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おっぱい

面もりのかたなたや

ゆるゆり、はっじまっるよー!、

ディストピアと言ったな。あれは嘘だ。

「話をちゃんと聞いてるの?」

呆けていることを責められ、新田芳郎は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

彼は居候の身であったが、同居人である女の話にいまいち集中できていなかった。

というのも、田中麻衣子に拾われる前から気にしている悩みが、未だに晴れないからだ。

その悩みは中々に深刻であったが、おそらく彼は誰にも打ち明けないだろう。

芳郎が麻衣子になったのは、小さな親切がきっかけだった。

商店街で麻衣子が財布を落としたとき、それをたまたま拾った芳郎が渡したことが始まりだ。

その後、彼氏に振られてむしゃくしゃしていた麻衣子の愚痴を、ファミレスで無理やり聞かされ、そのまま流れで居候をすることになったのだ。

それ以来、この朝日が照らすボロアパートの2階で、共同生活をしている。

「少しぼうっとしてたけど、聞いてるよ」

少しだけ正直に芳郎は答えた。

「そんな風なのはいつものことだからいいけどさ」

麻衣子はそう言うと、彼女の上司がいかに無能であるかについて、再び話し始めた。

彼女の愚痴を聞くのは、居候である芳郎の日課であったが、あまり得意ではなかった。

この前は、元彼と街で会ったときについてだったろうか。

「ところで麻衣子さん」

長くなりそうなので、芳郎は一度、会話を遮ることにした。

「冷蔵庫の中身が切れそうなので、買いに行きませんか」

「それもそうね。あそこのショッピングモールでいいかしら」

あまり機嫌を損ねた様子もなく、麻衣子は賛同した。


二人は部屋着から厚手の服に着替えると、冬空の下に出た。

ショッピングモールは、歩いて20分ほどのところにある。

到着した時には、手はかじかんでいて、入ってすぐに感じられる暖房がありがたかった。

「寒いから、食べ物買ったあともブラブラしよっか」

麻衣子の提案に、芳郎は頷いた。

1Fの食品売り場で肉や野菜を買うと、4Fの本屋へと寄った。

その間のことだ。

芳郎は奇妙な集団を目にした。

全員が男で、年齢や服装がチグハグで、何の集まりか見ただけでは分からない。

友人というにはなんだか、そっけなさ過ぎる感じだが、知らぬ間柄でもなさそうだった。

何より気になるのはその人数で、20名近くはいるようだ。

眺めているうちに、彼らはあちこちへ散開し、スーツの男と、小柄な男、そして、角刈りのマッチョな男が同じフロアに残った。

「あれ一体どういう人たちなんだろうね」

麻衣子も不思議そうにしている。

「分からない。ただ、あのスーツの人はなんだか怖いな」

「私も。ちょっと関わりたくない人たちだよね」

正直な感想だった。

しかし、あまり話していたら聞かれると思いすぐに辞めた。

代わりに芳郎は他に寄る所はないか考えた。

B1Fと1Fは、先ほど寄ったばかりの食品売り場なので用はないだろう。

2Fと3Fは、それぞれ女性物の服と、男性物の服が売られている。

もし彼が麻衣子よりも収入が上ならば、買ってやることもできるだろうが、そうではなかった。

5Fは飲食店とゲームセンターがあり、昼食時であることを考えると、良さそうだ。

6Fは映画館があるが、見る映画もないので行くことはない。

「お腹空いたし、お昼食べにいこう」

麻衣子が芳郎よりも先に言った。

「ご利用のお客様にお願いがあります。どうか落ち着いて聴いてください」

発せられようとした芳郎の回答は打ち消され、ショッピングモールではなく、有事の飛行機で流れるような放送が聞こえた。

少ししゃがれた男の声だった。

「当モールは、武装した強盗により占拠されました」

「騒がず、静かに、係員に従って行動してください」

芳郎はなんとなく、先ほどの集団がそれだったのではないかと考えた。

次に、この放送はスーツの男かもしれない、と。


放送に反して、モールの中は一瞬でパニックに包まれた。

そして銃声が鳴り響き、誰かが恐怖を叫んだ。

人々はすぐに恐慌状態に陥り、助かるために我先にと走り出す。

階段では、誰もが早く降りようと押し合っている。

その結果、老人や子供、妊婦など弱者が犠牲となった。

エスカレーターでは、一人が躓いたためにドミノ倒しが起きた。

巻き込まれた男は骨身を砕かれ、エスカレーターの中へと消えていった。

芳郎たちがいる階でも、この事態は変わらなかった。

5Fから転がるように階段を下る群衆に、何人が巻き込まれただろう。

踊り場の壁には誰かの血糊がついている。

惨状を目の当たりにして、それでも微かに冷静な者もいた。

彼らはエレベーターへと向かった。

しかし、無情にも強盗団が待ち構え、押しやって逃げようとした者は凶刃に倒れた。

目の前で人の首や腹が大きな刃物に裂かれる様を見て、誰もが硬直した。

そこに畳み掛けるようにスーツの男が拡声器を手にして脅迫を伝える。

「動くな!お前達は人質だ。これから一箇所に固まってもらう。ついてこい」

逆らえるものは居なかった。

























しるかしね。

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