7話「勇気を出すことは大切ですね」
元婚約者の前へいきなり現れ、魔女だなんだと侮辱したうえ、相手が嫌がっているにもかかわらず腕を強く掴む――そのようなことを行ったルーインは警備隊に拘束された。
フリッツの手から警備隊へと身柄を渡される時、ルーインは「その女は魔女だ! 止めるべきはそこの女だ! そいつは騙されている! 騙されて魔女に協力しているのだろう! ゆえに僕は悪ではない! 悪ではない! いや、悪ではないのではなくて、正義だ! 僕こそが正義であり僕こそが正しい!」などと叫んでいたけれど、誰にも相手にされていなかった。
……と、そんなことはどうでもいいが。
私一人ではそこへは持ち込めなかっただろう。あの時、フリッツが間に入ってくれていなかったとしたら、ルーインを止めることはできなかったと思う。もちろん、警備隊に突き出すなんてことも不可能だったに違いない。すべてフリッツの協力のおかげである。
「フリッツ、この前はありがとう」
「いえいえ!」
「あの時、貴方がいてくれなかったら……どうなっていたか分からないわ」
「力になれたなら良かったですっ」
はにかみ笑いするフリッツを見ていたら自然とほっこりしてしまう。
彼には不思議な力がある。
見ているだけで和むのだ。
きっと本人は少しも気づいていないのだろうけど、そういうところが彼の魅力的なところなのだ。
……なんて言ったらまるで彼に恋でもしているかのようで恥ずかしいが。
「そういえば、あれからあの変な郵便物届いてないですね」
「ええ」
「拘束されてるとさすがに毎日送ったりはできないんですかねー」
「そうみたいね」
ルーインから毎日送られてきていた呪いの手紙的な怪文書はあれ以来届いていない。
「取り敢えず、一旦落ち着いて、良かったですね!」
「ほんとそうだわ。毎日毎日あんなの送られてきたらさすがに、ちょっと、はぁーってなるわね」
「あー、確かに。そういうことされると、溜め息の一つもつきたくなりますよね」
「そうなのよ! 気にしないように努力はしていたけれど。でも、やっぱり、届くたび溜め息が出てしまうわ」
少し間が生まれた。
「ところでフリッツ、ちょっといい?」
良いタイミングではないか、と思い。
「あ、はいっ、何でしょ」
「もしよければなんだけど……今度お茶でもしない?」
誘ってみることに。
「え」
「お礼がしたくて」
断られるかもしれない、というのは、怖いことではある。だがその時はその時だ。言いたいことを言えず後悔するくらいなら、言って後悔するほうがずっとましだと思うから。だから思いきって言ってみた。
不安も、怖さも、踏み越えて勇気を絞り出す。
「嫌だったらもちろん断ってもらって構わないわ」
「いいんですか!?」
想定外の返事。
前向きな。
思わずこちらが「えっ」とこぼしそうになってしまった。
「いやぁ、お誘い嬉しいです! ありがとうございまっす!」
「そ、そう」
「あれ? どうしました? 変なこと言ってしまってます?」
「いえ……その、ちょっと……意外で……」
ああ、どうして、こんな風に接してしまうのだろう。
嬉しいなら素直に喜べばいいのに。
それが上手くできない。
「もしかして社交辞令!? でした!? あ、や、もしそうだったらすみませんっ。勝手に解釈して、喜んで、申し訳ないですー……」
フリッツをしゅんとさせてしまい罪悪感。
「違うの、そうじゃなくて!」
「ではやはり誘ってくださってたんですか?」
「そうなの! そう! 本心よ!」
想像以上に大きな声が出てしまって、恥ずかしい思いをすることとなってしまった。
「ごめんなさい……大きな声を出してしまって……」
こうしてフリッツとお茶の約束ができたのだった。
途中色々恥ずかしい感情も湧いたけれど勇気を出して誘ってみたことを悔いてはいない――むしろ、言ってみて良かった、と純粋に思えている。




