第12話 その惚気は犯罪の臭いしかしなかった……
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イチャラブお風呂タイムに移行しようとしていた私達を《精霊の花園》に拉致った精霊王。
その理由は自分の惚気……ルインのお母さんとの出会いを語るためだった。
え?本音を言うと?
心っっっ底、どうでもいい。
いや、何が悲しくてルインとのイチャイチャタイムを邪魔されなきゃいけないの。
というか、いい歳した人が話を聞かないと拗ねるって何。
………と、完全極寒モードな私とルインは渋々、精霊王のお話を聞くことになった。
『アレはまだわたしが人間界を遊び歩いていた時だ……』
「仕事しろよ」
「仕事しなさいよ」
『うぐっ……だが、遊び歩いてなかったらルーナと出会わなかったぞっ⁉︎』
子供みたいに頬を膨らませる精霊王に、私とルインは冷たい視線を向ける。
ビクッと震えた精霊王はちょっと動揺しながら話を続けた……。
*****
アレは今から百年ほど前のことだ……。
え、なんで百年も前かって?
簡単な話だ。
ルーナと出会ってから長い年月をかけて、やっとルインが産まれたからだ。
精霊王とエルフという異種間……いや、ある意味は神とその創造物という間か。
中々、妊娠しなかったのだよ。
まぁ、それはさておき。
彼女と出会ったのは、深い森だった。
そこは木漏れ日が美しい神秘的な森で。
精霊力の循環も良くてな……精霊達もその森に沢山暮らしていたことから、《精霊の森》なんて呼ばれていたんだ。
まぁ、とにかく。
その森にある花畑で、わたしは一人のエルフと出会ったのだ。
陽の光を受けて煌めく淡い黄金の髪。
春の芽吹きのような新緑の瞳。
美しい顔立ちはどこかこの世のものとはかけ離れていて。
彼女こそが、エルフの中でも一番の美女と呼ばれていたルーナだった。
彼女と目が合った瞬間。
わたしは背筋に電流が走ったように感じたよ。
本能が、彼女を求めたと言おうか。
まさに一目惚れというヤツだ。
そして、それはまさにルーナも同じで。
間もなくして……わたし達が恋人、と呼ばれる関係になるのは必然だった。
わたしは精霊王としての務めもあったからな……流石に遊び歩きすぎて、世界の循環が滞り始め、ルーナと付き合い始めて直ぐに精霊王の仕事が忙しくなってしまった。
む?自業自得だと?
いや……まぁ、そうなのだが……そう単刀直入に言わなくてもいいじゃないか……。
ごほんっ‼︎話を続けるぞ?
そのため、ルーナとの逢瀬に時間を割くこともできなくなった。
要するに逢瀬をする場所は初めて出会った《精霊の森》だけになったんだな。
普通ならば色々なところへ行きたがるはずなのに、ルーナは文句一つ言わないでくれた。
ただ微笑んで『貴方のお側にいられるだけで、幸せですから』と言ってくれるんだ。
まさに良妻の鑑だろう?
………いや、どうしてそんなに驚いてるんだ。
え?ルインのヤンデレは母親譲りなんじゃないか?って?
そうだが?
良妻の鑑とヤンデレが繋がらないと?
ふっ……知ってるか?
ヤンデレとは精神的に病んでる状態で相手に愛情を示すパターンと、愛情深すぎて精神的に病むパターンがあるんだぞ?
ルーナはまさに後者だ。
ルーナの愛は純粋だった。
ゆえに歪みやすかった。
何がきっかけなのだろうと言えば、ルーナに恋していたエルフの一言だった。
『会える時間も少なくて、他の場所にも行かないなんて……浮気してるとしか思えないだろうっ⁉︎』
………わたしが精霊王だと明かすことは、できない。
下手に管理者が管理対象に関わると問題だからな。
充分関わってるじゃないか……と言われても、精霊王と言うことはできなかった。
そういうものなのだよ。
それに……恋に落ちるのは誰にも止められないだろう?
関わってはいけないと思っても、わたしは自分の恋心に嘘をつけなかったのだ。
………まぁ、とにかく。
その横恋慕エルフに言われた一言で、ルーナの純粋さは歪んでしまった。
…………そうだ、ヤンデレに目覚めたのだ。
精霊王の仕事が忙しく……ルーナの様子を見ることができなかったわたしは、その日、久しぶりの逢瀬に出向いた。
《精霊の森》でルーナは相変わらずの様子に見えたが、その時にはもうルーナはヤンデレに目覚めていて。
わたしが次に目を覚ました時。
わたしは小さな小屋のベッドに鎖で拘束されていた……。
*****
「「………………」」
顔面蒼白で固まる私とルイン。
それはそうだろう。
なんか普通(いや、若干ロマンチックかも?)に始まったのに、どうして最後は監禁されてるの。
いや、それがヤンデレなのかもしれないけど……監禁、って……。
「………その…大丈夫、だったのか?」
ルインが恐る恐る聞く。
いや、ここに精霊王がいるから大丈夫だってんでしょうけど……聞かずにいられなかったんでしょうね。
『あぁ。どうやらルーナはわたしが精霊だと気づいていたんだろうな。《精霊の森》に小屋を建てて、わたしを閉じ込める準備をしていたんだ』
「「…………」」
『それも精霊術では拘束できないと理解していたからな。精霊術が使えない魔族が使う術式を使ってだぞ?準備いいよなぁ、ルーナは』
そう言って頬を赤らめてクネクネする精霊王。
…………どうしよう……この惚気、犯罪の臭いしかしないんだけど……。
『まぁ、そんなこんなで?前にも話したようにナイフ片手にわたしとルーナは愛を育み、肌を重ね……ルインが産まれたのだ』
いや、ナイフ片手にある時点でだいぶヤバイと思うのよ。
なんでそんなに怖い状況で愛を育めるの。
ナイフ片手でエッチなことするって危な過ぎる。
「というか……精霊王を監禁なんてしたら他の精霊達も黙っていなかっただろう?どうして、母さんは無事だったんだ?」
『いや、無事じゃないぞ?』
「「え?」」
『最初はわたしが他の精霊達を抑えていたが……最終的にルインが産まれてから、わたしと心中しようとしたからな。大精霊達が今もルーナを閉じ込めてるんだ』
「「……………」」
『だから、似たようなことが起きないように。わたし達精霊がこの世界に干渉できないような掟が新たにできたんだ。また殺されかけたら堪ったもんじゃないということらしい』
………私は無言で頭を押さえる。
うん、これ、ヤバくない?
ルインお母さん、大精霊に閉じ込められるって相当なことよね?
いや……精霊王を殺そうとしたんだから、それぐらい普通か……。
というか……あのさ?
ヤンデレはルインお母さんみたいなのが普通なの?
『そういえば……ルインはヤンデレ属性なのに、どうしてシエラ嬢を監禁しようとしたり、殺そうとしたりしてないんだ?』
精霊王は心底不思議そうに言う。
それを聞いたルインは、にっこりと微笑んで……。
「おらぁっ‼︎」
『ふぐっ⁉︎』
精霊王の頭をぶっ叩いた。
…………うわぁ、痛そう。
というか、実の父親の扱い酷過ぎないかしら?
「俺がシエラを監禁したり殺そうとしたりする訳ないだろっ⁉︎いや、若干シエラが俺だけしか見えないようにしたいなぁ……って思ったりしたことはあるけどっ‼︎監禁しちゃったらシエラは普通に暮らせない‼︎殺しちゃったらもう二度と俺に笑いかけてくれない‼︎そんなの、俺は望んでないっ‼︎大好きなシエラを俺が傷つけたら本末転倒なんだよ‼︎」
精霊王に怒鳴りながら言うルインに、私は目を見開く。
………ルイン……私のこと、大好き過ぎじゃないかな?
「というか、殺したらシエラのことドロッドロに甘やかすことができないだろ。それにシエラを自分の手で消すとか許せないし。シエラを怪我させようとか害そうとかする奴らは殺そうと思ってるけど。まぁ、とにかく‼︎俺は殺してシエラを自分だけのモノにするより、溺愛して、俺だけしか見えないようにするんだよ」
怒った顔でそう言うルインは、とっても格好良くて。
あぁ……好き……。
私は頬を赤くして彼の腕に抱きついた。
「………もうルインしか見えてないわ……」
「もっと甘やかすよ。俺なしでは生きれなくなるくらいに」
「………あぅ……なら……私も、甘やかすわね?」
「……あ、うん……」
自分も同じ(というか…似たような)言葉を言っているのに、私に言われたルインは頬を赤くする。
………イケメンなのに可愛いって最強だと思うわ。
そんな私達を見ていた精霊王は『成る程』と納得した。
……何を一人で納得したの?
『シエラ嬢を傷つけようとする輩を殺すという考えに至ることから、ルインのヤンデレ属性はちゃんと付与されているのだろうが……溺愛力が強くてヤンデレが緩和されてるんだな。というか、愛情対象者より愛情対象者以外に矛が向かうタイプというのか?』
「「…………溺愛力?」」
『わたしが命名した。愛は世界を救う的な感じだ、うん』
「「……………」」
………なんかどっかの歌でありそうな台詞ね……。
『うーん。愛情というのは奥が深いな』
……えっと…取り敢えず。
ルインのヤンデレはヤンデレでも、愛情で緩和されてるよってことね?
………あぁ、なんかよく分からなくなってきたわ。
『まぁ、わたし達はわたし達のヤンデレ愛があり……ルイン達にはルイン達なりのヤンデレ愛があるのだ』
ぱっぱかぱ〜ん。
というファンファーレが似合いそうなポーズを取った精霊王。
私とルインはとても冷めた顔をして……クルッと踵を返した。
「帰ろっか、シエラ」
「えぇ」
面倒くさい余り、精霊王の制止を無視して(ルインの力で)私たちの世界に帰ったわ。
現実世界に戻った私達は……《精霊の花園》に行く前の昂りが嘘のように消え去っていて。
百パーセント精霊王の所為なのだけど……。
「今日は素直に帰ろうか……疲れた……」
「そうね……ご褒美はまた今度にしましょう……」
私達は大きな溜息を吐いて、帰路に就いた……。




