6話「ただ話せるだけで良いのです」
あれからもフリッツとの関係は良好だ。
私たちは毎日のように言葉を交わす。
束の間の楽しい時間。
一回あたりはそれほど長い時間でないこともあるけれど、それでも、回数が多いので確かに記憶に残る時間となっている。
「最近ちょっと暑い日も増えてきましたねー」
「ええ」
「体調とか大丈夫です?」
「家の中はそれほど暑くならないの」
「そりゃいいですね!」
季節に関することというのも話題としてよく出てくるものだ。
それはきっと相手が誰であっても使いやすい話題だからだろう。
「郵便配達、大変じゃない? 真夏とか」
「そうですねー。今はまだ何とか耐えですけど、めちゃ暑い日とか汗かきまくりですよー」
そんな当たり障りのない話題を提供されることが多い。
まだそんなに親しいとは思われていないのかもしれない。
でもそれでも構わない。
話は何でもいいのだ。
こうして喋っていられるだけで十分。
それ以上なんて求めるつもりはない。
「汗は鬱陶しいわよね」
「ま、何年もやってるんで慣れてるんですけどねっ」
「慣れって凄いわね……」
「あはは! 最初はもうめちゃくちゃ不快でした」
「そうでしょうね」
フリッツは太陽のような人だと思う。
こうして向かい合っているだけで眩しいほどに私の心を照らしてくれる。
きっと生まれ持ったものなのだろうな、なんて思いつつ、いつも喋っている。
「オリヴィエさんは暑いのお嫌いなんですー?」
「まぁそうね。暑すぎるのは苦手よ。だって、変に汗をかいたら肌が痒くなるし」
「そりゃ辛いですね」
「フリッツは? 暑いのと寒いのとどっちが苦手派?」
「うーん……どちらかというと寒いのですかねー。でも、どっちも辛いですよ。仕事柄。外を走り回りますからね。もう一年中ほどよく心地よい気候であってほしいってのが本音ですよー」
――その時。
「お前! こんなところにいたのか!」
突然叫ばれる。
驚いて声がした方へ目をやると、そこにはルーインが立っていた。
「しかも男といるとは! やはり魔女だな!」
ルーインはつかつかとこちらへ向かってくる。
フリッツは言葉を失っていた。
「オリヴィエ、お前、まだ生きているのか」
「……意味が分かりません」
「死の呪文をあれほど送ったというのに! まだ生きているとは、やはり人間ではないな! 魔女か!? 悪魔の手下か!?」
相変わらず意味不明だ。
だがフリッツと一緒にいる時に現れてほしくはなかった。
だって印象が悪いじゃない……。
「ニーサの術が効かないとはな」
「何のお話ですか」
「魔女はなかなか手ごわい」
「もう他人になったはずですが」
するとルーインは急に手首を掴んでくる。
「魔女は僕が仕留める!!」
嘘みたいな強い力で掴まれて、思わず「痛いです! やめて!」と大きな声を出してしまう。
「ニーサの術が効かないなら僕が! 僕がこの手で! そして平和になった世界でニーサと共に過ごすんだ!」
何とか逃れようと抵抗するが腕力で負けているのでどうしようもない――諦めかけた、その時。
「ちょっと、何してるんすか」
ルーインの右肩にフリッツが手をかけた。
みしみしと音が鳴る。
「やめてって言ってるじゃないですか」
「は?」
「その手、離すべきですよ」
「何だお前」
「手を離せって言ってるんです。問題行為ですよ、暴力です」
それでもまだ手首を掴んだままのルーイン。
――次の瞬間。
「ぎゃあ!」
フリッツによって、その身体は地面に叩きつけられていた。
何が起こったのかすぐには分からなかった。
だがどうやらフリッツが投げ技をかけたようだ。
「通報しますんで」




