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二度目の勇者は救わない  作者: 銀猫


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10/21

夜は未だ明けず、されど星は輝く8

「どうすれば……」


 一つ、また一つ罅が入っていく結界を見ながら、この場を無事に生還できる方法を考えるが、そんな奇跡みたいな方法などサンドラには思い浮かばない。


 絶望しかないのか、そう思われた時、生徒の一人が声を上げた。


「聖剣が……」


 その言葉に全員が一斉に聖剣に振り返ると、先ほどまではただ鎮座しているだけだった聖剣が自分はここに居ると宣言するように、淡い光を纏い光り輝いていた。


「っ!!」

「義人!?」


 その光景を見ていた生徒達の中から、義人が一人飛び出し聖剣の元に駆け寄る。


「頼む!今だけでいい、今だけでいいから僕に力を貸してくれ!!」


 聖剣の柄を掴み、一縷の望みを賭けて聖剣を引き抜こうとするが、聖剣はビクリとも動かない。


「お願いだ、どうか皆を守れる力を貸してくれ!!」


 それでも諦めず聖剣を引き抜こうとする義人を見て、複数の生徒達が恐怖に染まった目に強い光を宿し、義人と同じように聖剣の元に走り柄を掴む。


「この、抜けろよ!!」

「お願いだから!!」

「力を貸してよ!」

「こんのー!!」


 義人といつも話していたメンバーが、義人を手伝うために力を込めて引き抜こうとする。


「エリカ、つとむ、アミ、さとる!」

「水臭いぜ義人!!」

「私達も手伝うから!」


 友人に力をもらい、より一層の覚悟と決意をもって力を入れる。

 そんな彼らに他の生徒達も希望を託し、きっと奇跡は起きると信じていた。唯一、瞬を除いて。


(あぁ……)


 はっきりしてきた意識の中で、光っている聖剣を視認する。


(お前は、まだ俺を選ぶんだな)


 奇跡を信じ、今も抗うために力を求め奮闘する彼等ではなく、一度はこの国を見捨てようとした瞬を選ぶのかと、聖剣に問いかける。その問いに答えるように、纏っている光が揺れた。


「僕に、力を!!」


 希望を託す生徒達が大きな声を振り絞り、義人たちに声援を送る中で瞬はただ思考する。


(俺は何をしてるんだ)


 見捨てようとした筈だ。滅ぶのを望んだはずなのに、気が付けば傷だらけで勝てるはずのない敵と戦っている。そんな自分が分からない。


(俺は何がしたいんだ)


 思考を回し、考え、自らの行動原理を探す。それは記憶の中であっさりと見つかった。


『シュン君』


 微笑みながら名前を呼ぶ彼女を見て、全てを理解する。


(あぁ、そうか)


 彼女の笑顔が瞬の体に力を取り戻す。ボロボロの体を抱えながら立ち上がった瞬は、鋭い目線で聖剣を見る。その目にはもう迷いがない。


「星谷君?」


 ボロボロの体で立ち上がり、ゆっくりとだが歩き出した瞬に声をかけるハルだったが、彼女の問いに返事はない。


(この国が憎い、ああそうだ。でもな)


 瞬の心から憎悪は消えていない。今なおこの国が憎いし、滅べばいいとも思っている。けれど、


「あいつが愛したものくらい、守らないとな」


 彼女が愛したものくらいは守りたい。

 今度こそ守るのだ。本当に守りたかったものを取りこぼした血まみれの手だが、それでも彼女が愛したものくらい守れるはずだ、いや、守らなければならない。そのためならば運命の奔流に喜んで飲まれよう。


「でないと、男が廃る!」


 きっとあの世で見守ってくれているアリエルに、お前のくれた愛は無駄じゃなかったと伝えるため、瞬は歩く。


「どけ」


 聖剣を取り囲んでいた義人たちを押しのける。床に倒れた彼らは瞬に怒りに満ちた視線を向けようとして、次に起こった光景に目を奪われた。


「聖剣が……」


 瞬が聖剣の柄を手にした瞬間、今まで以上の光が聖剣に宿る。その光景に全員が驚愕し、視線が瞬に集まる。


「ふん!」


 大した力を入れた様子もなく、実にあっさりと聖剣は瞬の手によって引き抜かれた。それと同時に広がるのはガラスが割れたような音。振り返ってみれば、魔族がついに結界を破壊したのだ。


「何をしようとしているのか分かりませんが、皆殺しです!」


 魔族が力を込め、瞬に全力の一撃を放とうとした時に異変が起きた。


「な、これは!?」


 瞬を中心に眩い光が放たれ、突風が吹き荒れる。誰もがその場に釘付けになり、何が起こっていのかと顔を上げると、それが見えた。


「夜が、吸い込まれて」


 全員が見たのは、二百年もの間王国の空を覆っていた夜が瞬に吸い込まれていく光景。

 かつての残滓が取り込まれていき、体が再び組み変わるがそれだけではない。体がかつて世界を救った勇者のものに変わると同時、聖剣が蓄えた魔力もまた瞬に流れ込む。普通であれば体が壊れてしまいそうな魔力の奔流だが、これが瞬の体であり、なおかつ体が組み変わっている最中というのもあってその魔力にすら順応する。

 数分もしないうちに夜は完全に消え去り、二百年ぶりの太陽が王国に顔を出すと突風と光が消えた。


「あれが、太陽」


 生まれてから一度も太陽を見たことがないサンドラが、初めて見る青空と太陽に感動し涙を流す。


「こんなに、暖かいのですね」


 場違いにも感動していたサンドラを、魔族の雄叫びが現実に引き戻す。


「何をしたか知りませんが、結果は同じ!」

「星谷様!!」


 聖剣を握り、微動だにしない瞬を今度こそ殺さんと魔族が力を込め、サンドラが叫んだ時、一筋の疾風が駆ける。


「なん――」


 銀の閃光が走り、鮮血が飛ぶ。この場にいた人物たちが反応できたのはそれからだった。


「ギャアァーー!?」


 気が付けば、魔族の前に刀を振りぬいた瞬が立っており、魔族の左腕が宙を舞っている。


「きさ――」


 自分の左腕が肩から両断されたことに気づいた魔族は、悲鳴を上げた口から恨みを吐きつつ残った右の拳を振ろうとしたが、視認すら難しい瞬の蹴りが炸裂し後方に思いっきり吹き飛ぶ。


「ガハッ!?」


 後方にあった建物を粉砕し、肺の中の空気を全て吐き出した魔族を見て、瞬は聖剣である刀を抜き身で肩に担ぎながら左手を握っては開いてを繰り返す。


「まだ感覚にズレがあるか。最初の一撃で殺すつもりが、まさか二撃目でも殺せないとは」


 最後に力を込めて左手を握り、担いでいた刀をその場で振るう。空を切り裂いた刀は軽い突風を引き起こし、その場にいる人物達の前髪を吹き上げる。

 誰もが一連の出来事を理解できず、サンドラがついに質問をしようとした時、建物の瓦礫を吹き飛ばし、中からボロボロの魔族が出てきた。


「アナタ、何者ですか!?」


 さっきまで一方的に攻撃していたはずが、今では力関係が完全に逆転している。二百年前の勇者を認めていた聖剣を引き抜けていたこともそうだし、夜を取り込んだこともそうだ。目の前の人間は何者だと魔族が叫ぶ。


「――元勇者」


 瞬の答えを煽りと捉えた魔族は怒りに顔を染め、魔力を放出する。


「何をふざけたことを!」


 放たれた魔力が呼び水となり、王都に散らばっていた魔物たちが集まってくる。個の力で敵わないなら数で押す、それが魔族が次に打った手だ。

 集まってくるブラッドウルフ達が瞬を睨み、低く唸る。


「意外と多いな」


 三十を超える狼の群れを前にして、瞬は怖がるどころか余裕を見せ、剰え視線を狼たちからサンドラに移すではないか。


「王女様、結界は張れるか?」

「え、あ、はい。簡単なものなら」

「なら、そいつを張って後ろの奴らと入ってろ。その中にいる限り死ぬことはない」


 今サンドラが張れる結界は酷く弱い。狼達の攻撃を一度防げるかどうかだが、その僅かな時間があればよかった。その僅かな時間で状況をひっくり返せる力が今の瞬にはある。


「行きなさい!!」


 あくまで余裕を崩さない瞬に、その態度ごと打ち砕かんと魔族が叫ぶ。

 全ての狼達が一斉に瞬に走り出し、瞬もようやく刀を構える。


「勇者様!これを!!」


 教会の奥から出てきたアンナが、細長い物を瞬に投げ渡す。その正体は刀の鞘だった。

 投げられた鞘を背中に目が付いているかの如くキャッチすると、刃物の入れ口を逆手で持つ。


「助かる」


 アンナにお礼を言いながら、襲ってくる狼に刃を振るう。先頭を走り、地面を蹴りつけ頭上より襲い掛かる二匹の狼は、神速で振るわれた刃によって頭部と胴体を切り放され、力なく地面に落ちた。その様子を見ても怯える感情など狼達にはない。目の前の獲物を殺すためにの頃の狼達も襲い掛かる。


「ば、馬鹿な!」


 斬る斬る打つ斬る。右手で振るわれる刃は襲い掛かる狼を両断し、首を斬り、心臓を刺す。左手に持つ鞘は狼たちの頭蓋を砕き、顎を割り、足の骨を折り砕く。あれほどいた狼たちが血だまりに一匹、また一匹と倒れていく。

 一撃必殺、二撃確殺。全てが肉体の急所を突き、一撃目で致命傷を、それが出来ないならば一撃目で相手の隙を作り、二撃目で必ず致命傷を叩き込む瞬がこの世界で生き残るために身に付けた力。数多の敵を屠り、遂には魔王まで討った血まみれの刃が二百年ぶりに振るわれる。

 狼が全て血だまりに沈むのに数分もかからなかった。


「ならば!!来なさい、クレイデーモン!!」


 今回の作戦で動員した全ての魔物が倒され、こうなれば最後の手段とクレイデーモンをこの場に呼ぶ。


「■■■■!」

「■■■■■!!」


 空から降ってきたのは、なんと二体のクレイデーモン。二体とも持っている棍棒を掲げながら雄叫びを上げる。


「あんなものまで、星谷様!!」


 ブラッドウルフとは比べ物にならない巨大な敵に度肝を抜かれ、瞬を心配するが、肝心の瞬はつまらなそうにクレイデーモンを見ていた。


「やりなさい!!」


 魔族の指示にクレイデーモンが動く。一体目のクレイデーモンが棍棒を振り下ろした。恐ろしいパワーで叩きつけられた棍棒は爆風を拭き起こし、周囲の建物を揺らす。

 感触すらなく潰れた敵に勝利の雄叫びを上げようとしたクレイデーモンだが、まるで瞬間移動でもしたかのように突然目の前に現れた瞬に目を見開く。


「ふん」


 クレイデーモンが何か行動を起こすよりも早く、高速で鞘がクレイデーモンの顔面を打つ。岩石で出来ていた筈の顔はバラバラに打ち砕かれ飛散し、顔を失った胴体は後方に吹き飛ぶ。


「■■■!!」


 一体目のクレイデーモンを吹き飛ばした瞬は重力に従って地面に落ちるところを、二体目が棍棒を横に振るう。

 まるで野球のボールだなと下らない感想を考えながら、空中で無理やり体制を変え、迫る棍棒に蹴りを叩き込む。


「■■!?」


 空中で放たれた蹴りが棍棒をはじき、大きく体をのけ反らせるクレイデーモン。その隙に着地した瞬は足に力を込め、もう一度跳躍するとクレイデーモンの体に蹴りを叩き込んだ。全身に罅をいれながら吹き飛ぶクレイデーモンだが、頭部を失った一体目と共に周囲の瓦礫を磁石みたいにくっつけ、失った部分を再生して立ち上がる。


「やっぱコアを破壊するしかないか」


 再生した二体のクレイデーモンを見て呟くと、肩に担いでいた刀の切っ先を天に掲げる。


「天よ」


 突如、瞬の頭上に夜が渦巻きながら青空を染めていく。


「いったい何を――」

「落ちろ」


 広がっていく夜空はクレイデーモンを範囲内に捉えると拡大を止め静止する。ここから何をする気かと魔族が問おうとした時、瞬が片方のクレイデーモンに切っ先を向けた。


「■■!?」


 星が落ちる。大小さまざまな光球が流星群のように片方のクレイデーモンに落ち、爆発を引き起こして体を粉砕していく。

 上半身を吹き飛ばしていくその魔法に、サンドラは昔の吟遊詩人が残した勇者の記述を思い出す。


「――廻は夜天の臼、滴るは星の落涙」


 幻想的な魔法を見ながら、瞬の正体をサンドラは知る。煌めく星々に照らされ、夜を統べる者。


「夜の勇者……」


 サンドラの呟きと同じタイミングで流星が止む。

 星が落ちた後には上半身が半壊し、岩石ではない黒っぽい球体を露出させた姿が目に入る。


「穿て、ほうき星」


 先ほどとは違い、明確に狙いを定めた一撃が放たれる。光の尾を引いた一つの星が高速で落下し、寸分の狂いもなく球体を打ち抜いた。

 球体を破壊されたクレイデーモンの体は崩れ落ち、ただの瓦礫に変わる。


「なるほど、そこがコアか」


 崩壊した瓦礫からもう片方のクレイデーモンを視線で射抜き、手に持っている刀を力いっぱい投擲した。放たれた刀は矢の如く一直線でクレイデーモンの胴体に突き刺さり、切っ先を埋める。


「■■■!」

「これで二体目」


 体に刀が刺さるもダメージはないと勇ましく突き進むクレイデーモンだったが、高速で接近した瞬がその勢いのまま柄を思いっきり押し込み、コアを貫く。

 コアを貫かれ、動きが止まったクレイデーモンから刀を引き抜き、崩れ落ちる瓦礫と共に着地した。巻き上がる土煙の中で聖剣を振るい、土煙吹き飛ばしながら姿を見せる様子はこの場にいるすべての人物の視線を釘付けにする。


「まさか、まさかまさかまさか!」


 配下の魔物も失い、二体のクレイデーモンを失った魔族は空に逃走を図る。プライドや作戦を捨ててでも知らせねばならない情報ができた。


「魔王様に早く知らせねば!!」

「おい、どこに行く気だ?」


 蝙蝠の羽を広げ、いざと逃走せんと力を込めた時、瞬の声が至近距離で聞こえる。


「貴様、ゆう――」

「死ね」


 魔族が言葉を喋りきるよりも早く、銀の閃光が煌めき魔族の頭が胴体と別れる。

 血を噴き出し倒れる魔族の体を見ながら、刃に着いた血を振り払い鞘に納める。ここに戦いは終結した。


「星谷様!!」


 何が起こったか理解できずに呆ける生徒達を置いて、サンドラが瞬に駆けよる。その光景から目を離し、青空を見上げた。


(終わったよ、アリエル)


 長い長い夜がついに明けた。運命の歯車が動き出す。

  


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