第11話 盛り上がってる時に水を差されると苛立つよね。
はい‼︎沢山の方に読んで頂きありがとうございます‼︎
こんなつもりはなかったけれど、無駄にコメディーってます‼︎
今後も頑張りますので、よろしくどうぞ‼︎
エクリュ中佐とシエラ嬢が去った謁見の間。
我は直ぐにエルフの里への対処を決めようとして……その前に、我の背後で呆然としている息子をチラリと見た。
「………クリストファー」
「………へ?…あ、はいっ‼︎」
声をかけると、息子はハッと我に返ったようで真剣な表情になる。
普段は王太子として相応しい振る舞いをするクリストファーだ。
なのに、今日はその姿が見る影もない。
「随分と呆然としていたが……何かあったか?」
ドラゴンを討伐しようと意気込んでいたが、エクリュ中佐に先を越されたため落ち込んでいるのか?と推測していたのだが……。
まさかの答えに、我は驚愕した。
「……その……シエラ嬢に、認識されて……いなかったようで……」
「………ん?」
「学園でたまに顔を合わせていたのですが……それがわたしだと認識していなかったらしいのです」
その言葉を理解するのに時間がかかったのは、仕方ないことだと思う。
つまり、シエラ嬢はエクリュ中佐だけを考えていて……他の男に興味がなく、認識さえもしていなかったということだ。
………それを笑わずにはいられないだろう。
「………ふっ…」
「父上?」
「あはははははっ‼︎」
思わず腹を抱えて笑った我は、目尻に浮かんだ涙を拭いながら、息子を見た。
「仕方ないだろう。シエラ嬢はエクリュ中佐しか見ていない。あの二人は五年前からずっとそうだ」
「えっ⁉︎」
(………おや?)
クリストファーの顔に浮かぶのは驚愕……絶望。
その顔から察するに、我が息子は叶わぬ恋をしていたらしい。
「なんだ。シエラ嬢に恋慕の情を抱いていたのか?」
「………っ…」
沈黙は肯定だ。
確かに、シエラ嬢はとても綺麗な娘に成長した。
珍しい髪色や美しい所作……クリストファー以外にも恋慕の情を抱く青年達は多いだろう。
しかし、それに彼女が気づかないのはエクリュ中佐という最愛の存在がいるから。
青年達の恋慕は、絶対に叶わない願いだろう。
だから、過激な行動に出る前に……釘を打っておこう。
「止めておけ。下手すればお前が死ぬどころか世界が滅ぶぞ」
「…………ぇ…?」
「エクリュ中佐は彼女のためならば世界すら滅ぼすつもりらしいからな。シエラ嬢を奪おうとする者にも容赦しないだろう」
サァァァア……と顔面蒼白になっていく息子と、重臣達。
これで息子を始めとした、重臣達の子息もシエラ嬢には手を出そうと思わなくなるだろう。
何も知らない青年が暴走する、という事態は防げるはずだ。
………流石に馬鹿の対処はできないが。
これから……エクリュ中佐とシエラ嬢を取り巻く環境がどうなるのか?
我は面倒ごとの予感しかしないな……と苦笑した。
*****
謁見の間を出た私とルインは、互いに顔を見合わせた。
そして……王宮の廊下だというのに人目も憚らずに抱き合った。
「やった……‼︎やっとシエラを俺のものにできるっ……‼︎」
その声は歓喜に溢れていて。
私も嬉しくて彼の首に腕を回して、耳元で囁く。
「ねぇ、ルイン。私を、貴方の家に連れて行って?」
その言葉が何を指し示すのか。
それを理解したルインは目を見開いて、頬を赤くした。
二年ぐらい前から、ルインが住む家に何度か行きたいとお願いしていた。
でも、それはずっと叶わなかった。
その理由は簡単。
私が、彼の家にいたら……我慢できなくなって襲ってしまうかもしれないからなんだって。
婚前交渉はあまり良いとされていないこの世界だから……婚約者でもないルインが私を襲ってしまったら、大事になる。
だからずーっと、私はルインの家に行けなかったの。
でも、陛下の許しが出た以上……もう何も気にしなくていい。
婚約関係でちょっとフライングするぐらいなら、問題ないと思うのよ。
だって、私達は互いに互いしか見えてないんだもの。
今更、他の異性に熱をあげることもないでしょうし。
それに……はしたないと思われても、私はルインが欲しいのよ。
「ご褒美、忘れてないでしょう?」
「っっ‼︎」
加えて、私は言ったことを嘘にする気はないしね。
ルインは私を片手で抱き上げると、熱を帯びた……蕩けそうな瞳で見つめてくる。
あぁ……胸がきゅうっとする……。
彼は甘い声で答えた。
「忘れて、ないよ。でも、俺の家ってかなり普通の…いや、ボロアパートなんだけど……大丈夫?」
軍部にお泊まりすることが多いらしいけど、ルインは王都の端にあるアパートに暮らしているらしい。
家賃が安いから、そこそこボロいんだとか。
「大丈夫よ。前世、同じようなところに住んでたことがあるから」
えぇ、私は苦学生でしたけど?
ボロアパートなんて懐かしささえ感じるもの。
だから、どんなところへ連れて行かれようと動揺しない自信がある。
それを聞いたルインは頬を赤くして……色っぽい声で囁いた。
「………なるべく、優しくするけど……俺も男だから……激しくしたらごめんね?」
「っっ‼︎」
「後…少し壁が薄いから……シエラの可愛い声、沢山聞きたいけど……声はなるべく我慢してね?」
「あぅ……」
そんなこと言われたら、これからどんなことをされるか……って想像しちゃうんだけど……。
身体はまだ発展途上(?)だけど、多分、大丈夫なはず‼︎
えぇ、だって精神年齢はおばちゃんだもの。
十八禁な展開だってセーフよ、うん‼︎
……と…意気込みましたが……。
次の瞬間、私達は花畑に立っていました☆
「「………………」」
私とルインは荒んだ気持ちで目を細めて、この場所に喚んだ存在を推測する。
そして、なんかキラキラした笑顔で現れたー……。
『めでたいな‼︎おめでー』
「逝け」
『グフッ⁉︎』
精霊王の顔面に、ルインが私を片手に抱きながら右ストレートを決めた。
空を舞う精霊王の身体……わぁ、綺麗なアーチを描いてるぅ……。
そして、ゴロゴロと花畑を転がっていくその様はコメディーじみていて。
でも、流石の私も盛り上がっている時に水を差されて苛立ってるのよね。
えぇ、一切の慈悲もなく助けようと思わないわ。
まぁ、私よりも。
ルインの方が激怒してるっぽいんだけど。
「おい、なんで俺らを喚んだ。なんで今連れてきたんだ。空気読むって言葉を知らないのか?なぁ、ずっと我慢してたんだぞ?やっとシエラと人目を気にせず本格的にイチャイチャできると思ってたのに……どうして邪魔するんだよ。あんた、一応俺の親父なんだろ?息子の気持ちを考えろよ。殴るぞ」
……結構、人目があるところでもイチャついてると思ってたんだけど……ルインからしたら、まだ序の口だったのね。
これ以上、イチャイチャになったら……幸せすぎて溶けそう……。
でも、そうすれば私とルインの邪魔をしようとする人もいなくなるから万々歳ね。
ルインはイケメンだから、私がいても他の女の人が寄ってきそうなんだもの。
いや、侯爵っていう高い爵位を貰ったから実際にそうなるわよね?
…………想像するだけで近づいてくる女を始末したくなる……。
うん、他の人が近づこうと思わなくなるくらい、いっぱいイチャつくことにするわ。
それこそ砂糖を吐く勢いで。
でも、その前に少し訂正しないと。
「ルイン、もう殴ってるわ」
「もっと殴る。顔面を陥没させてやる……」
ユラユラと負のオーラを纏うルインを宥めながら、転がった精霊王を見つめる。
あの綺麗な顔が陥没するって相当殴るってことよね。
ルイン似の顔が歪むのはあんまり気分がよくないけど……ルインじゃないから、いっか。
「ルイン。殴って喋れなくなる前になんで喚んだのかを聞かなくちゃ」
「あぁ、そっか」
『……わたしの扱い…酷くないか……?精霊王だぞ……?』
ルインは鋭く、仄暗い光を宿した真紅の瞳で精霊王を睨む。
そして、ぞくっとするような低い声で問うた。
「おい、なんで俺らを喚んだんだ?」
『……いや…息子よ……父親をそんな簡単に殴るか……』
「あ゛?」
『なんでもありません、すみませんでした』
ほら〜……ルインだって盛り上がってたところを邪魔されたらキレるわよ。
精霊王は産まれたての子鹿のようにプルプルしながら立ち上がった。
『いや、な?息子と息子嫁がやっと結ばれることになったから嬉しくて……』
「…………」
『おぉ……その冷たい顔はルーナそっくりだな……』
「この変態親父め……」
ちょっと恍惚した笑みを浮かべる精霊王に、ルインはギリッと歯軋りをする。
落ち着いて〜……顔が怖いわよ〜……。
「で?嬉しいからって呼んだのかしら?精霊王」
『……いや、やっと二人が夫婦になるから……わたしとルーナがどんな感じだったかを参考程度に語ろうかと』
「それって単に惚気たいだけよね?自分の息子と私に、惚気たいだけよね?それだけのために私達を呼んだのなら叩くわよ」
『二人して同じことを言っているな……』
「「黙れ」」
ドスの利いた声で言うと、精霊王はしょぼ〜ん……という効果音が似合うような顔をして落ち込んだ。
なんなの、このすっごくムカつく顔。
今すぐ叩きたいわ……。
「今すぐ殴りたい顔してるよな……」
「激しく同意するわ、ルイン」
イライラし始めた私達だったが……周りの精霊達に『精霊王がいじけると面倒なの。話を聞いてあげてなの』とか『凹むと真面目に仕事しなくなる〜‼︎』と言われたら、聞くしかない。
だってこんなんでも一応、この世界の管理者だからね。
こいつがいじけたら、シワ寄せが行くのは大精霊達だもの。
ただでさえルインのプチ暴走で大精霊達の負担が増えてるし……これ以上は申し訳ないわ。
「「………はぁ……」」
私とルインは、呆れたように溜息を零すしかなかった。




