9話「壊れゆくものもあるものです」
別の日。
夜中にふと目覚めてしまったルーインは涙をこぼす。
「ままぁ、ぱぱぁ、ぼく寂しいよぉ……寂しいよぉ……ぼくは悪くないんだよぉ、ままぁぱぱぁ分かってよぉ……ぼくはぁ……はめられただけなんだ、魔女に……悪いのは魔女なんだよぉ……ぼくは悪いことなんて何もしていないんだぁ……ままとぱぱなら分かってくれるよね……ねぇ……ぼく、寂しいよぉ……ここでも虐められているし、きっとあれも魔女の仕業なんだと思う……魔女のせいでぼくは人生を破壊されてしまっているんだよぅ……ままぁ……ぱぱぁ……助けてよぉ……早く、迎えに来て、一緒に帰ろうって言ってよぉ……」
若干幼児退行してしまっているルーインである。
だがそれには理由があった。
というのも、昨日両親が牢屋に入れられているルーインに会いに来たのだが、両親はそこでルーインを勘当するという決定を告げたのであった。
本来最後まで味方でいてくれるはずの両親からも見捨てられた彼は、真の意味で独りぼっちになってしまった。
それで、こんな感じになってしまっているのだ。
「ままぁ、ぱぱぁ、ままぁ、ぱぱぁ、迎えに来てよぉ……ままぁ、ぱぱぁ、ままぁ、ぱぱぁ、会いたいよぉ……ぼく独りで寂しいよぉ……助けてよぅ……ままぁ、ぱぱぁ、ままぁ、ぱぱぁ、ままぁ、ぱぱぁ、ままぁ、ぱぱぁ、会いたいよぉ……ぼくずっと独りぼっちでぇ……凄く寂しいし辛いんだぁ……助けてほしいんだぁ……放置しないでよぉ……お願いだからぁ……助けてよぉ……ぼく、今、孤独で胸が破れて大量出血してしまいそうなんだぁ……泣きたいよぉ……会いたいよぉ、ままぁ、ぱぱぁ、お願いだからぁ……会わせてよぉ……ままぁ、ぱぱぁ、ままぁ、ぱぱぁ、どこぉ……どこにいるのぉ……」
返事はない。
だがそれは当然のことだ。
彼がいるのは牢屋の中、生まれ育った家ではない。
ゆえに父も母も会いに来てはくれないし助けに来てもくれない。
「ままぁ……ぱぱぁ……会いたいよぉ……ぼく、独りぼっちだしぃ……怖い人たちから虐められてるんだよぉ……辛いんだよぉ……ううう、ままとぱぱに早く会いたいよぉ……会わせてよぉ……うっ、うっ、ううっ、早くぅ……迎えに来て、抱き締めてよぉ……頑張ったねって言ってほしいんだぁ……言ってほしいんだぁ……よぉ……もう壊れてしまいそうだよぉ……ままぁ、ぱぱぁ、会いたいよぉ寂しいよぉ会いたくて消えてしまいそうだよぉ……」
ここでのルーインに味方は一人もいない。
だがこれまで散々他者に迷惑をかけ傷つけてきたのだから自業自得なのだ。
孤独に耐えること。
孤独に生きること。
それが償いの第一歩だ。
――それから数ヶ月が過ぎて。
「僕は一人僕は一人いや僕は独り……ずっと孤独で誰からも愛されず愛されず独りぼっちで牢屋……いなくてはならないなんて理不尽……」
今、ルーインは、寝たきりになってしまっている。
「全部悪いのはオリヴィエ罪があるのはオリヴィエ悪いことしてるのはオリヴィエ僕じゃないオリヴィエ悪女なのはオリヴィエ罪を多く犯しているのはオリヴィエ僕をはめてこんな風にしたのもオリヴィエ僕を傷つけたのはオリヴィエ僕をここへ追いやって嗤っているのはオリヴィエすべての悪を生んだのはオリヴィエ」
もはや意思疎通はできない状態になってしまっている。
彼は常に何かしら言葉を発し続けてはいる。
だがそれは誰かと会話というキャッチボールをするためのものではない。
壊れたおもちゃのようなものだ。
まともな意味を持つかどうかさえ定かでないような言葉を並べているだけなのである。
「悪いのはオリヴィエ悪かったのはオリヴィエ今も悪いオリヴィエこの先もずっと悪いことをするのはオリヴィエ僕を傷つけたのはオリヴィエ僕を痛めつけているのもオリヴィエ僕に罪をなすりつけたオリヴィエ僕を悪であると皆を騙しているオリヴィエ大悪人オリヴィエ悪魔の手先はオリヴィエ悪魔の血を引いている魔女オリヴィエ魔女は滅さなくてはならないんだオリヴィエをいつか必ず……オリヴィエは悪、オリヴィエは罪、オリヴィエは魔女、オリヴィエは魔神、世界に不幸をもたらす……悪いんだあの女はオリヴィエ悪すぎる女オリヴィエ悪女オリヴィエ悪しき女オリヴィエ悪しき魔女オリヴィエ穢れ多いんだオリヴィエは」
誰が見ても分かるほどにルーインの心は壊れてしまった。
きっともう正常には戻らないだろう。




