5. 拒絶できないひとみ
就職活動と卒業プロジェクトの真っ最中に、
美女との距離感や心理的葛藤を経験する日常の一幕を描いています。
大学4年生。
就職活動と卒業プロジェクトが真っ只中。
3年以上続いた機械工学科での生活も、
最後の章がまさに始まろうとしていた。
机の上にはプロジェクト計画書、
モニターには論文資料。
社会という重たい現実が、静かに、しかし確実に
一歩一歩近づいてきていた。
そんな不安の中、まるで子犬のように、
どこからか「くんくん—」
……そんな音が聞こえた気がした。
机上の鏡越しに見えた彼女は、
鼻をぴくりと動かすと、目より先に体が動き、
口にフレンチトーストをくわえていた。
半分閉じた瞳、
頬いっぱいにパンを詰めた様子。
大きな体とは正反対で、まるでハムスターのようだった。
**もぐ。もぐ。もぐ。もぐ。**
その平和な一瞬に——
思わず、微笑みがこぼれた。
朝食を食べ終えた後、
私は視線と態度でそろそろ「出て行ってください」という
無言のサインを送った。
しかし——
彼女は首をかしげ、
全く状況を察していない表情。
『あ…もう無理だ。
女は本当に嫌だ…怖い…つらい…
もう無理無理無理。頼むから出て行ってくれ…』
私は彼女のキャリーケースの持ち手をつかんだ。
片手にキャリーケース、もう片方の手で彼女のTシャツを。
彼女は慌てて声を上げた。
「な、なんで…?」
「もういい加減、出て行ってください。」
私は冷たく、そして断固として告げた。
「……や、やだ!!」
私はキャリーケースを引っ張った。
だが——
全く動かない。
「え…?」
見れば、彼女はキャリーケースを抱きしめ、しがみついていた。
背も高く、意外と体力もありそうだった。
私は少しずつ力を強めて引っ張った。
互いの間に漂う張り詰めた空気。
最近の私は貧しい食生活で体力も落ち、
心も弱っている。
力では敵わなかった。
私が引っ張ったせいで、
彼女の腕には赤い跡が残った。
Tシャツは下にずるずる伸び、
胸の谷間がほとんど見えるほど。
髪は乱れて顔に半分かかり、
荒い息とともに目元は今にも涙がこぼれそうに赤く染まっていた。
誰が見ても、
まるで自分の家に住んでいる女を追い出す
悪い男にしか見えないだろう。
……ここ、俺の家なんだけど。
彼女がそっと口を開いた。
ふう……
私は深くため息をつき、彼女を見た。
「ほん…ほんとに…ダメですか…?」
その一言と同時に、運命のように、
朝日に照らされた彼女の顔がくっきりと映った。
少女のようなあどけない魅力、
赤くなった目元、
か細く、力なく揺れる瞳。
捨てられた子猫のような表情。
どこか、泣き声を含んだ空気が漂ってきた気がした。
息が詰まる。
思考が止まる。
ああ、これ…そういうやつだ。
「すぅ…はぁ…はぁ…」
私は言葉もなく、ため息をついた。
声が出なかった。
そして、その数分——いや、
数十秒の間に、頭の中を数えきれない考えが駆け巡った。
- これ、もしかして罠じゃないか?
- 最近流行ってる美人系詐欺か?
- 暗殺者か?
- 俺、敵なんていたっけ?
- そもそも…こんなふうに他人に頼って生きてる女なのか?
不安は増すばかり。
- まさか、俺を密かに好きでついてきた…?
- …いや、この俺の見た目じゃ無理だ。
- じゃあ、なんだ? 何なんだ一体…
思考が思考を覆い、
感情が追いつけないほど、
全てが絡まり合っていった。
美女の無防備さと愛らしさに、
主人公が圧倒され、混乱する心理を描きました。
主人公の思考と感情の絡まりが、
読者にも伝わるよう意識しています。
次回は、主人公がこの状況をどう整理し、
日常を取り戻すかが見どころです。
ぜひご期待ください。