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4時44分

作者: 巴椛

怪奇現象。何十年も生きていたら一度くらい聞いたことあると思うこの単語。結構、興味深いものじゃないのか?


まあ、信じる信じないは人それぞれだとは思うが、個人的には信じている。そりゃ、ありえねーだろ。ってもんは信じるわけないんだけど。

でも、本当に起こりそうなら、信じてみる価値ってのはあると思う。


なぜなら、世界はつまらないのだから。


*

午前4時30分。朝の弱い俺からしたら、前代未聞の早起き。いや、早起きじゃないな。寝てないんだ。

なにがしたいかって?

一言で言えば、怪奇現象を体験してみたいんだよ。

ほら、よくあるじゃん。学校の七不思議とか、ああいう類いな。

で、今からやるのは、午前4時44分にテレビをみると、将来の自分が映るって内容。

どう?興味わいた?わいたならやってみるといい。


さて、そろそろ時間だ。

テレビを起動。っと。


G県M市に住んでいる学生と思われる少年が、大量殺人の容疑で逮捕されました。警察の調べに対し、少年は『俺のせいじゃない』と否認している模様です。


やっていたのは...なんだー、ただのニュースか。あまり面白くないなー。てか、ニュースの内容怖すぎるだろ...鳥肌たってきた。


そうだなー、このまま起きてるのもなんか特別な日みたいな感じがしていいんだけど、慣れてない体には痛い負担だな。

やっぱ寝ようか。今日学校だし。


*

目覚ましの音で目覚めたのは午前8時。不思議と時計の音が騒音に聞こえる。

ああ、まずい、今日学校だったんだ。急がないと。あんなことしなきゃよかったなー。


制服に着替えて...ご飯はいいや。割りとまじでやばいし。

「行ってきまーす」

玄関を蹴るように開けて全力疾走。

俺の家から学校までは10分程度。走っていけばなんとかなる距離。

因みに俺の通う学校はG県のなかでは有数の進学校。中学の頃から勉強をして、入ると決めていた。

恥ずかしながら俺にはひとつの夢がある。


『世界を変える』ことだ。今笑った?そこの君。

馬鹿にされるのも仕方ないから認める。

でも、今の世界ってほんとにつまらないと思うんだよな。生まれながらにして、最強クラスの能力を持っていた逸材はこの世では過大なる評価をされる。逆を言えば、なにも持たずにして生まれてきたものは『それなり』の恩恵を受ける。


そんなもの、壊してやる。


ああ、また笑われた気がした。

でも、いつか叶えて見せるから、そん時は俺を崇めて崇めて崇めてくれ。


*

それが実現する日は案外早いのかもしれない。


『君の願いを叶えて見せよう。』


目の前の女はそう語る。それが現実なのか夢なのかは定かではない。

でもそんなことは今重要じゃない。

重要なのは、俺はそれを呑んだってこと。

これは最大の転機であり、最高の好機だ。これを逃したら遠ざかっていくだろう。

だから、呑んだ。俺の夢を、世界を変えるため。


「分かった。俺は何をすればいい。」

「簡単なことさ。」 


*

『今日、俺の家こないか?』

今まで世界つまらんやらなんやら言ってきたが、彼女はいる、一応。そこの非リアすまん。

んで、最近会ってなかった彼女に遊ばないかと誘ったわけ。LINEで。超便利。革新的。


返信が来たのは数十分後。

『いいよ。じゃあ5時くらいにいくね。』

文面からわかるように、大人しい、清楚系な子。俺には勿体ないくらいのな。

今が4時48分。あと10分弱か。

俺は準備を整えるべくキッチンへむかう。


『じゃあ条件を話そう。君が心の底から愛している人を殺すこと。』


取り出したのは銀色に輝く刃。これで俺の世界が創れるなら、安い仕事だ。

やや緊張気味の身体は小刻みに震え、額からは汗が流れ出る。

時間は刻一刻と流れ、ベルがなった。


「入ってくれ」

「お邪魔しまーす。わあ、久しぶりに来たー。なんか懐かしいね。」

「6ヵ月ぶりだからな」

他愛もない談笑が始まり、いい女に巡り会えたものだと改めて思ったし、殺すのが惜しいとも感じた。

だが、ここで諦めるわけにはいかない。そう言い聞かせる。

俺が世界を変えてやる。

「あ、キッチンいって火止めてきてくれないか?」

「もー、仕方ないなぁ。自分で動くことも思えた方がいいよ」

笑いながらもしっかり動いてくれる。ああ、殺したくないな。ずっと一緒にいたいな。

「あれ、火なんてついてないよ?」

そういって振り返った彼女を一つの刃が貫く。

「........」

なにかを言うでもなく、ただこちらを見つめるだけ。

「ごめんな」

言いたいのはそれだけだった。

彼女には悪いことをした。そんなことは分かってる。だが、これで得られるものは大きい。優先順位の違いってやつだ。

「ごめんな」

もう一度言った、その言葉が耳に届いた者は俺と、見知らぬ女だけ。


「さあ、殺してやったぞ。これで俺の願いを叶えてくれるんだろ?」

「そうだね。君は彼女を殺したようだね」

「じゃあさっさと叶えて俺の目の前から...」

「でも、だめだ。」

「何でだ!?俺は愛人を殺したんだぞ!?」

「愛人?君は彼女を本当に愛していたのか?」

「ッ...」

出てくる言葉など何もなかった。

それが意味するものはたった一つ。俺は彼女を愛していなかった。ただそれだけ。

「今さら逃げるなんてみっともないことしないよね?」

ああ。いいさ。逃げねえよ。こうなったら俺が頂点に君臨してやるよ。

こんな世界は俺が創り変える。

「じゃあ、一つヒントをあげようか。」

「.....ヒント?」

「そ。君が愛している人は君の通う学校にいる。さあ、これだけは伝えたからね。」



*

今日4人殺した。昨日は6人殺した。その前は...覚えてない。

あと何人いるんだろ。てか、学校の外に警察来てるんだよな。そろそろ時間的にやばい。

もうそろそろ終わりにしなくては。

諸刃の剣を何度も何度も振りかざす内、俺の精神は完全に犯されていった。

「あっ、もうこんな時間じゃん。家に帰らないと親が心配するかも」

2階におりると、どこからかすすり泣く声がした。自分のすぐ近くにいることが直感的に分かった。

そこで出てきた考えは『殺さなければ』という使命感だった。自分が何者なのか、一体なんのためにやっているのかが全く分からなかった。


「なー、神様よー。あと何人殺せばいいんだよー」

いるわけのない存在に尋ねる。やっぱり俺が見たのは幻想だったのか、ただの願いだったのか分からない。

「そうだね。少し面倒くさくなってきたのか。これを渡すから使ってみなよ」

いや、幻想でも願いでもなかった。神が渡したのは、爆弾。

「さあ、それを使って早く皆を殺してみなよ。そして君だけの世界を創りなよ」

爆弾なんて使って良いものでも造って良いものでもない。そんなことは承知していた。でも、今の俺は理性で行動していた。いや、フランクに言おうか。


一つのボタンを押し、何もかも破壊してやった。

途端に、炎の海が押し寄せてきた。誰もここから逃れられる筈なかった。


「おめでとう。君の願いをかなえてあげよう」

「あらら、死んじゃったらだめだねー」

「それじゃあね、君が転生したときまた私を楽しませてね」



*

「さて、次のニュースです。G県の高校で大量殺人事件がありました。犯人はそのがっこうの生徒と言うことが判明しておりますが、自殺したと思われます」


「4時45分をお知らせします」


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