負け組先生 前編
今回もよろしくお願いします
あらすじは書くの面倒なので前の話から読んでください^^
あれから3日の月日が流れていった。
俺は未だにあの時の事が頭から離れず、会社には一応重度の体調不良と伝えて休んでいる。
俺は自分の手であの少年を撃ち殺した。
あの時、撃った俺の方を振り返った彼の顔が頭から離れない。
何か、果たし損ねた誓いを悔やむような、そんな顔だった。
もしかしたら彼は社会に不要な人間の一人ではなく、これからの第二の人生へ新たな一歩を踏み出したばかりだったのかもしれない。
そのすべてを、俺が放ったあの時の一発の銃弾が打ち砕いた。
こんな辛い仕事なら、引き受けるのではなかったと今更ながら本気で悔やんだ。
「俺は・・・もうこんな事したくない!」
次の日、俺は久々に外に出た。
車に乗って、向かった先はあの時のボロ集会所。
もしかしたら、あそこにまだあの時の北条という男がいるかもしれない。
集会場が見えてきた。
と、その集会場に立ち尽くす一人の男。
それは北条ではなく、あの時一緒に依頼を引き受けたガタイのいい男だった。
俺は近くに車を止めると、ガタイのいい男に近づき話しかけた。
「あの・・。」
「あ、あんたはあの時一緒にいた・・。」
「はい、岡本史哉といいます。」
「岡本さん、か。俺は鷹森力弥だ。」
鷹森力弥、何か見た目に凄く似合った名前に思えた。
「鷹森さんはどうしてここに?」
「あぁ、やはり俺はあんな仕事するのは気分が悪くてね。一人目のターゲットを殺してから気分が悪くてしょうがない。今からでも断ろうかと思ってね。・・・あんたは?どうして来たんだ?」
「あ、俺も同じです。」
鷹森もやはり人を殺めた事への罪悪感からこの仕事をやめたいと思ったらしい。
鷹森は想像していた通りで、何と無くワイルド系な感じがした。
「やはり来ましたか・・・。」
俺たち二人の後ろから少し低い声で誰かが話しかけて来た。
俺と鷹森は同時に後ろを振り向いた。
そこにいたのは、北条だった。
「あ、、おい!頼みがあるんだ!!」
鷹森がそう北条に言った。
「何でしょう・・・?」
「こんな仕事もうやりたくねぇんだ・・。頼む、今からでも辞めさせてくれないか?」
「それはこの仕事そのものを辞退するという事ですか?」
「そうだ、賞金も何もいらねぇから!」
すると北条は少し目を細めてこう言った。
「この仕事を辞退するという事は、この制度の殺害施行人では無くなるという事なので、あなた方は殺人罪に問われる事になります。それでもよろしいのならどうぞお好きなように。」
北条はそういうと不敵な笑みを浮かべ後ろを向いた。
「ふ、ふざけんな!!!」
「あなた達は人を殺した。もしこれがただの一般人が、仮に前は殺害施行人の一員であったとしても罪に問われるのは当然です。」
「ぐっ・・・!」
「殺害施行人が、指定されたターゲットを殺す場合以外の殺人は一切認められてはいません。」
「・・・ちくしょう!それが日本政府のやることかよ!!」
「ほかにご質問はございますか?」
北条は俺たちにそう聞いたが、俺も鷹森も黙り込んでいた。
その様子を見てもう何も言ってこないと判断したのか、北条はそのまま俺たちが来た道と反対側に歩いて去って行った。
俺は鷹森としばらく話し込んでいた。
もちろん、これからのことである。
「鷹森さんは、どうするつもりですか?」
「・・・どうするもこうするも、これからもやるしかないだろ。」
「・・・。」
「このままやらなかったら、刑務所にぶち込まれるだけだ。これから一年間と考えると相当長いが、耐え抜くしか策は無い。」
「・・・正直、人を殺した時は自分がやったと思いたくありませんでした。」
「俺もだよ、ここまで気分が悪くなったのは初めてだった。」
「とにかく、もうやるしか方法はなさそうですね。」
「あぁ、もはやそれ以外に残された道は無い。お互いこれからも辛い思いをするだろうけど、こんな仕事必ず終わらせよう。」
「はい・・・!」
俺はその後鷹森と連絡先を交換して、鷹森はそのまま車に乗って去って行った。
俺は一人でまた考えていた。
すぐそばにあったコンビニでおにぎりとタバコを買って、座り込んでいた。
鷹森には、やるしかないと意気込んだものの、やはり簡単にはやる気になれなかった。
あの時の感触がどうしても忘れられない。これを当たり前に出来るようになるのはおそらく不可能に思えた。
だが、このままだと間違いなく本物の犯罪者に、殺人鬼になってしまうのだ。
もっとも法的に許されていても既に殺人鬼である事は違いなかったのだが。
大好物のコンビニの昆布のおにぎりもあまり美味しく感じられない。買うんじゃなかった。
俺は再び始まるであろう殺人の任務が来るのが怖かった。
俺の名前は、甲元竜也。
俺が高校に行かなくなってから、一年が過ぎた。
今ほかの奴らは夏休み真っ盛りだろう。友人達と楽しく海に行ったりして遊んでいる事だろう。
だが俺はいじめが原因で登校拒否になっていた。
中学の時、常に守り続けてきたトップの座。
厳しかった両親から褒められることだけのために日々勉強を積み重ねてきた。だがなかなか認めてもらえないのが悔しくて、そのためだけに生きてきた。
俺はそれで培った学力が取り柄だった。
有名進学校に入学するため日夜勉強に明け暮れる毎日を過ごした。
俺は努力の甲斐もあり、ギリギリのラインで見事合格。両親からもとても喜ばれ、これからの人生成功間違いなしのはずだった。
日常のすべての時間を勉強に費やしてまで入ったその学校で僕を待ち受けていたのは、リンチと差別地獄だった。
僕はイジメの最初のターゲットにされ、ありとあらゆるイジメを受けた。
ある日学校に行ったら、机が消えていた。
数学の教科書が、トイレの便器に突っ込まれていた。
毎日のようにバイキン扱いされながら、罵声を浴びせられ、殴られて、蹴られた。
肝心の勉強も、学校に入学して間も無く挫折を味わった。
学年内順位はしたから数えた方が早い。テストの点数も全く伸びず、みるみるうちに赤点まみれのテスト成績表。
両親にも見放され、もはや俺の味方は誰もいなかった。
とある日の午後、俺は不登校になってから久しぶりに外を出歩く事にした。
最近全く吸っていなかった外の空気はうまかった。
近所の公園のベンチに腰をかけた。
ふと横に目をやると、何やら小学生の男の子が算数のドリルの問題に頭を抱えていた。
公園きてまで宿題やるのかと俺がその様子を見ているとその小学生は突然俺の方に向かって、
「お兄ちゃん、この問題わからないから教えてよー!」
と、話しかけてきた。
「え、あぁ・・・」
一流の進学校に入学するために勉強ばかりしてきた男だ、小学生の算数なんて朝飯前だ。
俺は問題の解き方を教えてやった。
「すごいすごい!お兄ちゃん頭いいんだね!」
「あぁ、いやまぁ・・・」
「じゃあこの問題も解ける??」
俺はその小学生に一時間ほど算数のドリルの問題の解き方を教えていた。
一通り解き終えて、ふぅと息を漏らした。
「お兄ちゃんすげぇ!!こんな難しい問題簡単に解いちゃったよ!!!」
「まぁ、高校生だしさ、一応。」
俺は、とても嬉しかった。
たとえそれが小学生でも、自分のことを認めてくれたことが嬉しかった。
こんな風に、他人に認めてもらう事は初めてだった。
「お兄ちゃん、俺算数超苦手なんだ。だからまた教えにきてくれよ」
「うん、もちろん。」
「やったああ!!」
男の子はとても嬉しそうに叫んで、俺の方に向き直ると
「ありがとう!ばいばい!!」
と言い残してランドセルをガショガショ言わせながら帰って行った。
家に帰ると、そこにいたのは両親と学校の担任だった。
父と母と先生と俺の4人。言われる事はわかっていた。
「出席日数不足です。このままだと退学は免れません。」
両親が返す言葉は決まっていた。
「結構です、退学させてください。」
先生が帰ったあとも両親が俺に話す事はなかった。
次の書類が届いたのは、鷹森と会ってから一週間後のことだった。
そこに書かれていたのは、次なるターゲット。
その名前は、甲元竜也。
Episode3 END