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二度目の勇者は救わない  作者: 銀猫


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21/21

太陽は夜を照らせるか

 エルフの里での一件から、2週間ほどが経った。


「もう動いてよろしいのですか?」

「大げさだな。元々大した怪我じゃない」


 相も変わらずボロっちい部屋で、肩をグルグルと回すシュンをサンドラが心配そうに見つめる。

 先の戦闘で全身血だらけになったシュン。浅くはあるが、いかんせん負った傷が多すぎた。いくら元勇者とは言え寝たきりの生活が続き、今日ようやく完全回復した。


「どこに行くのですか?」


 いらないと言い続けたが、頑なに譲らず看病し続けたサンドラは少々過保護気味になり、今もどこかに行こうとするシュンを呼び止める。


「散歩」

「でしたら私も」

「いらん、一人で行く」

「ですが……」

「しつこい。もう問題ない」


 なおも食い下がるサンドラを押しのけ、シュンは久しぶりに外に出る。

 城下町は太陽に明るく照らされ、復興の兆しを見せている。すれ違う人々は皆笑顔で、だれもが明日に希望を持っているみたいだ。


「おや、シュン君じゃないか」

「シスターアンナ」

「堅苦しいなぁ。私の事は気軽にアンナさんと」

「何か用ですかシスターアンナ」

「むぅ、頑固だねぇ」


 ブラブラと用もなく露店を巡っていると、顔見知りと出くわした。

 買い物籠を腕に下げたシスターアンナは、明るくシュンに絡んでくる。


「……なんですか」


 アンナは軽い足取りで距離を詰めると、シュンの顔をのぞき込んできた。

 あまりに近い距離に、シュンは一歩後ろに下がり顔を逸らす。


「迷いは晴れたかい?」

「……晴れてはない、かな」


 アンナの言葉は、シュンが隠す心の一番奥を容易く暴き出す。簡単に本質をついてくる彼女の言葉が、少しだけ苦手だった。


「それにしては、良い目をしているけど?」

「……立ち止まるのはやめたんで」


 迷い迷って立ち止まり、一時期は子供の癇癪の様に泣いて蹲るだけだったけれど、再び愛を知り、命の重さを知った今、ただ無作為に時間を浪費するのはやめにする。

 彼女に貰ったこの命で、もう一度世界を見つめなおすと決めた。泣くのは、まあそれからでもいいかと今は思えるようになった。


「旅に、出ようと思います」

「良いじゃないか。君が救った世界だ。誰にも文句は言えないさ」


 シュンの言葉を聞いて、アンナは笑う。


「もしまた迷うことがあれば、いつでも会いに来なさい。話くらいは聞いてあげよう」

「聞くだけですか?」

「答えを出せるのはいつだって己だけなのさ」


 無責任でアンナらしい言葉を残して、彼女は買い物かごを揺らしながら軽い足取りで人ごみの中に消えていった。あっさりとした別れも彼女らしい。


 アンナと話した後、一通り町を回ったシュンは城に帰る。思っていたよりも時間を潰してしまい、気が付けば夕方になっていた。

 城に着き、部屋に帰る為に歩いていると、丁度訓練場から出てくる一団と遭遇した。


「義人!!先戻ってるぞ!!」

「疲れたー!!」

「お腹すいたー!!」


 出てきたのはクラスメイト達。彼等は訓練後らしく額にびっしりと汗をかいている。明るい雰囲気だった彼等だが、シュンを見た途端に全員が口を閉じ、重い空気が場を支配した。


「……」

「……」


 クラスメイト達は気まずい表情を俯かせて顔を隠し、速足でシュンの横を通っていく。

 シュンも態々彼らを呼び止める理由もなく、すぐに一人きりになった。

 

 シュンとクラスメイト達の関係は、エルフの一件以降更に溝を深めていた。

 シュンからクラスメイト達に向けるモノは変わっていないが、クラスメイト達は更にシュンを避けるようになった。あまりに隔絶した力量の差、シュンの代わりをこなすつもりが結局シュンが片付けてしまったという結末。ただでさえ気まずいのに、シュン本来の戦い方を見た彼らの視線には怯えが混ざっている。

 クラスメイト達はもう、シュンを同じ世界から来た仲間とは思えないでいた。


 日本から来た普通の学生なら、殺すという行為に対して大きな忌避感を持っている。殺す為だけの刃を無感情に振り続けるなど、恐怖するのは当然だ。ましてや自分の肉体を囮にし、傷を負いながら殺し続ける姿を見れば誰だって避けようとするだろう。

 

「……」


 シュンも彼らの感情を理解できるからこそ、自分から彼らに接触することはない。ただ、サンドラから動向は僅かに聞いている。どうやら彼等はあの日以降積極的に訓練に励んでいるらしい。

 理由は分からないが、この世界で生きていかなければいけないのだから、力をつける事は良い事だ。

 恐らくもう二度と彼らと交わることはないのだろうと思いながら、シュンも歩き出すと訓練場から物音が聞こえた。

 さっき出ていったのでは?と不思議に思って少しだけ除いてみると、訓練場の中には一人残り黙々と剣を素振りしている生徒がいた。クラスの中心的な人物の義人だ。


「はぁ!!!!」


 一目見て分かった。一振り一振りに気持ちがこもっている。

 真剣に剣を振るう彼はもう学生ではなく、戦士の領域に足を踏み入れていた。


「……」


 騎士に教えてもらった型を反復する義人。邪魔をするつもりがないシュンは静かにこの場を後にする。

 既に袂は分かたれた。彼には彼の戦いがある。近くにこの国を出るつもりでもあるし、もう彼に関わることもないだろうと、この時のシュンは思っていた。 

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