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03.(魔物)


   *


 目的の地には、昼過ぎに到達した。森を抜けること半日。岩山の中腹。長老は、それを「竜の巣」と呼んでいた。


 子供を連れてくるのは些か気の乗らないところはあったが、帰れ、と云うのも無茶なことだと思った。下山と仕事のどちらがより危険なのかは、計り兼ねていた。


 しかし、どうせ心配するのなら、とゴールは考えた。手元に置いておいたほうが精神衛生上良い。とは云え、下山も仕事も、どっこいだ、とはたして云い切れるものだろうか。


 ところがである。赤肌族の子供は、地元民だけあって道に明るく、近道に見えてても悪路は避け、遠廻りに思えて安全な案内をするのである。

 無下に放り出せないにしても、役に立つとなれば、同行させる以外にあるだろうか。


 と、自分の判断を正当化させるのに苦慮しているゴールにヒロは「あれだよ」と指さして見せた。

 切り立った岩肌にぱっくりと開いた、縦長の亀裂が見えた。なるほど、確かに「竜の巣」と呼ばれるのに相応しい。


「あのさ、」と子供ははにかみながらゴールを呼んだ。「あの……さ」

「なんだ」

「兄貴って……呼んでいい?」

 ゴールは白い歯を見せ、「いいぜ」


 その洞窟は古くからあった。いつしか魔物が住み着き、村を襲い人々を困らせた。と、長老は語った。その語り口は、寝つきの悪い子供を脅かす趣味の悪い怪談めいていた。語る長老の容姿は妖怪とどっこいだった。


 話には続きが合った。魔物は美しい娘を求めた。村は上へ下へと大騒ぎになった。すると魔物は代案として金を求めた。なんとも俗物めいた魔物である。しかも献上に訪れた者は、頭からバリバリと喰われたのか、戻って来たのは僅かであった。


 魔物の話だけが受け継がれた。そしていつしか、金の献上は旅の者の役目となった。戻らなくとも困らない。きちんと金を奉納する分に、魔物は大人しかった。


 本当にそんな都合の良い話があるのだろうか? と半信半疑ながらも、実際そうなのだから、まぁそうなのだろうなぁ、魔物かぁ、しょうがないにゃー。

 そうのんびり思うゴールには、話を受けたその瞬間から、何を隠そう腹案があったのである。


「どうするの?」ヒロが問う。

「退治するのさ」ゴールが答える。

「すげぇ!」子供が目をきらきらとさせた。

「すげぇぞ」賞金稼ぎも目を輝かせた。


 魔物を退治できれば、村にとっても面倒が減るのである。それはつまり、報償金も期待していいと勝手に解釈した。


 崇め奉られているのであれば、大人しく金を置いて戻るところだが、話を聞くに、ヒトに仇なす存在相手に優しい配慮は不要だ。賞金稼ぎの口角が吊り上がる。


 ところが肝心の魔物が姿を見せない。

 困ったぞ。折角カッコつけても、これからどうするんだ。

 あの洞窟の穴に入るのは嫌だなぁ。怖いなぁ。逃げ道ないじゃん。


「おーい、出てこーい」

 子供が無邪気に呼びかけた。

「ちょ、おまっ」心の準備が出来ていないと、口走りそうになったのを賞金稼ぎはグッと堪えた。こんな呑気な呼びかけに、のっそり魔物が反応する筈がない。真っ昼間から出てくる筈がない。とのゴールの目論みは外れた。


 ずうん、ずうん、と地が揺れた。パラパラと小石が弾み、転がり斜面を落ちていく。

 マジかー。

 しかしゴールは気を取り直し、賞金稼ぎの顔になる。


 ずうん、ずうん。

 地を踏む音が近づく。魔物は数歩で姿を見せるだろう。たといそれがどんな姿であろうとも、ゴールデン・ゴールは恐れない。ゴールデン・ゴールは、腕の立つ賞金稼ぎなのだ。

「へっ」子供を下がらせ、ゴールは両足を肩幅に広げ、グッと地を踏み締めた。


 フオー!

 太く低い吼え声に続き、巣の奥から巨大な爬虫類めいた顔が覗いた。成程、ドラゴンの眷族だろう。相手にとって不足はない。貴様にとって、真っ昼間から姿を見せたこと、そして相手がゴールデン・ゴールだったことが運の尽き!


「天国か地獄か!」

 ゴールは大きな笑みを浮かべながら両腕を交差させ、腰のホルスターから二丁の拳銃を抜き構える。「ヘル・アンド・ヘヴン!」


 金色に光る銃口が的に向けられる。

 賞金稼ぎの口から白い歯が零れる。

 ゴールデン・ゴール。黄金の銃。


「かっけぇ!」背後でヒロが喜び跳ねる。「めちゃくちゃかっけぇ!」

 物凄く気分がいい。サイコーだぜ、ベイビー。ゴールは勝利を確信した。この特注の二丁拳銃〝ヘル・アンド・ヘヴン〟は、名前の通り天と地の間に存在する。


 対者には地獄を。

 味方には天国を。

 地上のゴールが審判を下す。


 全身を濃緑色のウロコに被われたドラゴンがのっそりを首を巡らせ、ゴールの姿を捉えた。


 巨木の様に太い胴と短い手足。エルダーか。ゴールは種別をそう判断した。背にある一対の翼は、かっては大空を自由に飛び廻ることも出来たであろうが、いつしか出番もなくなり、今ではすっかり小さく縮んで、色もくすんで見えた。


 フォオオ──!!

 ドラゴンが吼えた。風が巻いた。「ウワー!」子供が叫んだ。ゴールの銃口はぴったりとドラゴンの眉間を狙っていた。「貰ったァ!」


 貰えなかった。

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