5話「嫌がらせは完全に無視しておきましょう」
謎の呪文のようなものが大量に書かれたルーインからの手紙はあれからもずっと届く。
しかもたまにではない。
それは毎日のようにポストに投函されているのだ。
一度二度ならそれほど気にはならないが、そういった奇行がこんなにも続くと、さすがに少々不気味さを感じずにはいられないものである。
とはいえ今さらまともに相手をする気はない。
――ということで、そんな変な人は放っておこう。
話は変わるが。
最近私には仲良くしている異性がいる。
「おはようございまっす!」
郵便物をいつも家に届けてくれる青年フリッツである。
彼は郵便屋さんだが、それはあくまで隙間時間にしている仕事で、彼の実家はお金持ちである。
「おはよう、今日もありがとう」
「いえいえっ」
柔らかな毛質の金髪が印象的なフリッツはとても明るい好青年だ。
「そういえばですねー、あの郵便物今日も届いてましたよ」
「またなのね……」
「ほーんと、多いですね。いつまで送ってくるんですかねその人。もう婚約破棄になったんですよね? しつこい嫌がらせ厄介ですよねー」
フリッツは私とルーインの話を知っている。
もっとも、彼に話したのは今回のループでの話だけだけれど。
さすがにすべてを話すことはできないだろう? 何度も同じところをループしているだなんて。いきなりそんな嘘みたいなことを言って信じてもらえるだろうか? 答えはノーだ。そんなことを言っても本当のこととは思ってもらえないだろうし、私がおかしいと思われるのが関の山だろう。そんな風に思われてしまうようなことを敢えてするほど私は愚かではない。せっかくの良い話し相手なので、できれば嫌われたくないし。
「一応お渡ししておきますね」
「受け取ったわ」
理不尽に婚約破棄され、ルーインから嫌がらせを受けている、そんな私にとってフリッツと言葉を交わす時間というのはとても重要な時間となっている。
「本日もお気をつけて!」
「ありがとう、そっちこそ安全にね」
話題は大抵どうでもいいようなことだ。
昨日食べたものとか。
街で見かけた花とか。
重要な話や踏み込んだ話をするというのはたまにだけである。
でも、そんな彼との時間こそが、私にとっては偉大なる癒やしの時間。
フリッツのことを愛しているわけではないけれど、彼とは、いつまでもこんな風に仲良しでいられたらいいなと思っている。
男女の友情なんて永遠のものではない。
そんなことは分かっている。
だからきっとこの関係も永遠に続けてゆくことは不可能だ。
でも、それでも、今はただ……。
小さな幸せを感じられる時間を大切に想い抱いていたいのだ。
「変な手紙また届いたの?」
「あ、お母さま」
「そろそろ文句言ったほうがいいんじゃない?」
「いやそれは避けたいの……」
「そう。まぁ確かに最初から言っていたものね、無視しておきたいって。でも本当にそれでいいのかしら」
「うん、ちょっと事情があって」
「分かったわ。でも、文句を言いたくなったらすぐに言うのよ。必ず、親として力を貸すから」
どんな時でも優しい笑みを向けてくれる母に対し、私は「ありがとうお母さま」とそっと礼を述べた。
「そういえば最近あの郵便屋さんとよく話してるわね」
「あ、うん。フリッツっていう名前」
あらそう、と、母は嬉しげな色を唇に滲ませる。
「仲良しなの?」
「ほぼくだらないことしか話してないけど、彼と喋るのはとても楽しくて」
「それは素敵なことね」
「仕事は郵便屋さんだけど実家はお金持ちみたい」
「あらそう。そんな情報まで? 彼のこと、結構詳しいじゃない!」
「何も自分で調べたわけじゃないの。話の中で出てきただけで」
母は「良いことね!」と弾む声で返してきた。
何か勘違いされているような気がしないでもない……。




