お婆ちゃんの野菜の煮物
今回もグダグダです。
読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
とある田舎町に、一人の男の子が産まれた。
晴也と名付けられたその子供は、両親の愛情をたっぷり注がれて、幸せに生きてきた。
時は過ぎ小学生時代、勉強も出来て、スポーツ万能。男子からも女子からも好かれるいい男。
だが彼の家庭は当時悲惨な状態になっていたのだった。
父親は会社での営業成績の低迷でリストラされ、毎日のように酒を飲んでは晴也と母親に暴力を振るっていた。
晴也は父親から母親を守るようにいつも殴られ続けた。
ある日、突然母親が自宅で自殺した。
自分の母親が首を吊った腐乱死体になっているのを目の当たりにした晴也は、その日帰ってきた父親を包丁でめった刺しにして殺した。
少年院に入れられた当時中学生の晴也はもうボロボロだった。
ーとある男の日常
そこにあったのは、間違いなく
俺が最初に殺すターゲットだった。
「嘘だろ・・もう殺るのか?」
とある男の素性が書かれた書類にクリップで貼り付けられたその写真は、金髪でピアスをしていて、明らかにぐれてしまった感じの少年だ。
どうやら経歴を見る限り、年少あがりのようだ。
いざ任務を言い渡されると、どうしても躊躇ってしまう。人を殺すことが出来るのだろうか。
殺害期限は、3日後。
俺は今日一日を考える時間に費やすことにした。
久々に出てきた塀の外だった。
「空気がうめぇなぁ!」
晴也は久々に吸う外の空気を思う存分堪能した。
いく宛はある。ばあちゃんの家が俺を受け入れてくれるらしい。
今ばあちゃんは一人で、爺ちゃんはもう俺がガキの頃に死んだ。もっとも、まだガキだが。
「久しぶりねぇ、晴也。」
ばあちゃんは家の外で出迎えた。
「おう。」
「さぁ、お上がり。疲れただろうから何か食べるものをあげようか。」
「あぁ、頼むよ。」
ばあちゃんは、自分の畑で取れた野菜の漬物と、おにぎりを持ってきてくれた。
「ありがとう。」
俺は腹が減っていたのであっという間に食べ尽くした。
それにしても、俺には働く当てもなければ、ここ以外に行く当てもない。
だから今出来るのは、ばあちゃんの手伝いをすることだけだった。
ばあちゃんの畑で取れる野菜は絶品だ。特に大根が美味い。ふろふき最高。
晩ご飯は野菜の煮物などの畑の野菜をたくさん使った料理が並んだ。
「うまそー!いただきます!!」
「召し上がれ〜。沢山食べるんだよ。」
俺は飯を食いながら、ばあちゃんと両親の話をした。
「・・・ごめんよ、晴也。」
ばあちゃんは父方の方で、やはりこの事件でのことをかなり気にしていたようだった。
「いや、おれが悪いんだ。人殺しなんて取り返しのつかないことなんかしちゃったし。」
「私は息子の育て方を間違えた。そのせいで晴也にも辛い思いをさせた。」
俺が黙ると、ばあちゃんはまた話し始めた。
「実はね、お母さんには何度か話を聞いた事があったんだ。」
「え!?母さんが?!」
「あぁ。父さんがもう毎日大変なんだ、っていう事をな。」
「・・・そうなんだ。」
「ごめんよ、早々にこんな辛い話ばかりで。」
「いや、ばあちゃん。全部聞かせてくれ!母さんが話した事も全部!!!」
「・・・あぁ、分かったよ。」
親父がリストラされた直後、母さんはばあちゃんの所に行ってすぐに相談したらしい。
ばあちゃんは、息子がだめなやつでごめん。今すぐにでも離婚させる。と言ったらしい。
だが母さんは離婚は絶対しないと誓ったらしい。ここで離婚してしまうような半端な結婚ではないと。それでもあの人を愛し続けると。
二回目に相談にきた時、母さんは既にやせ細っていて、身体中にあざがあったという。
流石にこれ以上は危険と判断したばあちゃんが、離婚を強く勧めるも、また断固拒否されたらしい。
その次の日に、母さんは自殺し、俺は親父を滅多刺しにして殺した。
だから何もできなかった自分が悔しい、俺に迷惑を掛けたと、とても悔やんでいた。
「ばあちゃんは悪くねぇ!悪いのは親父とそれを殺すことしかできなかった俺だ!だからみんなにも迷惑掛けたしばあちゃんに辛い思いもさせちまったんだ!」
「いや、私が・・」
「もうやめよう!!こんな話したって埒が明かない!」
そういって俺は自分の食器を片付けて早々に床に就く事にした。
次の日の朝、俺は銃を手に取り、使い方を確認するとそれをスーツケースにしまった。
俺は今日やる事を決意した。
スーツケースは、余分なものを抜いたおかげで最初に持ってきた時よりだいぶ軽くなっていたので持って行くのは容易だった。
ターゲットの住所は車で1時間ほどの所にある田舎町。
こんな山奥まで行くのかと、心底面倒ではあったもののそんなことを言っていたらこの仕事は成り立たなかった。
そして気づいたら俺は一つの田舎町にきていた。
次の朝は早く起きてばあちゃんの手伝いをするつもりだった。
朝5時に起きたのにばあちゃんはもうすでに畑へと向かっていた。
急いで着替えて向かった先には
畑に倒れるばあちゃんの姿。
「ば、ばあちゃん?!?!」
息が荒く、小さい。胸を手で抑えて倒れている。
俺は持っていた携帯で救急車を呼んだ。
この町には近くに病院がなく、救急車は時間がかかると言われた。
「ばあちゃん!!聞こえるか!!少し頑張ってくれ、頼むよ!!!」
晴也はもう自分の犯した罪のせいて、ばあちゃんにあんな思いをさせていることが悔しかった。自分が憎かった。
だからこそばあちゃん助けたかった。
するとばあちゃんが俺の腕を弱々しくつかんだ。
「ばあちゃん!!!」
何かを言いたげに口を動かしている。
俺は耳を近づけて聞いた。
「 おま え は いき ろ」
途切れ途切れにそう言い残した。
30分後、ようやく救急車が到着するも、ばあちゃんは来た救急車の中で息を引き取った。
心臓が弱かったらしく詳しい病名なんかは分からなかったが、もうそんなのどうでも良かった。
せっかく手にいれた自分の居場所を失い、ばあちゃんを失った。
もはや生きる事が嫌だった。
そこには、一人立ち尽くす少年がいた。
「あいつが・・!」
そう、あれが俺の最初のターゲット。
村上 晴也 。
俺は、ターゲットと話すと情に囚われ撃てないと判断し陰から撃つ事に決めていた。
スーツケースから銃を取り出す。
だが、やはりここで躊躇った。
この銃を撃った瞬間、俺は人殺しになる。
たとえそれが罪に問われなくても。
だが、俺はこのままでは変われない。
あそこにいる少年を撃った瞬間俺は、新たな自分に生まれかわり、今までの昔の朽ち果てるまで何も変わらない自分のままだ。
俺はそんな事でしか判断できなかった。
一発の銃声が鳴り響いた。
俺はその場に立ち尽くしていた。
ばあちゃんを助けられなかった自分の無力さ不甲斐なさ、そしてなにより自分の犯した罪の重さを今また噛み締めた。
こんな自分のせいで大切な人が死んでいったりするのが嫌だった。死にたかった。
そんな時ふとばあちゃんの最後の一言が頭をよぎった。
「お前は生きろ」
俺がこうして立ち尽くして生きる事に絶望を感じている事をばあちゃんは本気で望んでいるのだろうか。
このまま辛くて自ら死を選ぶ事をばあちゃんは望んでいるのだろうか。
望んでいる訳がない。
だからこそ、ばあちゃんは最後まで俺の事を気にかけてくれた。
出所して2日しか一緒にいれなかったけれど、俺はもっと小さい頃からばあちゃんのところへ何度も行った。
最後に食べたあのばあちゃんの野菜の煮物の味も覚えている。
だからこそ、そんなばあちゃんの思いを裏切ることはしたくなかった。
気づいたら俺は上を向いて、微笑んでいた。
ばあちゃんの分まで生きたいと強く願うようになった。
そして気づいたら俺の胸は自分の血で赤く染まっていた。
後ろを振り向くと、スーツケース持った一人の男がこちらに銃を構えていた。
男は俺と目が合うと急いで車に乗り込み足早にその場を立ち去った。
俺は早くも生きることが出来なくなってしまった。
呼吸が出来なくなり激しい痛みが伴う。
「ごめんな・・・・ばあちゃん・・」
静かに目をつむった。
「はぁ・・!!はぁっ!!」
俺は何であの時考え直さなかったのか後悔した。
自分のこの手で、人を殺した。
急いで車に乗ったが、吐き気を催し車を止め路肩で吐いた。
涙で前が良く見えない。
山奥なので人は居なかった。
そのままそこで何時間も泣き続け、気がつくと朝だったはずがもう日が落ち始めていた。
だが俺にとってこの日は人殺しを繰り返す地獄のような一年の幕開けに過ぎなかった。
その日の夕焼けは不気味なほど輝いていた。
Episode2 END