獣鳴く夜空にて
「おーらい、おーらい」
「どいたどいた、資材が通るぞ!!」
「そこの瓦礫動かしとけ」
「はい!親方!」
魔族の襲撃から数日が経った。
襲撃はたった一日だったのに対し、王都は多くの傷を受けていた。
多くの建物が崩壊し、堅牢な王城ですら一部が崩れている。また、負傷者も多く、命を落とした人も少なくない。
ただでさえ疲弊していた王国は、これを機に国力を一段と落とすことになるが、王国に住む人たちは前を向いている。
「飲み物持ってきました!」
「お手伝いします!」
「おう、助かる」
その理由は二つ。
一つは二百年も王国の空を覆っていた夜が明けた事。この王国に生まれ育った者は青空を見たことがない者も多く、初めて見る青空の景色や、降り注ぐ太陽の光に心が鼓舞される。
そして二つ目は、
「ここの瓦礫も動かしてくれや」
「わかりました!」
「瓦礫浮かせます!」
王国の復興作業に手を貸す異世界からの客人だ。
王国から正式に異世界からの客人として発表された彼等彼女等を、国民達は新たな勇者と認識し、魔族の襲撃も青空を取り戻した事も彼等のおかげと思っている。
そんな勇者達が自分達の復興作業を手伝ってくれる事が、国民達に活力を与える。
それが例え勘違いだとしても、その思いが義人達を苦しめるとしても。
「……」
復興が進む王国、その歪さを瞬は王城の窓から見下ろす。
「……」
自分が救った国、救いきれなかった国、助けた人、間に合わなかった人、勘違いされている手柄。
窓から見える景色は瞬の心に様々な事を問いかけるが、瞬はただ見下ろすのみ。
胸の奥深くに燻る炎が、少し揺らいだだけだ。
「勇者様、飲み物をお持ちしました」
扉の外からノックが聞こえ、次いでメイドの声が聞こえる。
僅かに声が震えているのは、御伽の来訪者に対する緊張か、それとも蘇った復讐者に対する恐怖か。
その凶刃が自分に振り下ろされませんようにと、メイドは祈りながらぎこちない動作で近くのテーブルに飲み物を置く。
仕事自体はいつもの給仕だが、緊張感はいつものそれとは天と地の差がある。
「……」
「し、失礼します」
給仕の仕事を済ませたメイドは、瞬に一礼してそそくさと部屋を出る。
メイドの仕事に一切の興味を示さなかった瞬だが、メイドが部屋を出た後に置いていった飲み物に視線を向ける。
銀のグラスには並々と鮮やかなオレンジ色の液体が注がれている。一見すると前の世界にあったオレンジジュースのように見えるが、この世界の知識がある瞬は吐き捨てるような笑みを浮かべる。
「国が疲弊しているのに、権力者は変わりなしか」
グラスに入っているのは、この世界で上から数えた方が早いほどに高級なお酒、名を「大地の滴」。
龍脈上にある霊峰、その頂上に生える大樹の樹液からのみ作り出される名酒。この平民では手が届かないほどの高級酒を昼間から差し出す王城の者達の考えなど、いくらでも透けて見える。
「懐柔か、ご機嫌取りか、それとも時間稼ぎか」
おそらくその全てだろうと当たりをつけながら、再び王都を見下ろす。
あの日以降、瞬の正体を知った権力者達は王城の深い位置にて三日三晩会議を繰り広げている。その内容はもちろん、瞬の扱いをどうするか。
二百年前に死んだはずの勇者が、再びこの地に現れた。復讐を恐れ、なんとかご機嫌を取ろうと必死になる者。王都を救った事で楽観視し、取り込み、利用しようと企む者。そして両者をとりなし、なんとかいい落とし所を探る者。
三者三様の思惑を賭けた会議は終わる様子を見せず、瞬の扱いは宙ぶらりんのまま、誰もが腫れ物を扱うように接している。
(結局、時代が変わっても人は変わらず、か)
ふと、手に力が入っていたことに気がつく。自分自身も気がつかないうちに、苛立ちを覚えていたらしい。
このままではいけないと、気晴らしに散歩にでも出かけようと近くに立てかけていた刀を抱え、部屋を出る。
「ねえ、あれ」
「そうよ、あの人よ」
部屋を出ると、多くの視線に晒される。会議の渦中の人物、御伽の勇者、過去に生きる復讐者など、視線と共に語られる噂話は後をたたず、されど瞬に直接話しかける者もいなければ、視線を合わせる者もいない。
「あっ……」
王女ただ一人を除いて。
「お出かけですか?」
曲がり角で偶然出会ったサンドラは、優しく瞬に問いかける。顔には微笑みを浮かべているが、素人が見て分かるほどに元気がない。目元には化粧で隠し切れていない隈が見えるし、肌も荒れているのが分かる。なにより、疲れからか声に張りがない。
「少し、外を見ようと思って」
「そうですか、まだ瓦礫の撤去が終わっていない所もあります。どうかお気をつけください」
隠し切れない疲労がありながらも、こちらを心配するサンドラに、何か声をかけようかと思った瞬だったが、
「サンドラ様!会議が始まります、お急ぎを!」
その思考は、遠くから発せられた言葉に塗りつぶされる。
「今行きます」
表情に影を落としたが、瞬に顔を合わせると押し隠すように無理やり笑みを作り、
「それでは、私はこれで。どうか楽しんできてください」
別れの言葉を残し、重たい足で歩き出す。
瞬は知っている。彼女が会議でどういう立ち位置にいるのかを。
瞬の立ち位置をどれだけまともな所に置けるか奮闘していることも。
「なに意地を張ってるんだか」
それは、果たして誰に向けられた言葉なのか。
意地を張らず、周りに流されてしまえばいいのにという思いか、それとも……。
「……」
この世界に、瞬は期待していない。信用していない。
その、はずなのだ。
長らく放置してましたが、執筆を再開させていただきます。
これまで何度か下書きが間違えて公開してしまい、混乱させて誠に申し訳ありません。
感想、高評価、ブックマーク等、私の執筆モチベーションが上がるのでよろしくお願いします。




