憎悪と殺意 後編
俺達は商店街を離れると、しばらく走ったところにあるコンビニに原チャリを停めた。
人はまばらだった。
「どうする?俺達、あの婆さんを殺っちまったよな、多分・・・」
「どうするもこうするもねえよ!あの時慌ててたから放置してきちまったけど、俺らの顔を撮ってたヤツがいた!あれを警察に持っていかれたらおしまいだ!!」
「マジかよ!!でも、もう多分見せてるだろうな・・・」
「あーあ!!あんなことしなけりゃ・・・」
「・・・」
その後近くの目立たない裏の空き地で俺達は夜を明かした。
次の日の朝、俺はやっと気づいた。
俺たちが殺すターゲットは、すべて「社会非貢献者」
奴らは、この世の中に不要生き物だ。
だったら、俺の手でこの世から全ての不要な人間を駆逐してやる。
殺してやる。
俺は変わった。
この手で一匹残らず排除する。
銃を片手に俺は家を出た。
朝目が覚めると、雨が降っていた。
雨に打たれたまま寝たせいで思いっきり寝冷えしてしまい、くしゃみが止まらない。
寝ている良太郎を起こし急いで屋根のある場所を探した。
すっかり濡れた服を乾かそうにも、変えの服がなかったので着たままでいた。
「あーさみー」
「本当に、ツイてないな。最近は特に。」
「バイトもクビになっちまうし、多分家賃滞納でアパートも追い出されてるだろうし。」
「多分ババア殺したからあの界隈にはもう手配書とか出回ってるんだろうな。」
「・・・俺たちなんでこんなになっちまったんだろうな。」
答えは簡単、元はと言えば俺達のせい。自業自得だ。
学生のあの時ちゃんとやっておけばと思ったのは初めてだった。
「・・・けど何で俺たちみたいなガキは報われないのに、あんな年食った生き物が優遇される世の中なんだろうな。」
「・・・そんなこといったってしょうがねえだろ。」
「けど、」
「そんなことなんかもうどうだっていいんだよ!!!!!俺達は今殺人犯になって逃げ回ってるんだ!!!!」
「・・・ッ!」
「今更言い訳はきかねえよ。とにかく、もう雨も止んできたし急ぐぞ。」
停めてあった原チャリところに急ぐ。
辿り着いた先には、一人の男がいた。
憎悪と殺意に満ち溢れた眼でこちらを見つめていた。
「やっと見つけた」
彼らの潜伏先が北条から伝えられたのは家を出てすぐだった。
なぜ知っているのだろうか。どうやって誰が特定したのだろうか。
もうそんな事はどうだって良かった。考えもしなかった。
「だ、だれだてめぇ!!」
もう一人の男は、あの写真で後ろに乗っていた男。
こいつを殺す権限が俺にはなかった。
だから、俺はあいつだけでも殺して見せる。
半沢 孝之。
ばあちゃんを殺した男。
「・・・おれが誰だかお前には分からないだろう。だがな、俺は絶対お前の顔を一生忘れることはない。」
「・・・?誰なんだよ・・・!」
「お前の殺した老人。あれは俺のばあちゃんだ。」
「!!!!」
「半沢 孝之。 お前を殺しにきた。」
俺を殺すためにやってきたというその男は、確かに右手に銃を持っていた。
本気で殺すつもりであったことには間違いなかった。
良太郎はピクリとも動かずに様子を伺っているようだ。
というか、そもそもこの男はどうやって俺たちの居場所を突き止めたのだろうか。
もしかして、既にこの辺りにも俺たちの顔が伝わっているのか。
今はそんなことを考えている余裕はない。こいつから逃げなくてはならない。
「・・・お前らクズはどこまでもクズなんだな。」
「・・・あ?」
唐突に男が話し出した。
「自分の能力の低さを他人の作り出した環境のせいにして自分で手に入らないものを自分より腕力で弱いものから奪い取る。」
「なんだと・・・!」
「周りからみたら惨めとしか思えない自分の姿に恥を覚えようとしない。」
「・・・ッ!」
「挙げ句の果てにお前らは他人の大切なものを壊してまで生きる術を探すようになる。」
「黙れ!!」
「・・・お前達不要な人間は、俺が綺麗さっぱり消し去ってやる」
そう言い終えると男は銃を構えた。
「お前達は!!!俺が一匹残らずこの星から!!駆逐してやるううう!!!!」
もはや半狂乱の男が引き金に指を構える。
そのとき俺は強い力に引っ張られた。
良太郎に腕を掴まれ俺は2人で原チャリに乗り込んだ。
奴らが逃げようとしている・・・!!
俺はこいつらを逃がすつもりなど微塵もなかった。
「待ちやがれええええええ!!!!!」
車に乗り込みアクセル全開で前を走行する原チャリを追う。
それはまさにカーチェイスだった。
こんな一般道でこのスピードを出して、窓から銃撃をするなんてしたこともなかった。
奴らは原チャリ小回りのよさを活かして細い道をくねくねと走る。
しかし俺は割と運転には自信がある方で、何度か車をぶつけながらも追いついていた。
窓から手を出して銃を放つ。
甲高い銃声と共に放たれた銃弾はコンクリートの地面に傷をつけただけだった。
「くそッ!!」
俺はその後も何発も銃弾を放ち続けた。
すると、
ぱんっ!!!!
何かが破裂する音がした。
俺の原チャリは、後輪のパンクでバランスを崩し転倒した。
どのくらい走っただろうか。
ヤツは何発も銃撃してきた。
なるべく細い道を選んで車の侵入を防ごうとしたもののあえなく失敗した。
転倒した俺と良太郎。
良太郎は頭をぶつけて失神していた。命に別条はなさそうだった。
あの男が車から降りてくる。
「・・・殺す」
ここからは、俺とあいつの一対一のタイマン勝負。
タイマンくらい、数えきれないほど張ってきた。
地元でも有名な負けしらずともいわれた。
だが流石に銃相手に素手で敵う気がしなかったので、近くにある大きな木片を手に取ると、前で構えた。
「・・・かかって来い」
あいつ、木片一本で銃相手に立ち向かおうってか。
俺は、クズの割にはやるじゃねぇかとしか思わなかった。
「おもしれぇ、くずがどこまでやれ」
ゴフッ
気づいたら既に腹を殴られていた。
こいつ、速い。
「がっはぁっっっ」
「どうしたよ、おい」
頭に衝撃が走る。
一瞬意識が飛びそうになる。
だがなんとか持ちこたえて、立ち上がる。
「・・・やるじゃねえか」
「・・まだまだこれからだ」
体制を立て直し俺は銃弾を放つ。
だがふらついて上手く目標が定まらず、外してしまった。
「らあああっ!!!!」
銃を持っていた方の手を殴られた。
何とか銃は手放さなかったものの、腕に力が入らない。
頭もフラフラしてきて、意識が飛びそうだ。
「これで終わりだ」
振り降ろされた木片がまっすぐ俺の頭に飛んできた。
最後の一撃で、男は気絶した。
「はぁっ、はぁっ・・・」
そうだ、良太郎!
「大丈夫か!?」
「・・・うぅ」
意識は取り戻したようだ。
「俺があいつを倒した!早くここから離れるぞ!!」
良太郎に方を貸しながら原チャリに乗る。
差しっぱなしの鍵をひねったその瞬間。
俺は倒れた。
男の銃の銃口からうっすら煙が立っているのが見えた。
辛うじて取り戻した意識の中、俺はこの一発の銃弾を確実にヤツに当てることだけを考えた。
「・・・やって、やったぜ・・・」
俺はそのまま意識を失った。
・・・俺は、近づいてくる死に怯えることは無かった。
良太郎の声がする。
俺を呼んでいるのか?
手を胸に当てると、血が流れ出ているのがわかった。
最後までみっともない人生だったなぁ。
目が覚めると、あの集会所のベッドで寝ていた。
横にいたのは、あの受付嬢と北条。
「お目覚めのようですね。」
「ここは、集会所か。」
起き上がろうとしたら頭が痛い。
「安静にしていなさい。まだ痛むだろうからね。」
「あいつらはどうなった?!」
「きかれると思っていました。お答えします。」
「あぁ、教えてくれ。」
「まずあなたのターゲット半沢孝之は、あなたが倒れていた場所で死亡。任務は無事に遂行しました。そしてあの場に一緒にいた榊良太郎は、あなた達の乱闘のあと自ら出頭し逮捕されました。」
「・・そうか。」
「貴方はあの時、どんな思いでターゲットを殺しましたか?」
突然の北条の質問に戸惑ったが、おれは答えた。
「・・憎しみ以外何も感じなかったよ。」
「・・・そうてすか。」
「だったらなんだってんだよ?」
「やはり貴方は見込み通りのようだ。これからも期待していますよ。」
・・・?!
「お、おい!どういう意味だ?!」
「では、失礼。」
「おい、待てよ!!おい!!」
また寝ていたようだ。
起きたらすっかり体調は良くなっていたので、包帯を外して集会所の中を探したが誰もいない。
外は昼間で、恐らく丸一日ねていたようだ。体の節々が痛む。
外にでたが、北条達は居なかった。
だが俺は正直もう北条が何を考えているのかなんてどうでも良かった。
俺はその時、世の中に溢れかえる不要な人間を容赦無く殺す冷血な殺人鬼になっていた。
北条は不敵な笑いを浮かべていた。
「・・・やはりヤツには素質がある。憎しみを増大させればさせるほど、ヤツの中の冷酷な悪魔はその牙を剥く。」
「大切な人を奪われる憎しみが、ヤツの強さになる。」
Episode5 END