」
「シエラに婚約を申し込んでた公爵家の子息がいるじゃん。あいつを巻き込むつもりらしいよ?」
………いや、確かにそれは衝撃なのだけど……。
オリビエは一体、どこからそういう情報を手に入れてくるの?
「ここ最近、エクリュ侯爵に会いに行ってるらしいんだよねぇ……軍部に」
オリビエは鋭い猛禽類を思わせる視線を向けてくる。
どう反応するかを見ているみたいだけど……甘いわ。
「そうなのね」
「あれ?怒らないんだ?」
「うふふっ、怒るようなことにならないもの」
でも、勇気のある人ね。
国王陛下だって、公爵様だってルインにちょっかい出すのを止めたのに……。
「…………そんなに国を滅ぼしたいとは思わなかったわ」
「……………え゛」
私の呟きはどうやら彼女に聞こえてしまったらしい。
私は、にっこりとオリビエに微笑みかけた。
*****
わたくしはジェームズを学園の庭園に呼び出した。
彼は怪訝な顔をして、わたくしを見る。
「何の用です」
「ねぇ、貴方。シエラ・ジキタリスを手に入れようとしていたのでしょう?」
「ヒィッ⁉︎」
だけど、わたくしが彼女の名前を出した瞬間……あの偉そうな態度が嘘のように顔面蒼白でブルブルと震え出した。
…………どうしたのかしら?
「まっまっまさかっ……‼︎シエラ嬢に手を出そうとしてるんですかっ⁉︎」
「………違うわ。エクリュ侯爵と婚姻したいのよ」
「同じ意味じゃないかっ‼︎悪い事は言わない、止めておけっ‼︎」
ガクガクと震えるジェームズは、ただならぬ様子で。
わたくしは首を傾げる。
「何故、そんなに慌てるの」
「国王陛下から手を出すなと言われてないのかっ⁉︎」
「わたくしには関係ないわ」
「王女の行動次第では世界が滅ぶとしてもかっ‼︎」
「………………はぁ?」
ジェームズは、あの女とエクリュ侯爵を離そうとすると地獄を見ると言う。
でも、王族たるわたくしにそんなことをして、不敬罪になるわ。
そう言い返してやれば、ジェームズは勢いよく首を横に振った。
「エクリュ侯爵は普通に父上を殺すと脅す人間だぞっ⁉︎オブライエン公爵だってっ‼そんなことする人間が︎、王族を例外にする訳ないだろっ⁉︎」
ピクリッ……。
それを聞いてわたくしは、初めて動揺する。
だって、叔父様は自分が脅されたなんて一言も……。
「とにかくっ‼︎オレは関わらないからなっ‼︎」
そう言い残して彼は走り去って行く……。
………別に構わないわ。
エクリュ侯爵へのアプローチは開始しているし、反応は悪くないもの。
…………きっと…わたくしはあの女に勝てるはずよ。




