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空と空  作者: 東京 澪音
12/16

the end of the sky ~ 空side~ 12

彼と別れた後、私は電車とバスを乗り継いで自宅に帰宅した。

玄関を上がると、台所から母が料理する音が聞こえてくる。


私は洗面所で手洗いを済ますと、台所に入った。


どうやら今日はハンバーグらしい。

母が玉ねぎをみじん切りにしていた。


「手伝うわ。」


突然の申し入れに、母はいささか驚いていたが、私にパン粉・牛乳・卵を手渡す。


私はそれを受け取ると、大きめのボウルにパン粉をいれ、それに牛乳・卵を加え浸した。


次に、母がみじん切りにした玉葱をバーターで炒め、先程のボウルにひき肉と塩コショウ・ナツメグを加えて、粘り気が出るまで捏ねていく。


それを適当な大きさ千切り、小判型に丸めて真ん中を少しくぼませる。


それを熱したフライパンで母が焼いて行く。

強火で焦げ目がつくまで両面焼いたら、弱火にして大さじ3杯位の水を加え、蓋をして5分程焼いて完成。


ソースは、ケチャップ・ウスター・醤油・砂糖・バターを、ハンバーグを焼いた後のフライパンに残り油と混ぜて仕上げる。


付け合わせは、ニンジンを茹でて、塩・砂糖・コンソメ・バターを加えて茹でたグラッセ。

スープは冷蔵庫に買ってあったコーンスープを温めた。


久し振りに料理をしたが、まあまあの出来。後は味かな?

二人で分担するとさすがに早い。


私はそれらをテーブルに並べ、母と二人で夕食にする。


「いただきます。」

そう言うと私はハンバーグをひと口大に切り口に運ぶ。


おお!美味しい!

自分で作った料理を自画自賛しながら黙々とハンバーグを食べていく私。


料理は結構好きなのだが、高校生になってからはメンドクサイって理由で全然作っていなかった。


「明日からも私、料理手伝うから。」


そう言うと母は少し嬉しそうに微笑んだ。


「空が料理手伝うなんて、母さん驚いたわ。何かいい事でもあった?ひょっとして彼氏が出来たとか?」


鋭い!

私は一瞬噴出しそうになったが、何とかそれを堪える。


「あ、うん。なんでわかったの?」


そう言うと益々嬉しそうな顔になる母。


「それは母さんだって女だし、なにより空は私の娘でしょ。ここ最近そわそわしてたのだって、母さん気が付いていたわ。今朝なんか何度も何度も鏡見てたでしょ!デートなのかな?って思っちゃうじゃない。」


どうやらバレバレだったらしい。


別に隠す事でもないし、いずれは言わなければいけない事だったから特には構わないのだが、こうも言い当てられてしまうと、例え親子でも少し恥ずかしい。


「今日ね、彼の家に勉強を教えに行ったんだけど、お父さん・お母さんとても優しくていい人でね。彼の両親をみて色々納得しちゃった。あぁ、この二人の子だから彼はこういう性格なんだなって。それと同時にね、家族のありがたみがわかったの。反抗期って訳じゃないんだけど、素直になれなくって、私は可愛げのかけらもなかったんだなって、彼の家族を見て気が付いたの。ウチはたまたま父さんと母さんが離婚しちゃって、二人暮らしだけど、今まで一度も不自由だなんて思った事なんかないわ。寂しいって思った事は少しだけあったけど、母さんと父さんを恨んだこともない。むしろ私は、二人の子供に生まれてきてよかったと心から思う。」


なんだか凄く久し振りに親子の会話をした気がする。


母は私の話に涙を滲ませる場面もあったが、離れ離れになっていた気持ちは、昔みたいに距離が縮まった様に感じた。


それから色々と話をした。

母と父の出会い、私が生まれるまで、生まれた後、離婚するに至った訳。


知らなかった事が沢山あった。

まだ若かった頃の母と父の苦労。


お互いに気持ちが離れ離れになってしまったが、二人が過去愛し合っていたのは変えようのない事実。

そしてその証が私なのだから。


「空、今でもまだ父さんに会いたいって思う?」

ふいに母が尋ねる。


ここしばらく考えた事がなかったけど、会いたいという気持ちがないと言ったらそれは嘘になる。

私は少し考えてから答える。


「会ってどうしたい?って聞かれると困るけど、会いたって気持ちはまだある。」


そう答えると、母はタンスから一枚の封筒を取り出した。


「これをあなたに。」


私はその封筒を母から受け取ると、中を開いてみる。

そこには私の良く知っているあの頃の父の写真と、住所の書かれた紙が入っていた。


「お父さんのご実家の住所よ。お父さんもそこにいる筈よ。あなたがお父さんに会いたいと、強く望むような事があったら渡してくれと、別れる時に預かったものよ。どうするかはあなたが考えて決めなさい。」


そう言うと母は、食器などを片づけ始めた。


「そうそう、今度あなたの彼氏をうちにも連れてらっしゃい。母さんもご挨拶しなくちゃね。」

そう言って微笑むと、台所に引っ込んでしまった。


私は受け取った封筒を手に、二階にある自分の部屋に引っ込んだ。


改めて封筒の中身を取り出し、机に並べる。

住所の書かれた紙を見る。


静岡県 伊東市吉田416-2。


どうやらここが父さんの実家らしい。

さて、どうするべきか。


あの時、まだ小さかった私に、お仕事であの空の向こうにいってるって教えてくれた母。

その空の向こうって場所が、判明した今。


私はどうするべきか?


会って何を話したらいいのかもわからない。

今更父を責め立てる気もない。


でもひと目会いたいって気持ちはある。


このまま会わないって選択肢もあるが、会わずに後々後悔するのも嫌だ。


考え込んでしまったが、なかなか答えが出ない。

今までの私なら一人長々と考えたであろうが、今は一人じゃない。


私は携帯電話を取り出すと、今日のお礼と一緒に、明日相談をしたい旨を打ち込み、彼にメールを打ったのだった。

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