the end of the sky ~ 空side~ 14
昼休み。
私たちは屋上で待ち合わせをしていた。
今朝の続きになるが、父の実家を訪ねる日を二人で話し合うためだ。
と、言っても土日祝日しか休みが取れないので、必然的にその曜日の中で、お互いに都合のよい日となる訳だ。
「私はいつでも平気よ。私の事だし、特に休みの日に予定なんて入っていないから問題ないわ。」
それはそれで少し寂しいが、事実である。
「僕も問題ないよ。基本的に休日は部屋でゴロゴロしてる事が多いから、予定なんて入ってないし。あ、でもこれからは忙しくなるかな。空と一緒に沢山色々な所に出掛けたいし!まずその記念すべき初デートは伊東って事でよろしくお願いします。」
多分彼は間違いなく馬鹿正直で天然だ。
普通、こんな恥ずかしい事サラッと言えない。
本当、本人は気が付いていないんだろうな。
嬉しくもあり、恥ずかしくもある彼の提案のおかげで、とても心が温かくなる。
「じゃあ、今週の土曜日でどうかな?」
そう言うと、彼は大きく頷いた。
予定が決まったところでお昼を食べる。
彼は相変わらずサンドウィッチとコーヒー牛乳がお気に入りらしい。
なんでも食に拘りがないとか。
勿体ない。生きていく上で、食事は必要な事だし、何より楽しみの一つだと私は思う。
間違いなく彼は人生の3/1は損をしている。
私は自分が用意したお弁当の中から、卵焼きを一つつまみ彼に差し出す。
「この間のサンドウィッチのお詫び。」
そう言うと彼は卵焼きを口に放り込む。
「どう?」
しばらく口の中で堪能する彼。
随分と焦らすじゃない。言っておくけど私の十八番だから!
と、心の中でつぶやく。
「おぉ!すげぇー旨い!空のお母さんは料理が上手なんだね!」
な、んです、と!?
母の料理、だと!?
カッチんと来た!
「取り敢えず、ちょっと口開けてくれる?」
そう言うと彼の口を半ば強制的に開けさせる。
「はい、アスパラのベーコン巻き、次はポテトサラダ、で、タコさんウィンナー!」
私は次から次へと彼の口にオカズを突っ込んでいく。
「で、お味はどうでうか?母の料理ではなく、一応全て私の手作りになるんですけど、ご感想は?勿論、タコさんウィンナーだってしっかりお手製よ!」
ふん!と言わんばかりにへそを曲げる私に対して、終始笑顔な彼。
判っているのかな?私は今とても不機嫌なんですけど。
私と料理が結びつかないんでしょうけど、身に着いちゃったんだから仕方ないじゃない!
どうせ似合わないとか思ってるんでしょ!?
そんな事を心の中で思っていると、彼が急に話し出す。
「どれもこれも全部美味しかったよ!ごちそうさま!これってさ、将来僕は毎日食べることが出来るんだよね!?嬉しいな!」
何てずるい人であろうか。
たったそれだけで全てを許してしまう私。
これだから天然とは恐ろしい。下手な詐欺師より質が悪いかも。
「今自分が何を言っているか判っている?それは遠回しにプロポーズしてるって事よ?」
そう言うと彼は小さく”あっ!”と答え、急に顔が真っ赤になる。
恥ずかしいのは言われた私の方なんだけどね。
付き合って日の浅い高校生カップルが、もう将来の事を話し合うとか。
どんだけ気が早いのよ!
でも悪い気はしない。
少なくとも彼の未来のビジョンに私がいる事が分かったから素直に嬉しい。
お互いにモジモジしていると、予鈴のチャイムが鳴る。
「なんでこんなに時間が経つの早いのよ!時計壊れているんじゃないの!」
あっという間のお昼休みに私は不満を一つこぼす。
今まではどうやって時間を潰そうかと苦痛に思っていた時間だったけれど、今はとても楽しくて大切な時間に思える。
私たちは、放課後一緒に帰る約束をすると、片づけをして屋上を後にした。
苦痛に満ち溢れていた学校と言う場所は、最近、とても大切でかけがえのない場所になりつつあった。