the end of the sky ~ 空side~ 1
学校になんの意味があるのだろう?
そんな疑問を持ちながら、私は毎日この学校に登校する。
教室にいたって誰かと話すわけじゃない。授業だってそれほど面白いわけでもない。
仲の良い友達が沢山いるわけでもない。
この無意味な時間をやり過ごす為、私はいつも空だけを見ていた。
青山 空。
それが私の名前。
大好きだった父がつけてくれた名前だ。
父は私が幼い時に母と離婚し、その後の消息は私にはわからない。
母は父の居場所を知っているみたいだった。
父にもう一度会いたい一心で、母に父の居場所を聞いた事があるが、母がその答えを口にする事はなかった。
昼。
一日の中で私が一番憂鬱に思う時間。
静かに過ごしたいと思う私には、人のいない場所を探すのが難しい。
空き教室・図書館、どこに行っても人がいる。
でも校舎の外にさえ出れば、寒空の下には人も疎らだ。
いつもは校舎裏の芝生の上で昼を過すのだが、今日は空をより近くで感じられるであろう屋上に出る事にした。
雲のない恐ろしいほどに青い空。
冬日和だった。
もっと近くで見ようとフェンスに近づくと、誰かがそこにいた。
私は彼を知っている。
彼は私の斜め右後ろに座っている。
話した事は殆どないけど、今時には珍しいとても物静かな人だ。
確か仲のいい友人が一人いるみたいだけど、それ以外の人と一緒にいる姿をあまり見かけた事がない。
ここに居るって事は、私と同じ理由なのかもしれない。
私は少し彼に興味が湧いた。
誰に尋ねても、真面に取り合ってもらえなかった質問。
なぜだろう?
私は彼にそれを投げかけてみようと思った。
突然こんな事を尋ねたら、またいつもみたくあぶね~とか言われちゃうんだろうか?
でもそんな事今更気にする必要もない。
慣れっこだし、人にどう思われようと私は私だ。
そう自分に言い聞かすと、私は彼の横まで近づき、フェンスの向こう側を見つめながら彼に問いかけてみた。
「ねぇ、この空ってどこまで続いていると思う?」
聞こえただろうか?
しばらくすると彼が起き上がる気配を感じたので、もう一度同じ質問をしてみる。
「聞いてる?ねぇ、空。この空はどこまで続いていると思う?」
彼は少し考え込むと、どこか戸惑った様子で答えてくれる。
「世界の果てまで続いているんじゃないかな?」
予想していなかった彼の答えに、自分でもビックリするくらい驚いた。
私は嬉しくなり、質問を続ける。
「世界の果てってどこ?ブラジル辺り?そもそも世界の果てってあるのかな?地球は丸いでしょ?という事は世界の果てを目指したところで、永遠にグルグル終わりなく回り続けるだけで、そこにはたどり着けないんじゃないのかな?」
少し饒舌過ぎただろうか?
多分、絶対に変な奴だって思われたと思う。
もし私が彼の立場だったらそう思うもの。
いつもの事って言えばいつもの事だけど、正直な気持ち、若干、自己嫌悪だった。
私は友達が少ないせいか、コミュニケーション能力が非常に乏しいと自負している。
彼を横目に見ると、空を見上げて腕組している。
完全に呆れられた。
そう思っていると彼が突然話し始める。
「僕みたいな万年赤点ギリギリな凡人には、その答えを出す事は出来ないよ、ごめんね。」
彼のその答えに、私の胸は一瞬にして撃ち抜かれてしまった。
私は益々嬉しくなって言葉を続ける。
「私のこの質問に真面目に答えてくれたのは君で二人目だよ。大抵の人は、なんだコイツ?あぶね~とか言っていなくなるんだよね。だから結構クラスで私は浮いてるの。」
何を言っているんだろう、私?
人には言わない胸の内。
私は何故か彼に打ち明けていた。
こんな事初めてで、どう対処していいかわからない。
教科書の問題だったら、解く術は幾らでもあるだろう。
でも今の私には自分が陥っているこの状況を解く公式が見つからない。
人と接するスキルが限りなくゼロに近いからだ。
どうしよう!?
そんな事を考えていると、予鈴のチャイムが鳴った。
渡りに船だ!
「あ、もうこんな時間!気持ちよく眠ってるとこ邪魔しちゃってゴメンね。楽しかった!ありがとう。」
私はそれだけ彼に言い残すと、一目散に校舎に走って行った。
いつもはどこか冷めていて、物事を斜めに見ている自分がいたが、今は驚くほど心臓がドキドキしている。
私は今まで感じた事のない不思議な気持ちを心に抱きつつ、教室に向かった。