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夜は未だ明けず、されど星は輝く

 最悪な目覚めから始まる一日は、碌なことが起こらない。


「いいじゃねえか。学校なんかサボっちまおうぜ」

「学校よりいいこと教えてやるよ」

「放してください!」


 朝から胸糞悪いものを見る目になると、瞬は舌打ちをする。

 通学路の途中で、同じ学生であろう少女がガラの悪い男二人に絡まれていた。


「一名さまごあんなーい」

「楽しもうぜ」

「嫌!誰か!!」


 頭が緩いのか、男二人は無理やり少女を連れ去ろうとする。そんなところを警察に見つかれば即逮捕されてもおかしくないのに、それすら理解してないらしい。

 少女はそれを理解しているからか、即座に周りに助けを叫ぶが、通りすがる人達は皆視線を逸らし距離を空ける。


(くだらない)


 誰も彼もが巻き込まれたくないと、見知らぬ少女を生贄に捧げることをよしとする。

 少女は誰も視線を合わせることすらしない現実に、絶望を顔に浮かばせた。


「誰か、助けてよ……!」


 絞り出すように吐かれた言葉は、確かに瞬に届いた。


「おい」

「あ?」


誰もが触れてはならないと避けて通る空間に、土足で踏み込む。


「なんだガキ。見せもんじゃねえぞ」


 男達の目と鼻の先まで近寄った瞬を威圧する。

 あまりに都合のいい悪役。ドッキリじゃないのかと錯覚してしまうが、彼等は本気でこの行動を起こしているのだ。

 これが正義感の溢れる人なら、少女を悲劇から助けるために立ち上がるのだろうが、瞬は違った。


「通行の邪魔だ」


 瞬に顔を寄せ、さらに威圧する男の片割れに拳を叩き込む。

 無様な悲鳴をあげて倒れた男を見て、もう片方の男が臨戦態勢をとる。


「てめえ!!」

「こんなこと俺のいない所でしろ。くだらないものを見せるんじゃない」


 男は問答無用と拳を振るう。相方の仇をとるためか、男の狙いは瞬の顔。


「ふん!」

「はがっ!?」


 クロスカウンター。男の拳を紙一重で避け、カウンターで拳を顔に打ち込む。

 先ほどの焼き増し。二人目の男も同じく地面に倒れる。


「くそ!」

「覚えてろ!!」


 今の攻防で実力を思い知ったのか、二人の男はありふれた捨て台詞を吐いて逃げていく。


「あの!」

「……」


 助けた少女がお礼を言おうと近寄るが、瞬は彼女を無視して歩き始める。

 そもそも彼女を助ける気がなかったのだから、感謝を受け取るつもりが瞬にはなかった。

 瞬がこの行動をとったのは、ただ自分を肯定するためであり、否定しないためである。

 一年前のあの日、別の世界で最悪の裏切りをされた瞬は、あれ以降小さな悪でも見過ごせなくなっていた。それは勇者としての義憤ではなく、それを見過ごしてしまっては瞬も裏切った連中と同じ存在になってしまうような気がしたからだ。

 人を信じられず、疑いながら悪を憎む姿は自分で見ても滑稽だった。


(本当にくだらない)


 湧き上がる気持ちをくだらないと吐き捨て、目的の学校に向かう。


***


「これでホームルームを終わる。明日から夏休みだが、怪我をせず事件や事故に巻き込まれないように」


 一学期を締めくくる担任の言葉をクラス全員が聞き届け、今日の学校が終了した。

 担任が教室を出て職員室に戻ると、クラス中から歓声が沸き起こる。


「夏休みだー!!」

「遊ぶぜー!」

「宿題もしないとダメだよ?」

「義人は真面目だなー」


 友人達と寄り集まり、大小の複数のグループが出来上がる。どのグループも明日から始まる夏休みに浮かれていた。

 そのどのグループにも属さない瞬は、帰り支度を淡々と済ませる。

 去年の夏休み以降、性格が激変した瞬を誰もが扱いきれず、瞬もまた歩み寄ろうとしなかった。


「……」

「星谷君」


 結果的に腫れ物のような扱いを受ける瞬に、一人の女子生徒が話しかける。

 セミロングの茶髪に、整った顔立ち。どこかで見覚えがあるような気がして、すぐに思い出した。


「ああ、今朝の」

「うん。その節は本当にありがとうね」


 神崎ハル。それが今朝助けた彼女の名前。


「話はそれだけ?」

「え、あ、うん」

「そう、じゃあ」


 適当な返事をして立ち上がる。

 ここで彼女の気持ちを否定するのは簡単だが、その後が面倒だ。ならばここで気持ちを受け取ってすぐに帰るのがベストと話を聞いただが、それが致命的な失敗だった。


「あれ?ドアが開かないんだけど」


 一人の男子生徒が教室のドアを動かそうとして右往左往している。


「はあ?そんな訳ないだろ」

「間違って鍵閉めたんじゃねーの」


 男子生徒の悪ふざけだと思い、新たに2人の生徒がドアに近寄る。


「おい、マジで開かねえぞ!!」

「どうなってんだ!?」


 教室に起こる異常はすぐに伝播する。


「どういうこと!?」

「誰かなんとかしてよ!!」


 異常に怯える生徒が増える中、異常は加速する。

開けられていたグラウンド側の窓が全て締まり、カーテンがかけられる。

 誰も触れていない状況で起きた明らかな異常に、ここでようやく誰かの悪ふざけだと思っていた生徒達も異常を理解する。


「どうなってんだ!?」

「なんで窓とカーテンが動いたんだよ!!」

「なによこれ!?」


 阿鼻叫喚。ほぼ全ての生徒達が悲鳴をあげる中、一人だけが何が起ころうとしているか察する。


「まさか……!」

「星谷くん?」


 既視感、いや、確かに瞬はこの光景を見たことがある。場所も状況も違うが、何者かの手によって外界から孤立させられたこの光景を。

 瞬が何か行動を起こそうとした時、ついにソレは現れた。


 教室の床全てを覆う巨大な魔法陣。


「なにこ--」


 視点が切り替わる。

 魔法陣から光が溢れたと思うと、次に自分達が見たのは暗くジメジメした空間。そこで火を光源として持つ甲冑を着た男達と、その中央にいる1人の少女。


「ようこそ勇者様方」


 少女が綺麗なお辞儀をする中、ほとんどの生徒が今の状況を理解できずに呆然と彼女をみつめる。

 その視線に含まれるのは恐怖や混乱。その中で一つだけ違う感情が紛れ込む。

 それは憎悪。


「……!!」


 瞬は理解する。

 見たことがない、しかし確かに見れる面影が、瞬を裏切ったとある国の王と重なる。彼女はあの王の血を引く者だと。


(クソッタレが!)


 星谷瞬は再びこのクソッタレな世界に呼び出された。

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