第十三話 瀬戸際
――視界が、白く揺れた。
地面に崩れ落ちる感覚だけが、やけに遠い。
「……澄、乃ちゃん……?」
紗夜さんの声が、初めて迷いを帯びる。
振り返った彼女の瞳に映ったのは、敵ではなく――血に染まった“私”だった。
「……え……?」
刀を握る手が震え、紗夜さんは一歩、後ずさる。
「今の……私……?」
遅れて、結界が砕ける音がした。
霧のようにまとわりついていた幻覚が、風に払われるように消えていく。
荒い息とともに、結弦さんが駆け寄ってくる。
「紗夜!それは敵じゃない!最初から――澄乃だ!」
「っ……!」
紗夜さんの顔から、さっと血の気が引いた。
「うそ……私……」
膝をつき、刀を取り落とす。
「違う……こんなの……私は……!」
「……紗夜、さん……」
声を出すだけで、胸が痛む。
それでも、伝えたかった。
「大丈夫……です……紗夜さんは……悪く、ない……」
「喋るな!」
結弦さんが私を抱きとめ、素早く符を取り出す。
「まだ間に合う。結界を展開する、応急だが――命は繋ぐ!」
淡い光が、私と紗夜さんを包み込む。
紗夜さんは震える手で、私の服を掴んだ。
「……ごめん……澄乃ちゃん……ごめんなさい……!」
涙が、ぽたぽたと落ちる。
意識が遠のきながら、私は思う。
――よかった。
――ちゃんと、分かってもらえた。
―――――――――
どれくらいの間眠っていただろう。
気がつけば、紗夜さんの膝のうえで私は寝ていた。
「……澄乃!」
「……よかった……目、覚ました……」
結弦さんは結界を展開したまま、紗夜さんは涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
「……紗夜、さん……」
私が呼ぶと、彼女ははっと息を呑み、深く頭を下げた。
「……ごめんなさい。
私は……あなたを、本気で“敵”だと思って……」
「……うん。知ってます……」
自分が幻覚の魔法にかかって、ほかの人からは人ではない何かに見えていたことぐらい、わかっていた。
でも、仲間でも見抜けないほどの高度の結界だったとは……
ここで終わりです。もし好評であれば続けますが、フルリメイク版の方を楽しみにしていただけると幸いです。




