the end of the sky ~ 空side~ 10
16時35分。
私たちは最終のバスに乗って平塚駅に帰ってきた。
どちらかが言い出したわけじゃないけど、気が付けばお互いに手を繋いでいた。
今日の朝にはこんな展開になるなんて夢にも思わなかった。
気持ちが通じ合うって素敵な事だね。
私は今、生まれたばかりの小さな幸せを、心の中で噛みしめていた。
それからお互いの連絡先を交換した。
意外だったのは、彼が住む家から私の家までそう遠くない事だ。
電車の方向も同じで、今まで通学中に一度もすれ違わなかった事が、今思うと奇跡にすら思えてくる。
いや、もしかしたら同じ電車に乗っていたかもしれない。
でも、恋を知る前の私は、人に関心なんかもてない様な醒めた子だったから、多分気が付かなかったんだろうな。
私たちは電車に乗り、一緒の方向へ帰る。
普段は長いと思う電車も、好きな人と乗るとあっという間に感じてしまう。
別れ際、握りしめた手を放したくない衝動と、もう少し一緒にいたいという欲求に駆られたが、そこはグッと我慢して、明日の約束をした。
私は電車から降りると、彼の乗る電車が見えなくなるまで見送る。それからいつもの様にバスに乗り、家に着いた。
帰宅して部屋に帰ると、とても寂しい気持ちになった。
さっきまでは一緒にいた彼。
私はいまだ残る彼の手の温もりに反対の手を重ねると、その余韻に浸っていた。
昔誰かが言ってたな。
恋って言うのは、漢字で心が変になるって書くって。
その時は何とも思わなかったけど、今ならそれがわかる。
色々な感情と想いが重なり合って、それ以外の事を考えられない。
恋は盲目!なんて言葉が一瞬胸を過ぎったが、まさにその通り。
恥ずかしくもなくこんな事を思えてしまう自分に、少しだけ驚いてしまう。
そう言えば今日、あまりにも色々あり過ぎてすっかり忘れていたが、彼と携帯の番号を交換したんだった。
私は携帯を取り出すと、彼にメールをしようと思い立つ。
さて、なんて打ったらよいのだろうか?
何分、こんな事は初めての事で、何をどうしたらいいのか判らない。
書いては消して、書いては消し手を繰り返しいると、階段下から母が夕飯が出来た事を教えてくれる。
私は一度携帯を打つのを止め、一階に降りて母と一緒に食事をとる。
食事中も彼の事ばかり考えていた。
メールどうしようかな?
いきなりメールしたら、重い女とかって思われちゃったりするのだろうか?
そんな事を考えていると、次第に食事が手につかなくなっていく。
恋ってやっぱり難しいね。
自分ひとりでどうにかできる事ばかりじゃないから。でも、愛おしくもある。
今まで経験した事のない不思議な感情。
でも、色んな事を一人で悩む必要はない。
彼と二人、一つづつ解決していけばいいのだから。
私は食事の片づけを終えると、お風呂に入り部屋に戻る。
携帯電話に1件のメッセージが入っていた。
彼からだ。
”今日はありがとう。嬉しくて早々にメールしてしまいました。でもなんて送ったらいいか判らなくって、実は結構長い事考えていたらこんな時間になってしまいました。明日は家庭教師よろしくお願いいたします。家を出る時に連絡下さい。駅まで迎えに行きます。”
たったこれだけの事なのに、私の胸はとても熱くなった。
彼もどんな内容のメールを送っていいのか悩んでたんだ。私と同じだ!
私は早々に彼に返信した。
さっきまで色々と悩んでいたのが馬鹿みたいだ。無理にカッコつけた内容じゃなくていいんだ!
素直に思った気持ちをそのまま伝えればいい。
気が付けば随分遅い時間までメールのやり取りをしていた。
直接電話で話した方が、労力も少なく楽かもしれないが、言いずらい事もメールでならサラッと書けたり、送信から返信までの間のドキドキ感が、恋に拍車をかけていくような気がする。
尽きない会話を、どちらともなく無理やり終わりにすると、私はベッドに横になる。
時間は午前0時になろうとしていた。
明日になればまた彼と会えるのだけど、それまでの時間がとても長い時間に思えてくる。
正直、今すぐ会いたい!
逸る気持ちを押さえながら、さっき彼とやり取りしたメールを再度読み返していると、私はいつの間にか眠りに落ちたのだった。