中学生ライフスタート!
月日は流れ、桜が風に吹かれてざわざわとせわしなく揺れる頃。
「お姉ちゃん!早くしないと!」
「ちょ、ちょっと待って…!」
鞘師家は朝からバタバタである。そう、今日は晴れて特別推薦枠での入学が決定した、私立星城女子学園の入学式。なのだが──。
「ごめん、母さん!ここってこの結び方でいいの?」
「ちょっと待ってね…。うん!だいたい良いんじゃないの?」
「もう!お姉ちゃんたら、ここ髪跳ねてる!クシ貸して!」
「ごめん、舞依華」
「あはは、ユキ姉も大変だ」
慣れないことばかりで一家は、ご覧の有様である。一方父はというと──。
「ごめん、ごめん。ちょっと仕事の関係の電話があって…。準備の方はどう?」
「今終わったよ。どうかな?」
星城女子の制服はさすが一流の名門ということもあって、かなり凝ったデザインのブレザーである。今の時代に合わせたようで、スカートかパンツスタイルかを選択できるというので僕は、スカートだと冬寒そうだなと思いパンツスタイルにしてみた。
「うん、よく似合っているよ」
「ありがと。父さんもカッコいいよ」
「娘の晴れ舞台だしね」
「はいはい二人とも!それくらいにして、そろそろ行かないと!」
そう言って一家は急いで車に乗り込み、新たな学校へと向かうのであった。
駐車場へ車を停めて少し歩くと、校門が見えてきた。
さすがは名門校といったところで、特に昨年改修され卒業生のデザイナーが手がけたという校門は、決して派手な装飾があるわけではない。しかし、石にきめ細かく彫られた花々や模様がそれを感じさせない造りで、思わず見惚れてしまった。
そんな凝ったデザインの校門は、新入生みんなの心を掴むようで、こぞって家族で写真を撮っていた。
「どうせなら、勇希奈も撮る?」
校門に見惚れていたのを察したのか、母がそう提案すると、僕は年相応の女の子のように大きく頷いた。
タイミングを見計らい、母と僕ら姉弟の四人が校門前に並ぶ。いざ撮ろうと父がカメラを構え、シャッターボタンを押した。
「うん。綺麗に取れたね」
「じゃあ、次は父さんだよ」
「父さんはいいよ。カメラ係で」
「いやいや、せっかくお姉ちゃんのために気合い入れて高いスーツ買ったんでしょ?撮りなさい!」
「そうよ!Limuでいちいちこれ変じゃないかな?とか送ってきてたくせに」
「もう。分かったよ」
そう言う父は照れくさそうながらも、どこか嬉しさを隠しきれないでいた。
パシャリと一枚撮った後、写真を確認していると僕のスマホに一件の通知が届く。
【やほー。今着いたんだけど、勇希奈どこおるー?】
お、どうやら万理華も着いたようだ。
僕は【やほ。校門前におるよ】と返信し、しばらくすると両親を引き連れた万理華がやってきた。
両親同士があいさつを交わし、世間話をしている一方で僕らは一足先に会場である体育館に向かうと告げてその場を離れた。
「やっぱり万理華はスカートが似合うね」
「だって可愛いもん。この制服に憧れて入学してくる子だっているんだから」
僕の選んだパンツスタイルとは違い、スカートの方はベージュのブレザーに胸元に薄ピンクのリボン。スカートはそれに合わせた薄い青色などがあしらわれたチェック柄で、僕から見ても可愛らしいデザインだった。
「それよりも、やっぱり勇希奈のパンツスタイルは様になるね」
「そうかな?スカートでも良かった気がするけど」
「似合いそうじゃん。けどさ、アンタは可愛いよりカッコいいの方が似合うよ」
男なら素直に嬉しかったかも知れないけど、今の場合は可愛いと言ってもらえた方がいいんじゃ?との考えもあって、正直複雑である。
それに──
「ねぇ。なんだか、みんなさっきから私たちの方をチラチラ見てる気がするんだけど」
体育館へ向かい、周囲に新入生の割合が多くなってくるにつれて、なんだか視線を感じることが多くなっている気がしたのだ。
「ばーか。私たちじゃない。みんなアンタを見てんのよ」
「え!?なんで?」
「アンタ本当に自分の容姿に興味ないのね」
実際本当に興味がないのだから、仕方がない。どこが、そんなに気を引くのだろうか。身長かな?百六十センチあるし。
「何変な顔してんのよ。ほら着いたわよ」
そんな考え事をしていると、気がつけば体育館に到着していた。
やはり私立だけあって、小学校の体育館の比にならないくらい大きい。しかも、これは第一体育館らしく全部でここも含めてあと二つもあるそうだ。
早速受け付けを済まそうと、僕らは体育館の入り口の列へと並ぼうとする。
そんな時、なんだか周囲の生徒がざわめきはじめた。なんだろうと僕たちも視線をざわめきの元へと目を向けた。
そこには僕と同じパンツスタイルの制服に、スラリとした体型。なによりその凛々しく非常に整った顔の生徒がこちらに向かって歩いてくる。
「ほぇー、すごいスタイル。勇希奈に負けず劣らずなんじゃない?」
「そんな、私なんて…」
「やぁ。僕のことでなんか用かな?」
ヒソヒソ話で話していると、突然向こうから話しかけてきて僕らは目を丸くした。
「ああ、ごめんごめん。君たちから熱い視線を感じたからつい。ね?」
「つい。ね?じゃないのよ」
全くである。この子が話しかけてきてから、周囲の視線が一気にこっちに集まってきて、正直落ち着かない。
すると、教員と思われる人に呼び出された彼女は、軽く手を振ってその場を後にする。
「助かったぁ…目立ちすぎだよ」
「そりゃ、アンタみたいな容姿の女の子が二人揃えば、そうなるわよ」
僕にもこんな感情があったんだなと思い知らされた一方で、あんまり経験はしたくないと感じた。
指定された席はクラスが違うこともあり、万理華と少し離れたところで、周りは知らない顔ばかり。心細い気持ちから、僕の目線は泳ぎっぱなしだ。
心ここにあらずで、僕の心中は早く開会してくれないかの一心だった。
そんな時体育館の照明が落ち、壇上にスポットライトが当てられ、とうとう開会の時間がやってきた。
壇上の片隅に一人の女性が現れ、マイクをトントンと軽く叩きマイクの音量を確認して口を開く。
「では、只今より第百回私立星城女子中等部の入学式を開会いたします。まずはじめに、学園長よりお言葉を貰います。」
司会の女性がそう言うと舞台袖から紺色のスーツを身に纏った、真っ白な白髪の年配の女性がゆっくりと出てきた。
その女性は、壇上のマイクから一歩引いたところで一礼してから、一歩前に出て口を開く。
「新入生の皆さん、はじめまして。そして、ようこそ星城女子へ。一部の方には面接でお会いしたかと思いますが、改めて。私は、この学園の第90代学園長の菊川義乃と申します」
実は僕も、学園長には面接で一度だけ会っている。学園長も含めた面接があると聞いた当時の僕は、内心かなり緊張していた。
いざ、面接会場の中にいた菊川学園長と顔を合わせると、不思議なことに僕の心にあった緊張は消えていた。
優しそうなのは勿論なんだけど、僕が落ち着けたのは、この人の声にある。
とにかく落ち着ける穏やかな声で、威圧感など微塵も感じさせない。おかげで面接の時はリラックスして臨むことができ、こうして合格がもらえたのかもしれないな。
「ここで多くは語りません。ただ、一つだけ。我が校の校訓【Per aspera ad astra】が表すように、苦難を乗り越えて星のように輝くことを願っています。私からは以上です」
あいさつが終わり学園長が一歩下がって一礼をすると、新入生から盛大な拍手が沸き起こり、僕もそれに合わせて拍手を贈る。
学園長が舞台袖へ姿を消すと、拍手は一斉に止み、再び司会の女性が切り出す。
「学園長、ありがとうございました。引き続きまして──」
その後も学園の関係者や県議員の挨拶などが続き、さすがの僕も少し飽きてきてしまった。
だって、みんな似たようなことばかりだし、長いんだもんなぁ。
「では最後に、新入生代表挨拶を行います。新入生代表、西川十百那さんお願いします」
「はい!」
うん?この声は…。
その声は、万理華以外唯一しっかり聞いた新入生の声であるため、聞き間違えるわけはない。
その声の主は壇上へと上がると、こちらに一礼をするために彼女は振り向いた。そして確信した。
そう、今朝僕らに話しかけてきた、あの女の子である。
壇上に上がりスポットライトに当てられた彼女は、さっき会った時よりも煌めいて見えて、僕には少し眩しかった。
舞台袖から再び出てきていた学園長の方に振り向いた彼女は、ポケットから紙を取り出して挨拶を述べた。
聞いていると、彼女も僕と同じ特別推薦枠での入学らしく、挨拶の言葉も優等生を感じさせる立派なものだ。
「──以上で私の新入生代表の挨拶とさせていただきます」
そう言って彼女が一礼をして締めると同時に、周りからは自然と拍手が沸き起こり、両端の先生たちに目をやると、うんうんと深く頷いていた。
こうして短いようで長く感じた入学式が終わり、それぞれのクラスへと新入生たちは向かいはじめる。
僕はすぐには向かわず、周囲をキョロキョロしていた。
そして万理華を見つけた途端、駆け出してしまっていて、そのまま抱きつこうとも思ったけど、気づいた万理華に止められた。
「ちょっと、なによ?」
「いや…ちょっとね」
「まさかとは思うけど、ちょっと離れただけよ?」
「だって、知らない顔ばかりだし」
自分でもここまで人見知りだったとは、夢にも思っておらず、大丈夫だろうと甘く見積もっていた自分を殴りたい気分だ。
「大丈夫よ。まぁ、視線は浴びるとは思うけど」
「それが嫌なんだよなぁ」
また注目を浴びるのかと気を重くし、渋々自分のクラスへと向かった。
ちなみに、僕のクラスはA〜Fの五クラスある内のA組だ。あと、特別推薦枠だからといってそれ専用のクラスがあるわけではなく、平等に振り分けられているとのことである。
A組の教室前に着いた僕は、ここは思い切ってさっさと入ってしまおう。
あぁ、もう!さっきからドキドキうるさいぞ、僕の心臓。
高鳴る心臓の音を鎮めようと、呼吸と整えて意を決してドアを開ける。
中の様子はというと、生徒の一部ではもう既に隣同士で軽く喋っているのが見られたが、何故だか僕が教室のドアを開けた瞬間、喋る口がピタリと止まって自分に視線が向けられた。
ここまで来たら引き返せない。平然を装い黒板に席順が張られていたので確認すると、僕の席はなんと、左の窓側の列から数えて三列目の一番前だ。
うぅ、一番前か…。よりにもよって皆んなの視線が集まりやすい席とは…。
席に座るなり、予想通りいきなり周囲の視線を感じる。けど、自分から声をかけられない僕は、ただ背筋を伸ばして真っ直ぐ前を見るしかなかった。固く握りしめられた手の中は、普段かかない手汗でびっしょりである。
心中穏やかではないなか、一人の女性が教室に入ってきた。
「えー、皆さん。始めまして。私がこのクラスの担任となりました、鵜川千恵です。よろしくお願いします」
僕らの担任となった鵜川先生は、若干ふくよかな体型のメガネを掛けた中年女性だ。自己紹介の印象だと、なんかお堅い人なのかな?
「コホン。じゃあ、堅苦しい挨拶はこれくらいにしてと」
そう言うと鵜川先生は、自分のネクタイを解きはじめ、スーツの上着を脱いで椅子に掛けた。
「いやぁ、やっぱりスーツは肩が凝っていやんなるわねぇ。スッキリした〜」
僕は最前列だから皆んなの表情を見れないけど、多分自分と一緒ので目を丸くしているだろう。
「よし!先生のことは後でいいとして、まずははい!席順の一番先頭の子と後ろの子立って!さぁ、じゃんけんよ」
鵜川先生の号令により、指名された生徒二人が立ち上がってじゃんけんをした結果、一番後ろの子が負けた。
「じゃあ、勝った一番先頭の…相川さん。自己紹介は後と先どっちがいい?」
まぁ、そんなことだろうと思ったよ。僕は別に真ん中あたりだから、どっちにしろ順番は変わらないな。
先頭の相川さんは、最後の締めが自分になるのが嫌との事で、彼女がトップバッターを務めるのが決定した。
そうして順番に各個人の自己紹介が始まり、簡単に済ませる人もいれば、ふざけたりや真面目に答える人もいたりと、その人の個性が存分に出ていて、聞いている分にはかなり面白い。
【さてと、そろそろ自分の番が回ってくる頃か。まずは名前を言って…あとは、何を言えばいいだろうか。うーん──】
「…さん?鞘師さん?」
「っ!?はい!」
何を言おうか考えるのに夢中になっていた僕は、あっという間に回ってきた順番に気が付かず、慌てて出た返事の声は裏返っていた。
【どうする。まだ何を言おうか考えがまとまってないぞ】
色んな思考が頭の中を駆け巡る中、とりあえず挨拶だけはちゃんとしようと、皆んなの方に振り向く。
ゆっくりと顔を上げると、最前列ということもあってクラスの皆んなの顔がよく見える。
そこで僕は、あることに気がついた。
【僕より後の子も緊張してる…。僕だけじゃないんだ】
自分だけじゃない。皆んな同じなんだ。そう思えただけで、手のひらの手汗はいつの間にか引いていた。
ゆっくり息を吸い、いざ口を開く。
「はじめまして!私は春日小学校から来ました、鞘師勇希奈です。いろいろ考えましたが、とりあえずこれだけ。私は、早く皆んなと仲良くなりたいです!色んなことをやって、様々な思い出をつくりたいです。なので、私からもどんどん話しかけもいいですか?もっと、皆んなのことを知りたいので!よろしくお願いします」
自己紹介を終えて軽く一礼をした僕の耳には、拍手の音が届いていた。
皆んなの自己紹介が終わると同時にチャイムが鳴り、今日の学校は終わる。授業は明日からだそうだ。
鵜川先生が気だるそうに教室を後にし、僕も帰ろうとした時。
「ねぇねぇ鞘師さん!鞘師さんって趣味とかあるの?」
「あーズルい!私も聞きたいことあんのに!」
「それを言うなら私もなんだけど!」
「ねぇ、髪すごいサラサラだけど、どこのヤツ使ってる?」
僕は一瞬にして十人以上のクラスメイトに囲まれ、質問攻めが始まった。
予想外の展開に少し困惑しつつも、興味津々の皆んなの顔を見て、段々と嬉しさが増していく。
落ち着いてと言い、順番に質問に答えようとしたその時だった──。
ダン!と教室のドアが勢いよく開き、そこにいたのは───。
今回もお手に取っていただき、ありがとうございました。書きたいことが多くて長くなってしまいましたが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
今回新キャラで西川が出てきましたが、下の名前読むの難しいですよね?一応、十百那と読みます。なんだか三文字縛りしてるのかな?ってレベルですが、偶然です。
あと、更新についてですが、できたら随時更新としていこうと思っております。
次回も楽しんでもらえたら、嬉しいです。




