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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

孤影

作者: motimoti
掲載日:2025/07/14

長いです。

6月の梅雨、しとしと降る雨が村を包んでいた。

さやかは学校帰り、濡れた道を急いでいた。

川のほとりで、かすかな声が雨音に混じって聞こえた。


怖いけど、気になって声のする方へ近づくさやか。

水面には白い服の女の人が浮かんでいた。顔は濡れて見えづらいが、確かに人間だった。


「テ…ケテ…ケテ…タス…ケテ…!」


無意識にさやかは手を伸ばし、その女の手を掴んだ。

すると、女の目が突然ぱっと開き、真っ黒な瞳がさやかをじっと見つめた。


「ありがとう…ずっと、ひとりぼっちだったの…」


その瞬間、女の手が氷のように冷たく、鋭い爪がさやかの腕を深くえぐった。

「もう、離さない…一緒にここで永遠に…」


さやかは必死に振りほどこうとしたが、女の力は異常に強かった。


だけれど、必死に抵抗してなんとか水面から這い上がった。

体は冷えきって震え、心臓はバクバク鳴っていたけど、命は助かったのだ。


しかし、それから村では恐ろしいことが次々起きた。


さやかの親友のゆうこ、近所のおじいさん、学校の先生…。

雨が降るたびに誰かが姿を消し、二度と戻らなくなった。


そのたびに、川のほとりからは「助けて」という声が大きくなっていった。

その声はどこかさやかに語りかけるようで、彼女は夜な夜な眠れなくなった。


「あなたも、来ない?」


でもさやかは逃げ続けた。必死に自分を奮い立たせて。


それでも、村に残る人は日に日に減っていき、最後にはさやか一人だけになった。


寂しさと恐怖が入り混じる中、彼女は毎晩川のほとりで雨音に耳を澄ませる。


「助けて…助けて…」


その声はもう、誰のものかわからないほど増え続けている。

さやかは分かっている。あの女の幽霊がこの村の魂を永遠に閉じ込めていること。


そして、いつか自分もその声の一部になる日が来るのだと。


でも今はまだ、生きている。

ただ、毎晩雨の音に怯えながら…。


さやかはもう限界だった。雨の音が鳴り響くたびに震え、幽霊の声が頭の中で囁き続ける。

「助けて…一緒に来て…」


決心して、彼女は村を飛び出した。隣の村まで行き、誰かに助けを求めようとしたのだ。


しかし、隣村の人々は彼女の話を聞くと眉をひそめ、笑いながらこう言った。

「そんな怖い話は子どもの妄想だ。もう帰ったほうがいい」


次に警察に行っても、さやかの話は「精神的に不安定な者の妄想」と片付けられ、診察を受けるように強要された。

連れて行かれた精神病院の白い壁の中で、さやかは声を上げて助けを求めても誰にも届かないことを知った。


看護師は無表情に「ここで落ち着きなさい」と言い、薬を無理やり飲ませた。

窓の外には自由な世界があるのに、さやかは一人、幽霊の声と自分の絶望だけを相手に、ただ日々を過ごすしかなかった。


あの川のほとりで聞こえた「助けて」という声は、今ではさやか自身の叫びに変わっていた。

だが、その声は誰にも届かず、誰も彼女を救いに来なかった。


そして、幽霊の影は、まだどこかで微笑んでいるのだった。


精神病院に閉じ込められてからのさやかは、毎日が地獄のようだった。薬の副作用で体はだるく、頭はぼんやりとしているのに、幽霊の声は頭の中で止むことなく響き続けた。


看護師たちは無表情で冷たく、さやかがどれほど苦しんでいても見て見ぬふり。声を上げれば「静かにしなさい」と一喝され、他の患者たちからも距離を置かれ、孤立は深まるばかり。


ある日、さやかは窓際の椅子に座って外の世界を見つめていた。雨が降り続く灰色の空の下、村のことを思い出す。


「助けて…助けて…」


その声はもう幽霊だけのものではなく、さやか自身の心の叫びになっていた。


しかし、病院の中では誰も彼女の声に耳を傾けない。


自分がここにいることすら忘れられ、まるで透明人間のように扱われる日々。


幽霊の影は彼女の肩に重くのしかかり、体は冷たく、心はずっと凍りついたままだ。


生きているのに、誰にも存在を認められず、助けも救いもない世界。


そのまま、さやかは幽霊の声と共に生き続けていく。


白い壁に囲まれた狭い部屋の中、さやかの叫びは無情にも空間に吸い込まれた。声が届くのは自分だけで、外の世界は冷たく閉ざされていた。


看護師は無表情のまま薬を手渡し、無理やり口に押し込んだ。薬の苦味が喉を焼き、意識が朦朧としていく。

「静かにしなさい」と一喝されたその言葉は、まるで彼女の存在そのものを否定するかのようだった。


廊下を行き交う職員たちは、さやかを「問題児」と呼び、話しかける者もいなかった。ある日、同じ病室の患者が声を上げると、職員が乱暴に押さえつけていた。


「あんたみたいなやつは、この病院に来る資格なんてない」


そう囁くように聞こえたその言葉は、さやかの胸に深く刺さった。


ある晩、隣の部屋から聞こえた患者の叫び声に誰も駆けつけなかった。数日後、その患者は誰にも知られずに亡くなっていた。職員は口を閉ざし、家族には「自然死」と説明した。


さやかは自分もいつか、誰にも気づかれず消えてしまうのだろうかと恐怖に震えた。


外の空気を吸うことも叶わず、見るのは白い天井だけ。窓の外の雨音は、あの幽霊の声と重なって頭の中で鳴り響いた。


何度も助けを求めたが、その声は冷たく無視され続けた。やがて、さやかは口を閉ざすしかなかった。


彼女の苦しみは誰にも届かず、精神病院はただの無慈悲な牢獄となった。

裂けた地面から無数の手が蠢きながら伸びてくるたび、さやかの叫び声は雨音にかき消された。冷たい粘液が肌にまとわりつき、手は強引に彼女の足首を掴み、まるで魂ごと引きずり込もうとするかのようだった。


「離せ…やめて…!」必死に振りほどこうとするさやかの目の前で、手の持ち主である白い服の女は、にたりと不気味な笑みを浮かべた。


その顔は、蝋のように溶けているだけでなく、ひび割れた肌から黒い煙がほのかに漏れていた。口元からは泡のような黒い糸が垂れ、彼女の叫びはすべてこの女の咆哮に飲み込まれていく。


女の声は耳を切り裂くように響いた。

「おまえは、ここに戻らなければならない。ここがおまえの居場所だ。」


震えるさやかの視界が揺れ、村全体がぐにゃりと歪み、空は厚く垂れ込めた黒い霧に覆われた。遠くから聞こえてくるのは、かつて聞いたことのない獣の咆哮と、人間の悲鳴が入り混じった異様な音色。


やがて地面が再び裂け、その裂け目からは無数の、見る者の心を腐らせるような目玉が彼女をじっと見つめていた。


「帰れ、さやか…帰れ…」村人たちの唸り声が波のように押し寄せ、耳を塞ぎたくなるほどの絶望感がさやかの胸を締めつける。


身体は思うように動かず、まるで何かに魂を吸い取られていくようだった。逃げ場はなく、自由を手に入れたと思ったその刹那、彼女は恐怖の淵へと深く沈み込んでいった。


そこにあったのは、もう二度と戻れない地獄の入り口だった。


Fin.

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