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プロローグ : そこは夢の国なんかじゃなくて

ぎりぎりでファンタジーモノと言い張ります

剣や魔法成分は申し訳程度にしかでてきません


2016/03/25 大変申し訳ございませんが、プロットの組みなおしで、現在一時期連載を中止させていただきます。

 いずれ再開させますので、お読みいただく際は、その旨ご了承ください。


 始まりはこの世界に呼び出されて3年が経とうという頃の話だ。


 私は高校一年の夏休みを目前にしたある日、何の前触れもなくこの御伽噺のような世界に連れ去られた。その後いろいろあって世界を救うという冗談みたいな旅を続け、その日々に一応の決着がついたその夜のことだった。


 その日私たちは、千葉県なのに東京を冠した夢の国にでもありそうなお城の中で、世界を救った恩人として歓待を受けていた。



 パーティというモノに参加させられるのはこれが初めてではない。


 といってももちろんこの世界に来てからの話である。中流以下の母子家庭育ちの女子高生であった私にそんなハイソな経験などあるわけがないじゃないか。


 そりゃあ最初のうちは煌びやかな雰囲気にため息をつきもしたし、かろうじて生き残っていた少女趣味的な何かが嬌声を上げもした。


 しかし2回3回と繰り返すうちに、面倒だとしか思わなくなってしまう。



 そもそも黒目黒髪で日本人(モンゴロイド)丸出しの私には、ごてごてのロココでバロックなドレスは似合わない。いや、服飾に明るくないのでそもそもこういう親のカタキみたいに腹を締め付けられたドレスがどういうファッションのくくりになるのかさっぱりではあるのだが。

 それにしても似合わないのだ。そりゃもう壊滅的に。



 それでも、服装に関しては諦めもつく。考えてみれば現代日本人として生きていて、非日常的で個人的性質を度外視した服装を強要される機会というのもなくはない。七五三や冠婚葬祭、小学校のイベントなどで仮装のようなマネを強いられた事だってあるのだ。


 だが、ろくすっぽ覚えてもいない地名と爵位がセットになった長ったらしい名前を告げられ、よく聞いても褒められてるんだか貶されてるんだかまるでわからない長話を延々聞かされるのは勘弁してほしい。


 自分でもよくわかるちゃんと笑えていない笑顔のままアチラをチラ見すると、私と同じくこの世界に連れてこられた残りの二人は会話に花を咲かせているようである。私たちはこの世界に連れてこられた際に超常の力を得られたのだが、正直あのソーシャルスキルの方が何倍も欲しかった。切実に。



 まぁなんにせよ、私にとって苦痛でしかない時間は、我慢さえしていればスケジュールどおりに終わりを告げる。ちゃんと最後まで付き合ってあげたんだから、褒めてもらってもかまわない。




「ねぇ、これからどうしよっか?」


 彼女がそう漏らしたのは、パーティの余韻がいまだ抜けきらぬ夜半過ぎ。私たちにあてがわれたお城の一室でのことだ。そのとき私は分不相応に装飾過剰な室内に圧倒されつつ、これが豪奢ってことなのか、などと益体もないことを考えていたように思う。


 だから、彼女の言った言葉の意味を受け取るまで、少しだけ時間がかかった。



 不思議なもので、こういった状況で私が反応しつつも返事を返さないでいると、相手は勝手に何事かを考え込んでいるものだと勘違いしてくれる。

 しばし見つめあった後、


「そうよねぇ。何にも思い浮かばないわよね。急に好きにして良いって言われちゃってもこっちが困るってものだわ」


ため息混じりに彼女がつぶやいたのだって、きっと何か複雑な勘違いの結果なのだろう。




 先に述べたとおり、私たちはもともと暮らしていた世界から訳あってこの世界につれてこられた。それはこの世界に暮らす人々にとっては死活問題でどうしても必要なことだったし、たまたま私が選ばれてしまったことについても3年がかりで一応は消化済みだ。


 けれどその目的も達成されてしまい、この先は自由に生きてよいのだと言われると、それはそれでまた新たな悩みの種であるのは間違いない。



 思えば平成日本で生きていたときは、自分の将来と言うものにある程度の筋道が立てられていた。小学校の次は中学・高校と進み、取り立てて目標もなければ大学に進学。そしてそのまま身の程にあった仕事に就き、自分を食わせながら老いていただろう。その過程でうまいことすれば結婚なんかもしたかもしれないし、はたまたあっさり死んでいたのかもしれない。


 生き方は自由だと言われていたけれど、差し出されたサンプルは有限だった。


 私が気楽なモラトリアムでいられたのは、自分がその道筋から外れていないという安心感の上でのみ成り立つものだったんだろう。



 ひるがえって今。私たちは圧倒的に自由だ。


 ある程度の身分と、贅沢しなければ当分は寝て暮らせるだけの金銭。危険の多い世界ではあるけれど、自分の身を守れるくらいの物理的手段もある。貴族社会的階級社会の中で上り詰めることだってできなくはないくらいの名誉すら持ち合わせている。


 できないことと言えば、元の世界に戻ることくらいなのだ。


 私たちはたぶん今、元いた頃の何倍も自由で、その不自由に困っている。




 そんな状態だったからかもしれない。本当に何の気なしに、頭をよぎる以前の言葉が口から出た。


「・・・おいしいもの、たべたいなぁ」


 脳みそどころか脊髄すら関与してないかもしれないその発言が、私たちのその後の人生を決めてしまったなんて、たぶん運命サマでもご存じなかっただろう。



 私の漏らしたつぶやきは、停滞した思考の檻を打ち崩すのにこれ以上なく効果を発揮した。


 この世界で過ごした決して短くない年月。その中で幾度となく話題に上がっていたのが、食事がイマイチ、だったのである。



 近代文明を謳歌していた平成日本と比べ技術レベルが未発達のこの世界では、料理に関するそれも押して知るべし。焼く・煮るといった基本的手法はあれどそのどれもが未熟だったのだろう。出された料理を見れば口にする前に味の想像がついてしまい、その結果にほとんど差異がないと言うシロモノばかりだったのだ。


 美味しいものが食べたくとも、満足させてくれるところは殆ど無い。ならば自分たちで作れば良い。幸いそのための知識はそれなりにある。伊達に母子家庭を10年以上もやってない。ついでにそれを生きる術にしてしまえば一石二鳥。毎日美味しいものを食べて、その上金銭も稼げるんだから万々歳だ。




 リトマス試験紙の判別結果くらい顔色の変わった彼女は、あれよあれよと話を進めていく。「この国の首都であるこの都市で、飲食店で一旗あげましょう」「考えてみれば異世界料理でチートなんて王道じゃない」などとよくわからない発言まで飛び出す。



 私も深くは考えず、彼女の意見に同意していく。料理は好きだし美味しいものが食べられるなら文句は無い。


 何より、すべきことが目の前に来てくれるのは、それだけでありがたかったのだ。


 

「――さんも手伝ってくれますよね?」


 ひとしきり話して落ち着いたのか、彼女はずっと発言の無かったもう一人に水を向けた。



 この世界に呼ばれてしまった3人目。私たちが世界を救う手段として呼ばれたのとは違い、本当に偶然、たまたま傍にいたと言うそれだけで連れてこられてしまった人。それでも私たちを見捨てずに、穏やかな笑顔とともに一緒に旅をしてくれた男。


 私も彼女も正直なところ、10も年上の彼がこの先も一緒に居てくれるものだと考えていた。いや、居なくなるという考え自体に思い至らなかったのだろう。だから、私たちがこの街で店を開くなら彼も当然一緒にやってくれるだろうと思っていたし、それゆえに彼女だって『手伝ってくれますよね?』なんて一方的な聞き方をしたのだ。



 だってこれまではそうだった。世間知らずな女子高生だった私たちが、旅の途中で躓いたとき。思い返せば我が侭でしかなかった不平不満を口にしたとき。『しょうがないねぇ』と言いながらあれこれと手助けしてくれたのが彼だったのだ。




 だから今回だってそうだと思っていた。けれど彼は、


「私は、サーヴィス業向いていないんだよ」


そう言って少し困ったように笑った。『旅に出ようと思っている』『この世界をもう少し見て回りたい』彼はそう続けた。



 思いもよらぬ展開にさすがの彼女も勢いをそがれてしまったようで、その夜はそれでお開きになってしまったのではあるが、もう少しちゃんと話をしていればよかったなと思えるのは、過去となって思い出しているからだ。




 それから数日して、彼は本当に私たちを置いて旅立ってしまった。


「数年で戻ってくると思う。それまで二人とも元気で」


 あまりにもあっさりとした別れの挨拶に、しばらくは彼がいないのだと言うことをどこか信じられずにいたものだ。



 とはいえ、いつまでもくよくよしているわけにもいかない。携帯も無い世界だけれど連絡の取りようが無いわけじゃないんだ。折を見て手紙をよこすとも言っていたし、大丈夫。私たちだってもう18歳。この世界ではとっくに成人扱いだ。



 いつまでも子供のふりをして彼に甘えている訳にはいかないのだ。

勢いの産物です。

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