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憎悪と殺意 前編




俺は、任務を終えた後も特に体調を崩すことはなかった。



―――こんなことを繰り返していると、だんだん慣れていってしまうものなのだろうか。




その日はそのまま車で出勤することにした。車で出勤なんて、初めてだからなぜか緊張してしまった。






会社につきデスクに座ると、みんながテレビのニュース速報に釘付けになっていた。



そこで報道されていたのは、今朝の俺のターゲットが殺していたあの男たちに関する報道だった。


心臓がドクンとなるのが自分でもわかるくらいだった。




まさか・・・北条は罪に問われないといっていた。大丈夫なはずだ。


「――――本日午前九時ごろ、都内の住宅街にある公園で4人の少年の死体が発見されました。いずれも体中を刃物のようなもので刺されており、警察の調べによりますと、付近に血の付着した鋭利な木片があったということで、これを凶器として使用し殺害されたとみて捜査を進めています。―――――」





・・・・・?



4人・・・・・?





まてよ、あの時俺が殺した甲元という男の周りに散乱していた死体の数は4人。


甲元はどこへ行った・・・!?



あれほどテレビで大きく報道していた制度の制定。よく考えたら、あの制定後一度も制度に関する報道が全くない。


そしてもちろん既に俺が殺したターゲットについても、である。




そして、あの場所で同じく殺された甲元の死体だけなぜ消えているんだ・・・!?





おかしすぎる。ありえないことが起こっている。





いったい何を考えているんだ・・・?










雨の降りしきる、とある商店街。



人通りの少ないつぶれた店の裏側で、今日もせっせとカツアゲをする2人の男。



「・・・ったく話のわからないガキだな・・・」


「金出せって言ってんだよオラァッ」


捕まえた中坊の胸ぐらをつかみあげると近くに投げ飛ばす。



バックをあさって出てきた金はわずか2000円。




「ケッ・・・こんなはしたな金しか持ってないのかよ!」


倒れている中坊のお腹にもう一発蹴りを入れて立ち去った。





俺の名前は半沢孝之(はんざわたかゆき)。もう一人は榊良太郎(さかきりょうたろう)



俺ら二人は勉強もロクにしたことなんて無かったし、中学生の時は暴れまくって教室の窓を割ったり消火器をばらまいたり教室で花火やったり、もうやれる悪さはし尽くした感じだった。




俺は卒業しても行く先は見当たらず、とりあえずバイトの収入で安いアパートを借りてその家賃と食費を賄っていたのだが、最近そのバイト先で問題を起こしてクビになったばかりだった。



収入がなくなった今やることは、ひたすらカツアゲをしてお金を手に入れることだけだった。




俺は地元ではそれなりに名の通ったワルで、周りが俺を避けて歩いていくのがなんとなく気分がよかった。






そして俺らが次に狙ったターゲット。それは、銀行から出てきた年寄だった。





年金がたんまり入る婆どもから金を吸い上げれば大きな収入になる。時々銀行の前を張ると出てくる年寄は、格好の標的だった。




俺たちは、一瞬でひったくって逃げるために原チャリに二人で乗り、後ろから婆のもっているカバンをひったくる作戦に出た。




用意しておいた原チャリに乗り込み、エンジンをかける。





一気に加速して婆に突っ込んだ。




カバンをつかんだ・・・!!


だが、婆はしぶとくカバンから手を放そうとしない。




「はなしてぇぇ!!それには・・それには・・!おねがいいいいいいい」




俺たちはそれでもなおも引きずり続ける。「あああぎやああああいいいああ」と奇声を発しながら婆はまだ離さない。






すると、がごんっっという鈍い音が響いた。




道路にあった街灯に婆が頭をぶつけたのだ。




しばらく痙攣した後、婆は動かなくなった。




「・・・やっちまった・・・!!」



「おい、孝之!!なにもたもたしてるんだよっ!!!逃げるぞ!!!!」



「あ・・・あぁぁ!」




アクセル全開で原チャリを加速させて、俺たちは逃げ出した。










次の日もいつも通り出勤した。



昨日の事件の報道は、証拠が見つからないと警察の捜査は難航しているというものだった。



それはそうだ、犯人はすでに死んでいる。その死体は何者かに回収されたと思われ、その場にはない。




そして、そいつを殺したのは紛れもなく俺である。







また気分が悪くなっていると、突然携帯が鳴りだした。


母親からの着信だった。



「どうした、母さん・・・」


「うっ・・・ひぐ・・・お・・おばあちゃんが・・・おばぁ・・ちゃんがぁ・・・」



明らかに様子がおかしい。



「落ち着け、どうした?」







「お・・・おばあちゃんが・・・死んだ・・・・・」






「え」










病院についたのは、日が傾き始めたころだった。


そこにいたのは、病院のベッドで横たわるおばあちゃん。



息はしていなかった。





「なんで・・・」


「・・・ひったくりにあってね、持って行かれそうになったカバンを必死でつかんでいたらそのまま街灯に頭をぶつけたって。」


「・・・」


「これ、周りにいた人が撮影した写真。こいつらが犯人だって・・・」


「・・・」


金髪に染めた髪の毛。大きな穴のピアス。


どうみても、ただの柄の悪そうな男。





俺は怒りより先に、脱力感が先にきた。





全身の力が抜けて俺はその場にひざをついた。








・・・そこから先のことはあまり覚えていなかった。


気づいたら家に帰っていた。



なぜ、何の恨みもないターゲットを殺さなければならないのだろう。


なぜ、俺のばあちゃんの命を奪ったあの男を殺してはいけないのだろう。






俺は、あの時あれだけ脱出したかった平凡な日常に戻りたかった。






気分が悪くなり、少し外の風を浴びたくなって、玄関の扉を開けた。




雲に隠れた満月が少し顔を出している。





ふとポストを確認すると、そこにあったのは政府からの封筒。




次なるターゲットを示す指令。






何でこんな時に・・・。



家に入って中身を確認した俺の目は、一瞬にして変わった。


そこに貼ってあった、1枚の写真。






金髪に染めた髪の毛。大きな穴のピアス。





それは、ばあちゃんを殺したあの男だった。






Episode5 END

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