1.スーツケースと一緒にやってきた超絶頂の美女
今回は1話から5話まで一気に公開しました。
# 1. キャリーケースと共に現れた超絶美人
月も見えない漆黒の夜。
大学街の下宿通りは、やけに静かで暗かった。
街灯はすべて消え、窓の明かりも途絶え、息をひそめている。
──少なくとも、見た目だけは。
「はぁあん…… もっと、もっと……」
「っ…… 静かにしろって言っただろ。」
壁越し、開いた窓から聞こえてくる、大学街特有の繁殖音。
「……気持ち悪っ。」
俺はステッカーパンの袋を手に、路地へ足を踏み入れた。
今日もバカみたいに“ゲーム限定コラボ”に釣られ、隣町まで足を運んできたばかりだ。
「愛を込めました」なんて怪しいキャッチコピーに引っかかったのは、間違いなく俺のミスだが──
口の中に広がるやわらかなクリームの味は、思った以上に満足感があった。
だから文句は飲み込み、もう一口。
そして──
「……なんだ、あれ。」
二階の階段を上がると、自分の部屋の前に妙な無彩色のキャリーケースが置かれていた。
大人よりもはるかに大きく、無骨な形。
誰かが間違えて置いたのかと近づこうとした、その時──
キャリーケースの横に、黒い毛玉のようなものがしゃがみ込んでいるのが目に入った。
いや、正確には……髪だった。
不自然なほど艶やかな長い髪。
うつむいたまま、膝を抱えてうずくまっている女。
「……ひっく……ひっく……」
小さなすすり泣き。
その泣き声に注意を払いながら、そっと様子をうかがう。
すると、髪の隙間からかすかに覗く瞳が、こちらを見上げた。
暗闇の中、一瞬だけ鋭く光る黒い瞳。
「ひぃぃぃっ!!!」
俺は反射的に後ずさった。
心臓がドクンと跳ね、クリームパンの袋が地面に落ちた。
そしてその瞬間。
「あっ──!」
その黒い毛玉……いや、彼女が突然立ち上がり、こちらへ駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待て!! な、なんだこれ!?」
後ずさるも、遅かった。
彼女は静かに、だが確実に一歩で距離を詰め──
何も言わずに、俺に抱きついてきた。
──ぽすっ。
予想よりはるかに、大きくて暖かい何かが私の体を包んだ。
全身を覆うような手触り。
まるで柔らかくて弾力のあるクリームパン2枚が同時に飛び込んだ気分だった。
冷たい夜気の中で感じる、圧倒的な体温と確かなぬくもり。
俺は息を呑んだ。
鼻先をかすめたのは、ほのかなシャンプーの香りと、どこか懐かしい春の日差しの匂い。
近くで見ると—
彼女は太ももが見える短いジーンズを履いていて、
自分の強い体を包みきれず悲鳴を上げる白いノースリーブ越しに
豊満な曲線がくっきりと現れた。
その上にかけたオーバーサイズのワイシャツは片方の肩が垂れ下がっていて、
ピンク色の足首に足には端正なチェック柄のスニーカーが自然に似合う。
彼女は俺に抱きついたまま、ゆっくりと顔を近づけてきた。
長く垂れた黒髪の隙間から──
夜よりも深い瞳。
わずかに腫れたまつ毛の下には、澄んだ涙が溜まっていた。
「……家出してきました……泊めてください……」
やわらかな声とともに、その涙が暗闇の中できらめく。
その瞬間、俺は息が止まるような感覚に襲われた。
純粋さと大人らしさ、子供の不安と大人の断固とした態度が一つになった顔だった。
鼻先に染み込んだシャンプーの香りと共に、彼女の真夜中に咲く花のような美貌は、
平凡な俺を十分に気後れさせた。
まるできらびやかな春の月明かりの下で咲いた一輪の花のように、
そして、その花が静かに、私に手を差し伸べるようだった。
触れ合っている柔らかな感触で、ようやく我に返った。
その中にある“何か”が、あまりにも大きすぎて──
俺は何も言えなかった。
よく見ると、背が高い。
かなり高い。
175cmの俺とほぼ同じ目線。
……近くで見ると、他のものも大きい。
視界が彼女でいっぱいになる感覚だ。
感情も、体温も、存在感も。
これは一体夢なのですか、神さまよ。どうか……
また試練ですか……。
「や、やめろ! 近寄るな!」
俺は彼女を押し離すようにして、素早く玄関のドアを開けて中へ入った。
閉めようとした瞬間、何かがドアを止めた。
──コツン。
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