the end of the sky ~ 空side~ 13
7時38分。
私は待ち合わせの電車である6両目付近に立っていた。
この時間だと比較的空いているので、待ち合わせも苦にはならない。
電車が滑り込んできた。
シルバーの車体に青い線が入っている電車の乗り込むと、私はすぐに彼の姿を探した。
彼はすぐに見つかった。
扉付近でつり革にぶら下がっている。
きっと私が見つけやすい様にと、彼なりの配慮何だと思う。
その証拠に、席に空きがあるからだ。
「おはよう!」
私は朝の挨拶を済ませると、彼の横に並んでつり革につかまる。
「おはよう空。昨日はありがとう!おかげで課題も終わったし、古文の先生に怒られなくて済むよ。」
隣で微笑んでくれる彼。
私はこうやって朝誰かと一緒に登校するのはこれが初めての事なので、とても新鮮に感じる。
「いいわよ、その責任の半分は私にもあるみたいだし。」
そう言うと、彼は少し恥ずかしそうに頭を掻く。
「そう言えば、昨日メールで相談したい事があるって言ってたけど、何かあった?」
私は母とのやり取りを彼に掻い摘んで話す。
「昨日夕飯の後、母と父の事について話をしたの。そしたら、”あの空の向こう”が判ったの。母は、もしも父に会いたいという気持ちが私にまだあるのならと、父の現在の住所を教えてくれたの。あの空の向こうは、意外と近い場所にあったの。」
そう言うと私は、彼に住所の書かれた紙と父の写真をカバンから取り出した。
「これが空のお父さんか。結構なイケメンだね!まぁ空がそれだけ美人なんだから、ある程度想像はついていたけど。住所は・・・、静岡県の伊東市ね。あの空の向こうって言うくらいだから、もっと遠くを想像していたけど、意外と近いね。ここから電車で1時間ちょっと位かな?」
今写真を見ながら、サラッと恥ずかしい事を彼は言ってのけたけど・・・。
私は彼に美人だって認識されてるんだね!嬉しい反面、こうもナチュラルに言われると恥ずかしくなる。
私は彼から手紙と写真を返してもらうと、赤面を隠す為下を向いた。
「で、空はどうするつも?」
そう、それを相談したかったのだ!
「実は相談て言うのはその事で、どうしたらいいか迷ってるの。会いたい気持ちはあるんだけど、今更会ったところで何を話せばいいのか判らないし。別に父の事は恨んでないし、このまま会わなくてもいいんだけど、どこかね、この辺がスッキリしないの。」
私は心臓を指さす。
「先週さ、英語の時間にグランマの質問されたでしょ?Where do you want to go?って。その時空はなんて答えた?」
突然彼が尋ねる。
「あ、聞いていたのね。わかってると思うけど、at the end of the skyって答えたわ。」
私は彼が言わんとする事が理解できず、首を傾げる。
「それが答えなんじゃないのかな?空の心の中の本当の想い。僕はそう思うよ。そして、僕はあの時から空が気になりだしたんだと思う。いつも空を見ている君の気持ちが、あの時少しだけ垣間見れたから。」
判っていた。
本当はわかっていたんだけど、勇気がなかったんだ。
いつも一人だった私は、自分の考えや行動を、誰かに相談する事無く、今までは自分ひとりで解決しなければいけなかった。それがたとえ判り切った答えだったとしても、誰かに優しく背中を押して欲しい時って言うのは、誰の胸の中にもある筈だ。
私にとってのそれは、今なのだ。
恋を知った私は、もしかしたら以前より弱くなったのかもしれない。でもその分少しだけ優しくなれたような気がする。
「僕も一緒に行くから、大丈夫だよ。」
私の方へ顔を向けると、彼は優しく微笑んで、そう呟く。
「覚えてる?君の側で一緒にそれを探すって言った事。だから安心して。もう一人で悩まなくてもいいんだ。」
私は込み上げてくる感情と、溢れだしそうになる涙を必死に堪える。
「ありがとう。」
それが今の私に答えられる精一杯の感謝の気持ちだった。
それ以上言葉にしたら、もうこの感情と涙を抑える事は出来ない。
駅に着く間、それ以上の会話はなかった。
でも今の私たちの間には、言葉なんて交わさなくても通じ合える絆がある。
彼にそれを確認したわけじゃないけど、私にはそう思えるだけの確信がある。
それはまだほんの小さな絆だけれど、二人でゆっくりと大切に育てていきたいと思う。