第15話 貴族的な駆け引き
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舞踏会は始まっているというのに、私とルインと国王陛下と公爵様、ひよことひよこ父のスレイサー公爵は応接室に呼び出されていた。
上座に陛下。
陛下の右側にあるソファに公爵様、ひよこ父、ひよこ。
左側にルインと私の順で座っていた。
呼び出された理由は、勿論、舞踏会で騒ぎ起こしたからよ。
まぁ、原因は公爵様とひよこなんだけど。
「さて……ジャックスよ」
「はい…兄上……」
「この二人に関わるなと言ったよな?」
陛下は呆れた顔で言う。
公爵様の顔はそれはもう申し訳なさMAXと言わんばかりの顔で。
それを見た陛下は大きな溜息を吐いた。
「その顔からして見るに、どうやらこの二人に関わると面倒なことになるというのがよく分かったようだな?」
「はい……不干渉を誓います」
それ、最初っから誓って欲しかったわ。
次に陛下はひよこ父に視線を向ける。
ひよこと似た容姿のひよこ父も、申し訳なさそうな顔をしていた。
「スレイサー公爵」
「……はい…」
「そなたは息子の愚行をどうして戒めなかった。止めに入る…などそれ相応の対応の仕様があっただろう?」
ひよこ父はそう言われて、バッと顔を両手で覆った。
「そんなこと言われたって、あんな恐い会話に入っていける訳ないじゃないですかぁ‼︎オブライエン公爵とエクリュ侯爵の会話、ただでさえ恐かったんですよっ⁉︎なんかエクリュ侯爵、黒いの出してたしっ‼︎なのにこの馬鹿息子、そこに入っていっちゃうしぃ‼︎決闘とか普通に死ぬようなこと言うしぃ‼︎手の施しようがないじゃないですかぁ‼︎」
………えっ⁉︎ひよこ父っ⁉︎
え、マジでこの人、このひよこの父親なのっ⁉︎
だいぶ性格違くないかしらっ⁉︎
メソメソしてるわよ、ひよこ父‼︎
どーして息子はこんな暴走馬鹿なのっ⁉︎
息子の教育失敗してるわよっ⁉︎
内心愕然とする私だったけど……ひよこ父の次の言葉に、更に戦慄した。
「でも、決闘とか言っちゃった以上……この馬鹿息子の無駄な自尊心をポッキリ折って更生させてもらえないかなぁ……とは思ったんですけど……。死んだら死んだで、爵位は次男に継がせればいいですし」
「ち……父上……」
ひよこ父のぶっちゃけた本音に、ひよこは涙目になる。
うん……まぁ、私も思わずスンッ。となっちゃうわ……。
実の親にそこまで言われるって相当見限られてるんじゃないかしら?
というか、弱々しい雰囲気だったけどやっぱり公爵ね。
地味に考えが強かだわ。
「はぁ……エクリュ侯爵」
「はい」
「どうしたいと再び聞いたら、また皆殺しと答えるか?」
「「「え゛。」」」
陛下の質問に公爵様、ひよこ父、ひよこがギョッとする。
そう言えば、皆殺しと答えたのは重臣の前だから……この人達はいなかったのよね。
ルインはにこやかに微笑んで答えた。
「そうですね……オブライエン公爵は俺にシエラ以外の女を娶れと言ってくるし……ジェームズ君?だったかな?彼は彼で強い精霊術師だからと、玩具感覚でシエラを手に入れようとしてくるし?できれば殺したいんですけど……」
「「ひぃっ⁉︎」」
ガクガクと震える公爵様とひよこ。
しかし、ルインはそんな彼らを見て肩を竦めた。
「シエラが止めたっていう理由と、どうも駄々を捏ねてる子供の戯言としか見れなかったんで……今日は見逃してあげます」
しかし、光を宿さない仄暗い瞳で……ルインは二人を見つめる。
そして、冷たい声で告げた。
「しかし、見逃すのは一回までです。次は……容赦なく、殺す」
「「ヒィィィィイッ⁉︎」」
ひよこ父に抱きつく公爵様とひよこ。
抱きつかれたひよこ父は、嫌そうな顔をしていた。
「………あの…失礼を承知でよろしいですか?エクリュ侯爵」
「はい、なんですか?スレイサー公爵」
「やっぱり、この馬鹿息子の心、ポッキリ折ってもらえませんか?」
「ちっ、父上ぇっ⁉︎」
顔面蒼白でブルブル震えるひよこを尻目に、ひよこ父はへにょりと笑う。
「一回、痛い目を見ないと駄目だと思うんです……。いっそ、軍部に所属させてもいいですし……。あぁ、そうなったら、専属として雑用とかさせてやって下さい。エクリュ侯爵、大変お手間だとは思うんですけど……この馬鹿をボッロボロのズッタズタにしてくれませんか?」
ふぅ……と呆れたような顔をするひよこ父。
ルインはちらりと陛下を見たが、陛下は関わるつもりがないらしく……素知らぬ顔をしている。
まぁ……確かに、陛下が関わるような話じゃないわよねぇ。
多分、これ、ひよこ父にしかメリットがない話よね。
というか、どう考えてもルインが損するわ。
だって、このひよこを調教しろって言われてるんだもの。
ひよこが死んだら死んだでそれはオッケーってさっき、言ってたし。
更生したらしたで、公爵家当主として相応しい人間になるだけだし。
で。
もし、軍部に所属させるってことになったとしたら……彼が調教するなら、ルインの下に配属になるでしょう?
そしたら、雑用しか言いつけられなくても……上手ーく言葉で絡め取って解釈すれば、実質弟子みたいなものとして扱われてしまうかもしれないわ。
そうなると、ドラゴンスレイヤーのルインと関わりができることになる。
………やっぱり、公爵だから強かね。
でも、そういうのは止めてもらいましょうか。
「まぁ、お戯れを仰いますのね?スレイサー公爵様」
「………戯れ、ですか?」
「えぇ。だって……ルインに良い事が何もないじゃないですか」
「そんなことありませんよ。エクリュ侯爵にはスレイサー公爵家との繋がりができるじゃないですか」
「うふふっ。ルインがその程度の繋がり、欲しがると思いまして?」
その言葉にひよこ父がピクリっと震える。
ルインが心配そうに私のことを見つめていたが……大丈夫よ。
こういう貴族的な駆け引きは私に任せて?
私は、ニヤリとほくそ笑む。
「スレイサー公爵は自分の息子を使ってルインに取り入ろうとしているだけでしょう?」
「………まさか」
「ルイン・エクリュという人は皆が喉から手が出るほど欲しい存在でしょうね?貴族でも侯爵という位。軍部でも地位が高くなったわ。そしてこの美貌と、戦力。何かあった時に、ルインと繋がりがあればそれだけで強みになるでしょうね。我が家はあのドラゴンスレイヤーと懇意にしているんだと、他家に脅しかけられるもの」
それなりに力を持つようになれば、力のない他の者は何もできなくなる。
公爵家という貴族でもトップな立場に、更にドラゴンスレイヤーと懇意にしているという切り札が追加されたら……その地位はもう揺らぐことがなくなるでしょうね。
だって、下手に手を出したら……ドラゴンスレイヤーが出てくるかもしれないもの。
ひよこ父はにっこりと微笑んだ。
「わたしは馬鹿息子の性格を直して欲しいだけですよ?」
「なら別の人間に頼めばよろしいでしょう?それこそ軍部の総帥閣下にでも、ね?」
「……………」
「どうかなさいましたか?軍部にも伝手を作るという貴方のお考えの通りになるのではなくて?」
「っ‼︎」
ひよこ父が一瞬だけ驚いた顔を浮かべるが……直ぐに不気味なほどに柔らかく微笑む。
視線を合わせて数十秒。
なんとも言えない沈黙が満ちた応接室で……先に動いたのは、ひよこ父だった。
「はぁ〜…参った。降参しますよ」
ひよこ父はさっきまでの情けない雰囲気をガラリと変えて、強かそうな笑みを浮かべる。
どうやらやっと本性を出したみたい。
「君、なんでこちらの思惑が読めてるんですか……」
「まぁ、私も貴族の娘ですから……って言いたいところですけど、私は精霊術師ですわ。人の思惑を読むぐらい、できますわよ?」
「………君も充分恐ろしいですね。本当に成人前ですか?」
「歴とした十三歳ですわ」
精神年齢はおばちゃんだけどね。
さて……この会話をまとめるとこうなる。
まず、ひよこ父はひよこの更生という名目で、ひよこの面倒を見てくれと言ったわ。
これで、ルインとの繋がりができる。
ルインは今、貴族的にも武力的にもそれ相応の力を持っているから……ルインとの繋がりで、自分や公爵家の地位を不動のモノにすることができるわ。
で、ひよこの更生は願ったり叶ったりになる。
更生すれば、公爵家嫡男として相応しくなるでしょうし……死んだら次男に継がせればいい。
あぁ……逆に?
ルインにひよこを殺させたとして、協力関係という名の一方的な服従をさせてたかもしれないわね。
いくら最初に殺しても問題ないとか言ってても……後から公爵家嫡男を殺されたとか言えば、ルインに貴族界から非難の目が殺到するもの。
そうすれば、否応なしに償いをしなくちゃいけないものね。
ついでに……騎士団や精霊術師団には個人的な伝手があるみたいだけど、軍部にはなかったらしいから……ルイン経由で軍部にコネを作るつもりだったみたい。
あ、ちなみに心を読んだのはさっきも言ったように精霊術です。
大概のことはできますからね。
でも………貴族って悪知恵ばかり働いてるみたいだわ。
「十三歳の子供が大人に負けず劣らずの駆け引きをするって……エクリュ侯爵はそれでシエラ嬢と婚約したんですか?」
「まさか。相思相愛ですよ。あんまりふざけたことを抜かすと……貴方も殺しますよ?スレイサー公爵」
「……………」
顔面蒼白になるひよこ父を無視して、ルインは私の腰を引き寄せて……こめかみにキスしてくれる。
お返しにと私は彼の頬にキスをした。
「エクリュ侯爵、シエラ嬢。イチャつくのは二人になってからにしろ。中てられる」
陛下が砂糖吐くような顔をして、注意してくる。
しかし、ルインは私の指先にキスをしながら、疲れたような顔で答えた。
「人目を気にしてたら、忙し過ぎてシエラとイチャつけないと……ここ最近学んだので」
「そんなに忙しかったか?」
「えぇ。婚約の許しを頂いたり、今日のために仕事を調節したり、準備したり……お忘れですか?俺は第五部隊ですよ」
「………あぁ…すまん…」
第五部隊は支援部隊のため、色々と軍人配置の調節などをしていたらしい。
普通は参謀部隊がやるんじゃないかって感じだけど、参謀部隊はどちらかといえば戦争とかメインで、こういう護衛系の任務は第五部隊に回ってしまうんだとか。
………不憫過ぎるわ。
「それも見直さないとな」
「別に第五部隊のままでもいいですよ」
「………ドラゴンスレイヤーを裏方支援にいさせるのは少し、な」
やっぱり政治的なモノもあるのよねぇ。
できる限りそういうのにルインを利用されないようにしてあげたいんだけど……。
取り敢えず。
「軍人だから貴族的な駆け引きが苦手だと思われたんでしょうけど、私がいる限り……ルインに手出しはさせないわ。貴族からは私が守ってあげるからね」
「なら、俺は君を傷つけようとするモノ全部から守るよ。ちゃんと貴族的な振る舞いも覚えるからね?」
そう告げる彼はとっても格好良くて。
私を守ろうとしてくれてるのがはっきりと分かる。
でもね?
「………少しくらいルインの役に立ちたいから、なんでもできるようにならないで?」
完璧になったら、私が助けられない。
少しくらい彼の役に立ちたいし……ルインには無理しないで欲しいわ。
私の言葉にルインは少し頬を赤くする。
そして……複雑そうな顔で告げた。
「………うぅ…そう言われるのは嬉しいんだけど……やっぱり男なら、愛しい女性を守りたいんだよね……」
「でも……無理しないで欲しいの……」
「無理じゃないよ。愛しいシエラのために頑張れるのは普通なんだよ?シエラだって、俺のためなら頑張れるでしょう?」
「……えぇ、そうね」
ルインは頬を少し赤くして、はにかむような笑顔を見せてくれる。
私も少し照れくさくなりながら、笑い返した。
「だから、二人で支え合おうね?」
「うん」
「愛してるよ、シエラ」
「私も愛してる……」
見つめ合って……徐々に近づく唇。
でも……それが触れ合う前に。
「…………見てるこっちが恥ずかしいからそこで止めてくれ……」
「………………なんなんだ……この甘々は……」
「…………砂糖吐きそうですね……」
「………………ぅ…」
国王陛下、公爵様が顔をほんのり赤くして……。
ひよこ父が苦虫を噛み潰したよう顔をして……。
ひよこが顔を真っ赤にして絶句して……。
そんな感じで声をかけるものだから、思わず止まっちゃったわ。




