夜は未だ明けず、されど星は輝く4
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ティムルの木の下で寝ころびながら、これからの事を考える。
この国を救うつもりはなく、王女に協力するつもりもない。
「いっそのこと滅茶苦茶にしてやろうか」
頭によぎるのはこの国に対する復讐。滅びかけているこの国を自分の手で止めを刺そうかと考え、揺れる枝葉を見て考えを打ち消す。
この国に復讐したい人物はいない。誰もが既に死んでおり、復讐するには戻ってくるのが遅すぎた。
けれど、心で未だ燻り続ける憎悪は晴れず、この国を憎く思う気持ちも減ることがない。
「なあアリエル。なんで」
復讐に走ればこの気持ちは晴れるだろう。たとえ関係の無い人達ばかりでも、この国に対する復讐は完了する。
しかし、できない。復讐に走ろうとすればするほど、大切な思い出が瞬を縛る。
『見て!!すごい絶景でしょ?私ここから見る景色が好きなんだ』
記憶の中の彼女が、
『シュンがどうか分からないけど、私は好きだよ。この国』
思い出で笑う彼女が、
『――この世界を恨まないであげて』
死んだ彼女の言葉が、瞬の脳裏をよぎる。
「無理だよ、俺には無理だ……!」
愛する彼女の最後の言葉。彼女の言葉を守ろうと必死に憎悪を抑え込むが、いくら抑え込んでとこの世界に対する恨みは決してなくならない。
遺言すらも守れない自分に嫌気がさし、いっそのこと死んでしまおうかとも考えるが、この命を助けるためにアリエルは命を落としたのだ。ここで自殺すれば彼女の死を無意味と瞬本人が定義してしまう。
それはダメだ。それだけはダメだ。
「どうすればいいんだよ」
何もできない。
恨みが、憎悪が、愛が、彼女の言葉が瞬を搦めとる。
「なんで君じゃないんだろうな」
こんな自分より、アリエルが生きていた方がよっぽどいいのにと思いながら、瞬はただ空を見上げる。
血に汚れすぎた手を伸ばし、月の光を遮りながら、勇者は未だ動かない。
自己嫌悪に陥っていると、顔の横にティムルが一つ落ちてきた。
「食べろ、って事か?」
もちろん望んだ返事は返ってこない。視線の先にある木は風に揺られて枝葉を揺らすのみ。
「いただきます」
久しぶりに食べるティムルの実は、甘酸っぱい果汁と果肉が口の中に広がり、そして少しだけしょっぱかった。
「変な味だな」
一口、また一口と果実を齧りながら改めてティムルの木を見る。
「生きていくよ。何もできなくても、それでも俺は生きていく」
未だ感情に整理がつかず、迷っているけれど、瞬はこの世界で生きていくのだ。それが、アリエルの望んだ事だから。
***
一日がずっと夜に包まれているのは、思った以上に時間の感覚がわからずらい。
今が何時かわからいが、おそらく昼といったところ。瞬達が新しい世界に来て一日が経過した頃、瞬の部屋に来訪者が現れた。
聞こえてくるノックの音に返事をすると、早速後悔する。
「こんにちは。星谷様」
扉から現れたのは王国の王女サンドラ。生徒達をこの世界に呼んだ張本人で、瞬を裏切った王の血を引く娘。
「昨晩はよく眠れましたか?メイド達から昨日は何も食べてないと聞きましたので、よろしければこれから昼食を」
「雑談をするつもりはない。要件をさっさと伝えろ」
なんとか距離を縮めようとするサンドラを拒絶し、要件を聞き出す。
「わかり、ました。要件はこれからとある場所に他の勇者様を案内します。どうか星谷様も同行していただけないでしょうか」
サンドラの申し出に、少し思考を巡らせる。
これが別のお願いなら即座に否定し、今日も一日中思い出の場所で過ごすところだが、この申し出は少なからず瞬にメリットがある。
王城の外がどうなっているのか。二百年前の情報は役に立たないと考えているため、直接王都を見ることができるのは大きい。
「同行するだけだ。それ以上は何もしない」
「ありがとうございます!」
瞬の言質を取り、早速皆んなが待っている場所まで歩いていく。
「それともう一つ。あの様な部屋しか用意できず申し訳ありません」
いつ謝るかタイミングを計っていたようで、二人きりで王城を歩きながら瞬に謝る。
「別にいい」
他の生徒なら文句の一つでも出るだろうが、瞬にとってあの部屋は数少ない思い出の場所なので文句などあるわけがない。
「それなら、いいのですが」
本人がいいといっているならこれ以上追求はしないと口を閉じ、瞬もサンドラと会話するつもりがない。
必然的に無言の時間が続く。
数分ほどの時間を無言で過ごし、待っていた生徒達と合流した二人。サンドラは先頭に立ち、瞬は最後尾に立ち王城の外へと歩き始める。
「人が少ないね」
生徒の誰が呟いた通り、王城の外は人が少なく活気もない。
これだけでも王国が滅びかけているのが見て取れる。
「多くの人が王国から流れた影響です」
毎日が夜に覆われている王国では農作物が育ちにくく、食料も今では多くを輸入によって成り立たせている。
この他にもジワジワと色々な問題が浮き彫りになっていき、一人また一人と王国から人が去っていった。
気がつけばご覧の通りの有様。
「太陽が戻れば、きっとこの国も活気を取り戻すはずです」
太陽が戻ればこの国も二百年前のように活気に満ち溢れだ国として作り直せると信じ、サンドラは目的の場所に進む。
それから長い時間歩き、ついに目的の場所に到着した。
「ここですか?」
「はい」
ついた場所は年季の入った教会で、瞬にも見覚えがある場所だった。
(まさか)
サンドラを先頭にぞろぞろと教会に入る生徒達。瞬は嫌な予感を感じながら最後に教会に入り、その光景を見て驚愕する。
まるで心臓を掴まれたような驚きが瞬を襲う。
なんの変哲も無い教会の奥に、一振りの刀が突き刺さっていた。
「あれは日本刀?」
「なんで異世界に?」
異世界に似合わない代物に生徒達が混乱する中、この場にいる二人はそれが何か知っていた。
一人は話を聞いたから。
一人はその刀を使っていたから。
「あれは聖剣。代々勇者達がその手に握り、戦った武器です」
サンドラの説明に幾人かの目の色が変わる。
目の前にあるのは伝説の武器。まさしく勇者が扱うに相応しく、それを手に持ち英雄になりたいと考える人がいてもおかしく無い。
「なんで日本刀?」
「聖剣は担い手によって形状を変えるんだよ。この形状は二百年前に世界を救った勇者のものだね」
疑問に答えた人物に視線が集まる。
声の主はサンドラではなく、修道服を着た一人の女性のものだった。
「ようこそ異邦の方々。僕はシスターアンナ、気軽にアンナさんと呼んでくれ」
女性にしてはサッパリとした口調で話す彼女は、生徒達に笑みを見せた後、サンドラに向く。
「本当に呼んだんだね、王女様」
「私には、この国を救う義務があります」
「代わりではダメだと言った筈だけど。聖剣は担い手を変えていない。この国を救いたいなら、かの勇者に許してもらうしかないよ」
「それではこの国が滅びます。その前に聖剣に何としても認められなければなりません」
「希望的観測だ」
「それでも、彼らは希望です」
何かしらの対立があるのだろう。アンナとサンドラは互いに言葉をぶつけ合う。
「試したいなら試せばいい。教会の扉は誰にでも開かれているからね」
いくつかの言葉をぶつけ合った末、アンナが余裕を見せてその場を引く。
「えっと」
生徒達が困った顔をしているのを見て、熱くなりすぎていたといつものサンドラに戻る。
「皆様には、あの聖剣を引き抜いてもらいたいのです」
聖剣を引き抜かなければならない理由があった。
「自然界に満ちる魔力は、大地に流れる龍脈とよばれるものから供給されています」
瞬が離れた後、魔力の講義を受けた生徒達は自然界の魔力がいかに必要か理解している。
「この教会は複数の龍脈が交差している場所なのですが、二百年前のあの日から聖剣が龍脈を封じ、王国内では魔力が激減しました」
龍脈とは自然が作り出した魔力の奔流。この世界中をいくつもの龍脈が流れており、その龍脈から大地を通して空気中に魔力を放出している。
教会に刺さっている聖剣は龍脈を封じ込める栓のようなものだ。
「召喚の陣は龍脈の魔力を利用しています。この聖剣を抜く事さえできれば」
「僕たちも早く元の世界に帰れる」
「はい。そして聖剣が龍脈を封じたのと夜が王国を覆ったのは同時ですので、空にも何かしらの変化が起こるかと」
たとえ空に変化がなくとも、王国に魔力が満ちれば魔法使いたちの研究も進み、結果的に王国が太陽を取り戻せるかもしれない。
サンドラの期待に応えようと、生徒たちが動き出す。




