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第2章の2 : かのじょらは なにもしてないを してたんだ






 彼の言うこれからのための準備』が終わるまでに、更に2日ほどの時間がかかった。



 その間の私たちとは言えばほんっとうに何にもすることの無い、ただただ無為な日々をすごしていた。ぼーっと窓から空を眺めていたり、ベッドの上でぐだぐだしたり。壁の木目を数えていたらいつの間にか日が落ちていたくらいの何もしなさっぷりである。


 この2日でかろうじて得た有意義と言えなくもない事といえば、大人二人でやる「縛りナシ」「お題ナシ」「時間制限ナシ」のしりとりは、どれだけやっても終わりが見えないコトを学んだ、くらいのものである。ンジャメナって何処だよ。



「一応の準備はできたから、明日から動いてもらおうと思う」


 そんな状況だったから、この時ばかりは最近少し硬さが取れてきた彼の言葉が、神の啓示もかくやとばかりにありがたかった。




「やっとかぁ。・・・でもさ、具体的にどんなお店を開くかとかって話、私たちぜんぜん決めてないわよね」


「あぁいやいや、流石にすぐに新しい商売を始めたりはしませんよ。これからやってもらうのは、新しくお店を始めるための―――言ってみれば特訓だね」


「特訓、ですか?」


 なんだろう、ここに来てスポーツ根性モノに路線変更なのだろうか? いや、某少年誌的三原則は嫌いではないので異論は無いが、お好み焼きを作るためにカラオケで歌ったりハンバーグのためにマッサージのバイトをさせられたりするのはちょっとご勘弁願いたいのだが。




 私が抱いた疑念を読み取ったわけではないだろうが、彼女も伺うような視線を彼に向ける。


「えっとさ、私たちも伊勢さんを頼ってるわけだからやれって言われたことはやるけど、流石になんにも疑問抱かずに打ち込めるほど子どもじゃあないわ。説明、してくれるのよね?」


「もちろんです。ちゃんと話した上で取り組んでもらうよ」




 狭いこの部屋の中では、三人が囲めるようなテーブルなどありはしない。並んでベッドに腰掛けている私たちに向かい合うように、彼は壁際に置かれた荷物に腰掛けた。


「まずは日吉さんからだけど、明日からしばらく孤児院のお手伝いをしてきてもらえるかな」


「孤児院? 何でまたそんなところに・・・ってか、子どもの世話をして来いってコトなの」


「おや、日吉さんは子どもは嫌いかな?」


「嫌いってほどじゃあないんだけど。あんまり関わった事が無いからなんともねぇ」



 あら意外。誰とでもすぐに仲良くなれる彼女なら、子どもの相手などお手の物だと思っていた。実際、旅の最中に行き会った行商人の娘さんと仲良く話しているのを見たコトだってあるのだし。私? まともに意思の疎通ができるか怪しい存在とコミュニケーションなんて取れませんよ。自己表現の明確な言語化ができるようになってからおこしください。



 それにしても、孤児院ですか。


「何か理由があるんですよね?」


「もちろん。時に二人は、この街の孤児院についてどれくらい知っているかな?」


 正直なところ詳しくない。というかまったく知らない。これまで関わる機会も無かった組織なんて知ってるわけ無いじゃないか。ぶっちゃけ孤児院があるってことも今知ったくらいなのである。


 彼女のほうも大差ない認識であったようで首をかしげている。私たちのこの反応も予想の範疇であったようで、彼は解説を始めた。




「まず知っていて欲しいのは、この街の孤児院は管轄が国家にあるということ」


 彼は言う。一般に孤児院を運営するのは宗教団体か商業組合が多いらしい。前者は弱者救済の実践を世間にアピールするため、後者は人的資源の確保を狙ってのことだそうだ。まぁ、自分に一切の利益が存在しない行為に身銭を切れる人間なんて数えるほどしかいないのだからそんなものだろう。


 人権思想すら希薄なこの世界で、慈善事業に身代ささげていますなんて広言している輩など怪しいことこの上ない。むしろ、何らかの狙いがあって孤児を育成している団体と言われたほうが信頼も置けようものだ。



 この街の孤児院も発祥は木工の商業組合だったらしい。しかし時代が流れ、私たちがこの世界に来る原因にもなった世界の危機で発生した、孤児の増加と国家再建のための人材育成という問題に対する対処として、国家主導での孤児院の運営が始まったのだという。



「ってことは、それってここ最近の話なの?」


「いや、孤児院が国管轄になったのは50年位前からだそうだよ。私たちを召還したのは、アノ問題に対する最後の策みたいなものだったらしいからね」


 たしかに、よその世界から人間を浚って自分たちの問題を解決してもらうなんて、普通には考えつかない荒唐無稽な話だ。である以上、国家としてマンパワーの減少に対する何らかの常識的な対処を行うのも当たり前。対処療法でしかなかったとしても、孤児院の運営に着手したと言うのも頷ける話だ。




「で、だね。国が主導となり運営していることもあり、ここの孤児院の環境はとても良いものなんだ。もちろん贅沢ができるような余裕はないけれど、衣食住の条件は一般的な国民と比べても遜色ないくらいだよ」


「へぇ。そういうトコってすっごく苦労してるみたいなイメージだったんだけど、ここじゃあ違うんだ」


「そういうこと。孤児院自体も―――向こうで言う小学校くらいの敷地だし、服がなくて凍えるようなこともない。食事だってこの街の住民がいつも食べているようなものが支給されているらしい。流石に、毎日全員が満幅になれる程に潤沢ではないみたいだけどね」



 素晴らしいことだ。たとえどんな相手だろうと、私はお腹が空いている人を見るのは悲しい。それが子どもならなおさらなのだ。




「孤児院についてはわかりました。それでは、『どうして私たちが』の部分も教えてもらえますか」


「うん。今言ったように、ここの孤児院で支給されている食事は、昼夜の2回ではあるけれど内容はごく一般的なメニュー。つまりこの街の、この国の人たちがいつも食べている内容。

 逆を言えば、孤児院で出されているメニューを見ればこの街の人たちがいつも食べている料理がどんなものなのかがわかると言う事なんだよ」



 この街の人たちがいつも食べているものを知るために、孤児院の献立を学んで来いと言うことなのだろうか。いや確かに有意義な経験にはなるだろうけれど、ソレを学ぶことがそんなに大事なんだろうか。



「えっとさ伊勢さん。それっていわゆる郷土料理を学ぶ・・・みたいなことよね。たしかにそういう機会はあったほうが良いだろうけど、わざわざそんなことまでして学んでくるほどのことなの?」


「あぁ、学んでくるほどのことだよ。特に私たちのような、それまで生活していた環境ではない場所で商売を始めようという場合には必須といっても良いくらいに大事だ。

 じゃあ次はそのあたりのことを説明するね。

 ―――時に2人とも、『チキン南蛮』って食べたことあるかな?」



 ・・・いきなり何を言い出すんだこの人?

ンジャメナは チャド共和国の首都

23時ごろにもう一本投稿します



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