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罪無き者の罪




Episode1 罪無き者の罪




それはある日突然起こる



「社会非貢献者削減制度」

対象は義務教育過程を終えた満十五歳以上で高校、大学への未就学者及び企業への未就職者で就職活動をしていない、さらに臨時雇用もされておらず収入が一切ない者。更に以上の内容に該当する未成年者で夜間の未成年者外出禁止時間帯の外出者。以上に該当する国民は政府により派遣される者によりーーーー





例外なく抹殺される。







初夏のとある朝。

一人の男の日常。






また、代わり映えのない一日が始まった。


郵便受けに入った朝刊を手にとり、焼いた食パンにマーガリンを塗る。テレビをつけていつもと同じ朝のニュースを見る。


俺は岡本史哉(おかもとふみや)。日本中に溢れかえる冴えないサラリーマン族の一員。馬鹿にするな、これでも食う為に懸命なんだ。



不景気は良くなるどころか悪化の一方。

俺たちリーマンのチンケな安い給料も一向に回復の兆しが見られない。


まぁ俺は独身の一人暮らしだからまだいいか。



いや、良くない。というかもうすぐ三十路を迎えるというのに、働いてばかりでそんな余裕がない!


毎年親戚の集まりで実家に帰るたびに母親には早く孫の顔がみたいとせがまれる。


だがやはり前述の通り、本当に余裕がない。




「さて、いくか」

俺はスーツの緩んだネクタイを締め直し鏡の前のたるんだ自分の顔を叩いて家を出た。











その日も仕事を終えて、家路につく。

小田急線の狭苦しい帰宅ラッシュの車内にもみくしゃにされながらヘロヘロで帰宅。



風呂に入った後の冷蔵庫で冷やした缶ビール。俺は今の会社に就職してからずっとこの為に生きている。




「プハアーーーッ!」




テレビをつけてもどこのチャンネルもやっているのはみんな同じシケたお笑い番組や毎日同じようなことしか報道しないニュース番組ばかり。





自殺なんぞという馬鹿な真似をしたいわけではないが、生きることそのものへの希望がない。もちろん生活が不安定なわけでもなければお金がないわけでもない。


それが逆に変わらない退屈な毎日を生むのだ。それこそ、生きる楽しみさえ見失うほどの。



「あー!こんな小難しいこと考えてたって何も変わらねえ!寝る!!!」



俺はもう何も考えたくなかった。また明日も変わらない一日が始まる。考えても何も変わらない。



そう、思っていた。





次の日の朝。


いつものように郵便受けに入った朝刊を手にとる。今日は一面の記事がやたらでかいがあまり気にしない。



焼いた食パンにマーガリンを塗る。


朝のニュースを見る為にテレビをつける。






ん?






「社会非貢献者削減制度・・?」




その日のニュースキャスターの顔は一段とキマっていた。




「えー、今回新たに制定された・・・」



キャスターが話し始める。



俺はその内容に驚愕した。いや、日本中のすべての国民がそうだったのだろう。


新たな制度の制定。

要するに、町中に溢れかえるDQN共を片っ端から殺す、という内容だ。



「そんなの、許される訳がないだろ・・・」





出勤した職場の話題もそれで持ちきりだった。



「人殺しの制定だぜ?!」


「いくらなんでもねぇ・・」



やはりみんな驚きを隠せないようだ。




それでもしばらくすると黙々と作業に取り掛かる他の社員。



俺は今回のこの事でなぜか頭がいっぱいだった。

何も起こらないと思っていた今日。昨日あれだけ失望していた明日。



そんな俺の毎日に変化が起きた。そんな事だけれども、俺の仕事への集中力を奪うのには十分すぎる威力だった。





「岡本くん!!」



あー、厄介なのがきたよ。



うちの部署でNo.1の口うるさい上司丸山。



本名は奈良敏明(ならとしあき)なのだが、あんまり太って丸いので丸山。俺たちが勝手にそう呼んでいるが本人は気づいていないようだ。



「ぼーーっとしてばかりいないで手を動かしたらどうだい?」


「すみません。」



チッ、お前になんか分からねえよまん丸に肥えた家畜め。




結局その日は仕事がはかどらず、その後丸山に5回の注意を受けた。これは俺が以前徹夜でドラクエやった次の日以来の最高記録である。


そして終わらなかった作業を一人残業で済ませる。



会社を出る時はすでにヘロヘロ。

電車なんか乗りたくない。



だが今日は残業で遅くなったせいか、帰宅ラッシュ後だったようだ。人が少ない。

時計をみると既に12時を回っていた。よく考えたら今日は忙しくて時計なんかみてなかった。




12:30を過ぎたところでようやく帰宅。今日は特に疲れた。



そのせいで今朝のニュースを忘れかけていた頃だった。




郵便受けに入れられた一つの重厚な封筒。



「えーっと、送り主は・・・」





日本政府 社会非貢献者削減制度課











「!?!?」




なぜ自分の所になぜ政府からの封筒が届くのか理解できなかった。



「なんなんだこれ・・」




家に入り、冷蔵庫で冷やしたビールをのみながら封を開ける。





そこには紛れもなく「社会非貢献者削減制度」の文字。



全く意味がわからない。




開けて見て最初に目がついた少し厚い緑色の冊子。


「社会非貢献者削減制度の抹消施行人に関する依頼について」




もうだめだ。ひとまず頭を落ち着かせよう。


俺は頭を抱え座っていたソファに寝転んだ。





















・・・寝てしまっていたらしい。



朝起きると既に時計は9時を回っていたが、今日は土曜日だ。



テーブルの上には昨日の冊子が置いてある。



俺は覚悟を決めて冊子を開いた。

















気がつくと正午を回っていた。


地元の正午のチャイムが街に鳴り響く。





俺は考えていた。





あそこに書いてあったことは、間違いなく



例の制度での対象者の殺害をする施行人を、俺にやれというものだった。


もしそれだけなら絶対に迷わず断っていただろう。







だが、この施行人をする期間は一年間。










報酬は破格の一億円。









俺はこの平凡な変わらない毎日と、一年間の殺戮生活と巨額の報酬の間で揺れていた。




もし俺がこの依頼を受けたら、俺は人殺しになる。仮にそれが社会の役に立たない人間だとしても、それを殺すことはその人の周囲の人々に少なからず影響を及ぼすことになる。




それは決していい意味ではなく。



だがこの俺の日常を変えてくれる、二度とないチャンスでもあった。


「人殺し・・」


そうだ、仮にこの依頼を受けたとして、俺は人を殺す事が出来るのだろうか。



俺は人の死体は爺さんの葬式の時以外見た事がない。ましてや、殺された死体なんてドラマか漫画の世界の話としか思っていなかった。



そんなものを俺が自分のこの手で・・・




正直、怖かった。


自分が人を殺す所を見るのが怖かった。






でも、このままだと何も変えられない。


俺の人生はこのまま朽ち果てるまで何も変わらない。




俺はその時そんな事しか考えなかった。



一度前を向き直ると、俺は再び書類の隅々まで目を通し始めた。











説明会

日時:10/28(土) 13:00〜

この書類がそのまま入場の際に使用されますので、必ず持参して下さい。




説明会の会場はすぐそばだった。


それも、小さな集会場。


「何で政府からの招集がこんな場所なんだよ・・・」




本当にとにかくボロい。

ただでさえ頭を狂わせる書類を送りつけておきながら、こんな場所に呼び出すなんて。




「・・・書類はお持ちですか?」


中にはいると、ボロ集会所には似合わないなかなかの美人が座っていた。



「あぁ、これですか?」


「はい。ではお預かりします。少々お待ちください。」



美人は、書類を持って奥の扉入って行った。



待てと言われていたので、しばらくボーッと立っていた。何も考えずに。


こんな風に何も考えずに無になれたのはいつ振りだろう。



まぁそれも一瞬だったが。




ガラガラっと音を立てて集会場のボロい扉が開かれた。



そこには同じ書類を持った一人の男。



同じ位の歳だろうか。黒縁のフレームの細いメガネをかけてスーツを着てきていた。


ここにきて気づいたが、俺は私服だった。俺は良く私服にセンスがないと言われる。今日もポロシャツ一枚にジーンズというお粗末な格好だった。



「あなたも、呼ばれたんですか?」

俺は黒縁眼鏡男に声を掛けた。



「えぇ、そうですよ。」



それ以降の会話は続かなかった。




「お待たせいたしました。書類は返却します。一番奥の部屋へ行ってください。」



俺は美人から書類を受け取ると、一番奥の小さな扉に向かって歩き出した。



本当に小さい扉だった。横には

「社会非貢献者削減制度 施行人説明会会場」

と書かれた小さな紙が貼ってあるだけ。


これだけ小さい集会場の中でも小さい。どんだけケチったのだろうと思い扉を開けた。


中には既に3人の人がいた。


一人は恐らく格闘技でもやっているのか、とてもガタイが良かった。身長はあまり変わらないものの、まともに戦ったら秒殺だろう。



一人は女だった。美人・・まぁ、さっきの受付嬢には敵わなかったものの、それなりに可愛かった。だが俺が入ってきて唯一振り向かなかった事を考えると、性格はキツそうだな。


最後の一人は、よくわからない。入ってきた俺をみるなり「ひっひっひ・・・」と笑い出す。髪はボサボサで、よくわからないデザインの上着を羽織っている。夏なのに。



俺が自分の名前の書かれた場所のパイプ椅子に座ると同時に、先程のドアが開き、黒縁眼鏡男が入ってきた。


男は入ってすぐに自分の椅子に座った。




しばらく沈黙が続いた。




すると、俺たちが入ってきた扉と反対側の扉から、小柄な男がさっきの受付嬢一緒に入ってきた。



男は一番前にあった椅子に座る。


「おまたせいたしました。今回のこの制度の責任者を務めさせていただく北条と申します。」


北条と名乗るその男は、淡々と話し出した。


「では、早速説明に入らせていただきます。送付させていただいた書類で大体の内容は

お伝え致しましたが、改めてご説明を。」


北条はあの時読んだ冊子に書いてあった事と同じ事を話し始めた。



40分ほど話し続けていただろうか。北条は

「説明は以上です。ご質問はございますか?」

と言った。


「俺たちが人殺しで捕まる事はないんだな?!」


そう叫んだのはガタイのいい男。



「えぇ、殺人罪などの罪には一切問われません。」


俺達施行人は対象者の殺害を実行しても罪には一切問われないらしい。



「要するに、私達は指定された対象者を殺せばいいの?」


そう訪ねたのはあの女。


「はい。それだけです。」


一定期間で渡される対象者の情報を元に殺害を実行するだけだった。


「何で俺たちなんじゃあ!?」


あの辺な男が尋ねる。



「あなた方はこちらでの抽選で選ばれました。」


ここがわからない。



抽選・・?



もしかして日本全国から・・・?



「岡本さん、貴方は何か質問ございますか?」


北条は俺に問いかけてきた。



「あ、あぁ・・・」




正直聞きたいことは山ほどあった。



だが、



「いや、おれはいいや・・・」


俺は躊躇ってしまった。



「わかりました。ではこれにて説明会を終了します。」



これでおしまい・・・?!

あまりにもはやすぎる。確かに、内容や注意すべき諸事項などは理解した。だが、もっとほかにやることが・・



「お渡しするものがありますので、こちらへどうぞ。」



北条はそういうと奥の扉を開いた。


俺たちは黒縁眼鏡、女、ガタイのいい男、俺、変なおっさんの順で続いて入った。




そこにあったのは人数分の大きなスーツケース。



「これは絶対に持ち帰るまで開けないでください。」



中に入っているものは用意に想像できた。




間違いない、殺すための武器だ。




黒縁眼鏡男はそのケースを黙って受け取ると、部屋から出て行った。どうやらもう帰るようだ。



続いて女も受け取り部屋を出た、




ガタイのいい男は、少しためらっているように見えたが、やはり前の二人と同じくスーツケースを受け取り出て行った。




俺の番。




スーツケースは想像通り重さだった。



これで自分が人を殺すのかと考えると改めて嫌な感じが走った。



ほかの奴らは持ち運ぶのに苦労している様子はなかったが、俺には重過ぎて何度か落としそうになりながらようやく入り口までたどり着いた。



と、着くと同時にさっきの変なおっさんに抜かされた。



「へっへーっ、遅えなぁ!」


見た目からは想像もつかない怪力の持ち主らしく、この思い荷物を方に担いで持って行くおっさんを見て何故か腹が立った。



「おっと、大丈夫ですか?」



後ろにいたのは北条だった。



「あぁ、俺は平気だ。」




「そうですか。ではお気をつけてお帰りください。」


不気味な笑みを浮かべる北条はそのまま奥の部屋に戻って行った。






帰宅すると同時に、俺はスーツケースの中身を確認した。




そこに入っていたのは間違いなく銃と、大量の弾丸。




俺は思わず後ろに仰け反り、玄関のドアに頭をぶつけた。が、痛みを感じている場合ではなかった。


「こんなものを使うのか?!」




俺は銃なんて使ったことがない。

いや使ったことがある方がおかしいけど。



「と、とにかくしまっておかなきゃ・・」




スーツケースを閉めようとしたその時、銃の裏側に何かの書類が入っているのが目についた。


俺はその書類を手に取り銃はそのままスーツケースを閉めて部屋の隅に置いた。




書類の表紙には何も書かれていない。



めくるとそこにあったのは、






一人の男の写真と、その男の事が事細かに書き記された紙。


金髪でピアスをしており、見るからにDQN。









それは、俺の最初のターゲットだった。







Episode1 END

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