2話「実家暮らしは楽しいです」
完全な実家暮らしに戻った。
ここでの日々はとても心地よいものだ。ゆえにもうずっとここにいたいと思っている。幸い、優しい両親はそれでいいと言ってくれているし。
これまではこのタイミングでルーインとの件をどうにかしようと動いていた。だがそうやって動き始めた途端、時間が過去へと遡ってしまう。毎回そうだった。そしてまた婚約するところから始めることとなってしまうのだ。
ならばルーインとの件に関して動かなければ良いのではないか。
そうすれば時が遡ることもないのではないか。
今回はそれを確かめるためにルーインとの件に触れず過ごすことにした。
「オリヴィエ、ケーキ買ってきたぞぉ!」
「ありがとうお父さま」
「モンブランあったぞぉ! 確かオリヴィエはモンブラン好きだったよなぁ?」
「ええ大好き」
「はははぁ! 良かったぁ! もしこれで間違っていたら、大慌て汗だらだらのところだったぞぉい」
父は娘大好きお父さん。
少々言動にイタさがあるが悪い人ではない。
「じゃあお茶淹れましょうか」
「いいの?」
「もちろんよ。ケーキには紅茶かしら。この前買ってきたあれを試しに淹れてみるわね」
「あ、この前の!」
「それでいいかしら?」
「それにする!」
母は優しくて美人。
常に柔らかな空気をまとっている人でどんな時も味方でいてくれる。
私にとってここは最高の居場所だ。
「淹れられたわよ」
「ありがとうお母さま」
「この紅茶、甘い香りがするわね」
「早く飲みたい!」
「ふふ。どうぞ。熱いけれど飲めないほどじゃないと思うわ」
「気をつけつつ飲むね」
こんな感じで、私は両親から大層可愛がられている。
十分恵まれた環境。
周囲の優しさに包まれている日々は幸福そのもの。
これであとはあの身勝手男に振り回されなければ完璧なのだが……。
取り敢えず今はこの幸福に身を置いてただ癒されていよう。
先のことはこれから考える。
慌てて一歩を踏み出す必要はない。
「モンブラン美味しい!」
「そうかぁ! それは良かったぞぉ! 父、感動だぞぉい!」
オリヴィエ・ヘンザリッテは不幸ではない。
だからこそ今ここにある幸せを護っていたい。
もう絶対に過去に戻されたりしない――!
私は自由に生きる。
私の生きたいように生きてゆく。
そのくらいは許してほしい。
私は悪いことはしていないのだから、そのくらいの自由はそろそろ与えてほしいところだ。
好きなように生きる。
その願いを叶えるためにも、いつまでも過去に縛りつけられているわけにはいかない。




