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ホラー短編集

ホームグラウンド

作者: オツタロ
掲載日:2026/07/02

斎藤道夫45歳。

独身一人暮らし。若いころは自然と結婚できると思っていた。

周りが結婚し始めて婚活を始めたが誰とも長続きしなかった。


通勤途中高校生とすれ違う、男3人でがやがや話している。うるさい。

ファストフード店に行けば女子高生が席を占領している。じゃまだ。

端っこに空いてあったテーブルを見つけてそこにハンバーガーを食べる。


俺も若いころはこうではなかった。

こんな中年のおっさんになるのであれば努力して回避していただろう。

毎朝鏡に映る自分の顔を見て、誰だこいつ?と思う。


この日は残業をして遅くに会社を出た。

電車に乗ると時間帯が遅いせいか酔っぱらいが多いと思った。

空いている座席を見つけて座る。

同じ車両で大学生グループがぺちゃくちゃと大きな声で雑談をしている。

声とともに酒の匂いが漂ってきて気分が悪くなる。

いつから居酒屋に行かなくなったのだろうか。

20代の頃は上司に連れられていろんなお店に行かされた。

奢ってくれるわけでもなく割り勘か少し多く上司が出してくれる。

上司から仕事とは何か、人生とは何かの愚痴をずっと聞かされ、挙句の果てには仕事の指摘を受ける。

会社でも怒られて居酒屋でも怒られる。

同期との飲み会だけがあの時は楽しみだった。

30代になっても相変わらず上司からのやっかみは続く。

酔えない飲み会の帰り自宅で飲み直すことがだんだんと増えていった。

同期とは出世した人、退職する人がいて段々疎遠になっていった。

出世した同期との飲み会はマウント大会となり口を効くのも嫌になり誘いも断るようになった。

30代後半になるともっぱら自宅で飲むようになった。

居酒屋よりも安く飲めるので飲む量と頻度が増えて体型も変わってしまった。


大学生たちのへっこんだ腹、生き生きとした顔を見る。

電車の窓ガラスに映る自分の酒太りし垂れ下がった頬とは正反対だ。

窓ガラスを見るのも嫌になり手元のスマホに視線を落とし興味のないショート動画を延々と見ていた。


最寄り駅到着の車内アナウンスが流れる。

この歳になると意識しなくても体が動く。いつもの動作で電車を降りた。

そしていつもの順路を通り改札を抜けた。

「ここ・・・どこだ?」

思わず独り言が出てしまった。

いつもの駅前と違う、降りる出口を間違えるわけがない。

スマホを見ながら歩いていたがいつもの改札を通っている。

振り返り駅名が書かれた看板を見る。

街灯に照らされた駅名は自宅の最寄り駅のものではなかった。

隣駅で降りてしまった。

ため息が漏れた。

いつもと同じ時間に到着した電車はいつもよりも遅れていたのだ。

なぜ遅延していたのだろうかずっとスマホを見ていたので車内アナウンスが耳に入ってこなかった。

なら何の動画を見ていたのかと思ったが何を見ていたのかも覚えていない。

これならニュースの一つでも見ておいた方がアナウンスにも注意が向いてよかったかもしれない。


再び駅に入って隣駅まで電車に乗ろうか。

運賃は200円もかからない。

電車を待つのは駅のホームの椅子でいい。

電車が来たら乗ってたった一駅分乗れればいい。

酒臭い車内と能天気なやつらの顔を見るのか。

ため息が漏れる。


自分の腹を撫でる。

すっかりビール腹になっていた。

毎年健康診断で医者から運動するように言われている。

「歩くか。」


隣駅だが駅名を知っているくらいで実際に降りたのは初めてだった。

周辺に何があるのかも知らない。

スマホの地図アプリをタップする、地図上にGPSの青い点が表示された。

自宅の場所を確認して歩き出した。


一駅くらい平気だろう。

久々の運動だ。家に着くころには汗をかいているはず。

シャワーを浴びてビールを飲めばきっと旨いに違いない。

運動しているからビールの1,2本飲んでも十分カロリーは相殺できる。

最初は意気揚々と歩いていた。

休日でもコンビニに行くかコインランドリーに行くかくらいしか外出はしていない。

仕事の疲れが取れないのだから仕方ない。

寝て静養に努めなければならない。


最初の方は周りのお店を観たりして景色を楽しむ余裕があった。

しかしだんだんと足が痛くなってきた。

革靴で歩くのは無謀だったか。足取りが重たくなった。

ついには歩くことができずその場で立ち尽くしてしまった。

「タクシーでも呼ぶか。」

地図アプリをスワイプで閉じる。

タクシーアプリのアイコンをタップした。

近くにタクシーが見当たらない。

到着には10分はかかるようだ。とりあえず呼ぶことにした。


10分間どうやって時間を潰そうか。周りにコンビニはないようだ。

イライラしている自分がいる。

そんなとき懐かしい音が聞こえた。

昔遊んだ格闘ゲームのメロディだ。

あれは高校生の時だったか、学校帰り友達と一緒にゲームセンターで遊ぶのが楽しみだった。

音がする方向に歩き出した。

懐かしさを思い出したら足の痛みなど感じなくなっていた。


「コンボを決めて勝ったときは嬉しかったなー。

最高何連勝したっけ?

俺が強すぎてみんな最後は降参しちゃって仕方ないから違うゲームで遊んだっけ。

音ゲーも結構うまかったんだよな。」

当時の記憶が鮮明に思い出されていく。

最近のゲームセンターはUFOキャッチャーばかり多くて困る。

店内も明るく小学生くらいの子供も多い。

カップルや家族連れも珍しくない。

昔はよかった。

薄暗く、たばこの煙が宙を漂い、たばこ臭さが大人の雰囲気を醸し出していた。

格闘ゲームの順番待ちの列に並んで自分の番が来るのを待ったものだ。

両替機で1000円札を100円に替える。

1000円使ったら帰ろうって言って始めるが1000円使ったら追加で1000円を投入する。

あの時は楽しかった。

痩せていて、体も重たくなく。

軽快に動けることに何の疑問も持っていなかった。


あの頃に戻りたい。


音の発信源は小さなゲームセンターだった。

店内は薄暗くちらちらとゲーム画面の光が鈍く見えていた。

懐かしい。

昔のゲームセンターとはこういうものだった。

子供だと入りづらい大人の領域なのだ。

扉を開け店内に入った。


店内はいろんなゲームのBGMで音の洪水になっていた。

でもうるさくない。

これなら電車内でげらげら話していた大学生たちの方がよっぽどうるさい。

どれもこれも聞いたことがるBGMばかりで記憶が刺激されていく。


店内を一巡する、どれも遊んだことがある筐体ばかりだ。

俺は格闘ゲームが得意だった。

プレイされている台をプレイヤーの後ろから立って見る。

(俺ならもっと早く動ける。俺はこんなもんじゃない。)


店内には何人か会社帰りと思われる人がいる。

店内は薄暗くスーツを着ているのか顔も見えなければ服も黒くて判別がつかない。

意外と会社帰りのサラリーマンが多いのかもしれない。

チャラい大学生や高校生がいないのも好印象だ。

誰もかれもゲームに熱中しているか黙って店内に立っている。

自分も少し遊んで帰ろう。

タクシーを呼んでからまだ数分しか経っていない。

タクシー到着の連絡が来てから店を出ても間に合う。

途中で切り上げても1プレイ100円。

痛くもかゆくもない。

「喉が渇いたな。」

駅からここまで歩いてきた。

店内の冷房はいまいちな感じだ。むしろ熱いくらいか。

端にあった自販機の前にいく。

思わず息をのんだ。

当時よく飲んでいたドリンクが並んでいる。

社会人になりいつの間にかジュースは飲まなくなっていた。

ビールか水かそんな生活を送っていた。

ひさびさにジュースを飲んでみるのも悪くない。


当時高校生の時学校帰りによく飲んでいた炭酸ジュースのボタンを押した。

ガシャンとジュース缶が出てくる。

それを取り出してタブを開けて一息に飲んだ。

口と喉を刺激する炭酸が心地いい。

この感覚だ。ビールとも違う清涼感。自分が高校生に戻ったような気分だ。


気分がよくなりアーケードゲームを見て回った。

さっき誰かがプレイしていた台が空いている。

丸椅子に座り財布から100円を取り出す。

2プレイってところか。

それで切り上げよう。

太く手入れされていない手で100円玉を筐体のコイン口に投入した。


初戦は負けてしまった。

20数年ぶりなのだから仕方ない。

コンティニュー画面が表示される、

10カウントのうちに追加の100円玉を投入しないとゲームオーバーになる。

すぐさま100円玉を投入する。

次はあと少しと言うところでボタンを押し間違えた。

久々にプレイしたから技の入力コマンドを忘れてしまっていた。

またしてもコンティニー画面が表示される。

100円玉を投入した。

3戦目にしてやっと勝利した。波が来ている。

スマホを見てもまだタクシーは来ていない。

もう少し遊べる。

4戦目、5戦目と連勝していく。

当時の感覚が戻ってきたんだ。この波を逃してはいけない。

当時できなかった1プレイで全キャラクターに勝利してみるか。

タクシーはまた呼べばいい。

こんなに興奮したのはいつぶりだろうか高校生に戻れた感覚を失いたくなかった。



朝通勤する人たちが通りを歩いている。

生き生きした人、疲れ切っている人など様々な人が歩いている。

さびれた商店街の端に割れたガラス扉の店がある。

先週火事が発生し閉店したゲームセンター。

まだ整理がされておらず店内には一部が燃えた筐体がそのまま放置されていた。

当時店内には客がいて数名亡くなった。

地方のニュース番組と新聞で報道されただけだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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他にも作品を執筆していますので読んでいただければ幸いです。

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